2.大吉、黒島に立つ(2)
「良かった。仕事が出来て本当に良かった……」
役場がニョキニョキと生えてくる様を皆で眺めながら、大吉は呟いた。
働かざる者食うべからず。
長い間の休みは身体がなまり、自らの労働ではない食事は心を腐らせていく。
ついでに世間体も非常によろしくない。ちょっとした事でも働いて報酬を貰った方が心も身体も健やかなのだ。
そんな大吉に配慮したのだろう、谷崎は大吉の申し出を快く受け入れてくれた。
大吉が貰った仕事は日用品や食料品などを自衛隊内の売店に配達する仕事だ。
さすがに武器は扱わない。
どんな武器でも輝き一発こてんぱんな隣のエルフィンがダントツ一番危ないが、とにかく武器弾薬は扱わない。危険物素人の大吉も安心だ。
それにしても……うちの会社、後先考えてなかったな。
というかうちの店の国際条約違反を知っていたなと「黙ってりゃわかりゃしねぇよ」とのたまった同僚達にトホホな大吉だ。
国際条約違反で名指し批判されたら荷扱いは激減する。それを未然に防ぐための措置だったのだろう。それは大吉にも理解できる。
「しかしうちの会社、後は自力で何とかしてくれはないだろ」
「しゃーないでぇ。大吉様は今や支店長。仕事は勝ち取るのが当たり前や」
「うわぁ!」
立場が上がると責任も増える。
自己責任か! そういう理由で支店長なのか! と心で叫ぶ大吉だ。
「まあ気にしたらハゲるで大吉様。それより黒島巡りを再開や」
「そうだな」
とりあえず仕事は作ったのだ。
後の事はまた考えようと頭皮を撫でながら大吉と一行はバスに乗り込む。
走り出したバスはやがて広い道に出た。
「ここがメインストリートやー」
「でけえよ!」
航空機の滑走路としても利用するメインストリートは幅五キロ。
地上から見るとすげぇな……向こうの地面が見えん。
そう思った大吉がスマホで調べてみると地上から見える地平線までの距離がおよそ五キロメートルらしい。なかなか見えない訳である。
ちなみに調べた際のスマホ電波はエルフィンの輝き通信で何とかしてもらった。
輝き万歳。
「空気の揺らぎがすごいですね」「蜃気楼ですわ」「お水です!」「違います、逃げ水です」
「そりゃ見えるよなぁ」
メインストリートは滑走路としても利用されるのでがっつり舗装されている。
南国太陽の輝きマックスで蜃気楼も絶賛仕事中。黒島ヒートアイランドだ。
「ひろいー」「たいらー」「走って、いい?」
「いいぞ」
「「「わぁい!」」」
にぱっ。
アイリーン、マリー、エミリが輝き笑い、ロボが輝き転送される。
がしょん、がしょん、がしょん。
グラン、アクア、ウィンザーが楽しそうにバスと併走する。
ロボは見た目機械だが中身は機械妖精グレムリン。
筋トレのようなものだろう。気分は犬のお散歩だ。
「しかしこの道路、歩いて渡ったら途中でぶっ倒れそうだな」
「その時は私におまかせ下さい」
「いや、俺はいいんだが……谷崎さんとか自衛隊はどうするんだ」
「輝き根性で!」
「ねえよそんなもん」
道路に限らず迷子になったら行き倒れ確実。
店も無ければ案内も無い。ガソリンスタンドや道の駅も無い。
オカルト必須な超秘境。おいでませ黒島。
こんな所を軽自動車で回らねばならない谷崎に大吉は心で涙する。
谷崎さん、ガンバ。
大吉がそんな事を思いながらメインストリートを走っていると、水平線の向こうからバウルの枝葉が現れた。
「お、バウルはんがイカの散歩から戻ってきたでー」
「え? イカって散歩必要なの?」
「エサが豊富な所にいくんやて」
「まず、エサを養殖しろ」
そのうち漁場荒らしでどこかの国から訴えられるぞ。
大吉が頭を抱えているとバウルがこちらに気付いたらしく、沿岸にイカを放つとしゅぱたんと駆けてくる。
「大吉様ーっ!」
メインストリートは幅五キロ。
しかしバウルにとってはこれでも狭い。左右の根をひょいっと持ち上げてしゅぱたんと駆ける姿はドレスを着た女性が裾を持ち上げて駆けているようだ。
そしてバウルから降ってくる黒軍のお馴染み軍団長メンバー。
ブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒムだ。
「我らがイカの散歩をしている間に、大吉様が赴任されているぞ!」
「くそっ! 太陽の高さからまだ余裕があると思っていたのに!」
「だま、された」
「ホホホ。地球は丸いですからなぁ」
どこまで行ってたのよ、お前ら?
と、政府から小言を食らうであろう谷崎に心で謝る大吉だ。
そして着地する皆を見れば、いつもと姿形が違う。
「大吉様! 黒島支店長就任おめでとうございます!」
「……ぶるるん?」
ブリリアント、ぶるるん生活。
そしてガトラス、ボルンガ、ビルヒムもぶるるん生活。
皆とても誇らしげだが、しかし……
「どうですか大吉様! 我らのぶるるんの勇姿は!」『『『サケーッ!』』』
「……いや、大型トレーラーの積載物にしか見えねぇ」
トレーラーの荷台に乗ってどうすると、ツッコミを入れる大吉だ。
「さあ皆の者! 大吉様とぶるるん走行だ!」「「「わぁい!」」」
「お前ら輝いた方が絶対速いだろ!」
バウルの上からぶるるんに乗った軍団の皆が降ってくる。
大吉の乗るバスの周囲、オカルトぶるるんだらけ。
密集走行とか迷惑走行行為だ。おまわりさーん!
と、相変わらずの皆に頭を抱える大吉。
しかしエルフィン達は涼しい顔だ。
「どうだエルフィン。我のぶるるんはイカすだろ」
「ブリリアント。わかってませんね」
「ブリリアント様……そのズレた振る舞いを奥方様から愚痴られる私の身にもなって下さい」
「そうです。わかってないです」
「甘いですね皆様」
「「「わかってなーい!」」」
「「「「「なぬぅ!」」」」」
ぶるるんな皆が殺気立つ中、エルフィンが言い放つ。
「そんな事をしたら大吉様のぶるるん助手席に座れないではありませんか」
「そうですわ」「です」「はい」「「「いっしょわぁい!」」」
「「「「「なんと!」」」」」
エルフィンの一言で黒島ぶるるんブーム、終了。
熱狂ブームは素に戻った時に崩壊する。
彼らは今、大人へと一歩成長を遂げたのだ。とっくの昔に大人だが。
「つまりこれからは大吉様のぶるるんに乗れば良いのだな!」「乗らん」
「俺らはでけぇから助手席は無理だが、荷台ならワンチャン!」「ムリ」
「にだい、にだい」「だから、ムリだから」
「我々自身を荷物にすれば良いのでございますね」「やめい」
そして軍団の皆も騒ぎ出す。
「輝き送り状を用意しろ!」「荷運びなら料金払えよ?」
「輝き現金!」「犯罪だ!」
「あっはっは。大吉様さすがやなぁ!」
そして始まる次の熱狂ブーム。
もうお前らホント黒捨てちまえ。
皆とぶるるんで走りながら、大吉は再び頭を抱えるのであった
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