1.大吉、黒島に立つ(1)
「……暑いな」
辞令から一週間後。黒島。
大吉とエルフィン、フォルテ、エリザベス、セカンド、そして三幼女の一行は黒島の地に立っていた。
さすが日本のEEZの穴を埋める為の島。南の方にあるだけの事はある。
緯度は沖縄とだいたい同じ。日本の南国リゾート地と同じくらい南なのだからこの気候も納得だ。
「大吉様、何度かいらしてますよね?」
「バウルに乗ってたからな」
エルフィンの言う通り大吉は来た事はあるのだが、その時はバウル上。
冷暖房湿度調整完璧の至れり尽くせりバス旅行と言った感じで、あまり暑かった印象は無い。
しかし実際に自分の足で立ってみるとさすが南国。暑い。
そして太陽が高い。周囲に何もないから空気もきれい。太陽も輝きマックスだ。
「眩しいなぁ」
「輝きでは負けません!」「そうですわ!」「です!」「その通りです!」
「でしゅ!」「です!」「ですぅ!」
「いや、お前ら黒はどうした?」
べべべべべべべかーっ!
太陽よりも眩しいエルフィンらに目を細める大吉。
オカルト慣れしているせいか輝きスルーも慣れてきた。どうでも良い事ではあるが。
そんな事を話しながら輝き転送ゲートの前で待つ事数分、マイクロバスに乗ったミリアが現れた。
「おーっ! 大吉様おこしやすーっ!」
さすがエセ関西弁。いろんな地域の言葉が混ざる。
「ぶるるん!」「ぶるるんですわ!」「です!」「確かにぶるるん!」
「「「ぶるるんだー!」」」
「へぇ、ミリア免許持ってたのか」
そしてエルフィン達はミリアが車を運転している事に驚愕する。自分達は運転した事ないから羨ましいのだろう。
ミリアは皆の羨望のオカルト眼差しににんまり笑顔。華麗なハンドルさばきで大吉の前に停車した。
「どうやー、わてのぶるるんは」『『『サケーッ!』』』
「グレムリンじゃねーか!」『『『バレターッ!』』』
くっそ、感心して損した。
これはぶるるんじゃねー。ぶるるんの形をしたオカルトだ。
「ここは黒の十四軍の本拠地やから何でもアリや。気にしたらハゲるで大吉様」
「それもそうか」
しかしここがオカルト本拠地と聞けばそんなもんかと納得。
大吉、すっかり染まっている。
「さあさあ乗った乗った。サクッと皆に挨拶するでぇ」
ミリアに従い皆でバスに乗れば、あっという間に最初の目的地だ。
「港やー」
「おぉ」
港湾施設はすでに完成しており、お子様ランチの旗のごとく山頂に鎮座していた護衛艦こんごうも今はプカプカ浮いている。
港はオカルトしか住んでいないのにかなり広い。はるか彼方まで岸壁だ。
「でかいな」
「艦長はんと自衛隊の言う事聞いて、ずばっと作ったでぇ。世界で泳いどるどんなデカイ船でも接岸可能。黒の艦隊も接岸できる。できへんのはクーゲルシュライバーくらいやな」
「あれは黒島よりでかいからな」
ついでに接岸する船に応じて桟橋が伸びたり縮んだりするらしい。
とんでもないオカルトハイテクだ。
「黒の艦隊用に立体接岸も可能な作りやでー」
「立体駐車場かよ」
バスは岸壁を走り、こんごうの前で止まる。
こんごうの乗組員と飯塚艦長が大吉一行を待っていた。
「ようこそ黒島へ。井出大吉君」
「すみませんみなさん。俺のせいでこんな僻地にすみません」
「海の上よりはずっと都会だよ。彼らとは常識の違いはあれど仲良くやっているから気にしなくていいぞ」
黒の十四軍の呼称を決める時に会った飯塚に、大吉はぺこぺこ頭を下げる。
ミリアが大吉に言った。
「艦長はんは港湾管理担当や」
「え? 港湾管理って自衛隊なの?」
「条約とか何とか色々あるからわてらがやったらあかんやろ?」
「いや、この港だけでもうアウトな気もするが……」
「黒の艦隊で使うもんのついでやからノープロブレム!」
「……いや、ダメだろ」
ダメだこいつら。会社の同僚とは別方向でダメな奴らだ。
出来る事をあえてしないという事が意外に難しい事に大吉は気付き、何とかせねばと心に決める。
「そんでー、あれが大吉様の店や!」
ミリアが指さす先には、港と隣接した彼方まで続く巨大トラックターミナル。
そしてオカルトの誰かが運び込んだのだろう、大吉のぶるるんが端にちんまり止まっていた。
「東京の物流拠点を参考にしたんやでぇ」
「でけえよ! というか東京よりもずっとでけえよ!」
あれは首都圏の膨大な物流を維持するために巨大なのだ。
宛先が自衛隊と役場しかないこの黒島で、こんな巨大なものが必要な訳がない。
そんな広い建物に、大吉のぶるるんがぽつんと一台。
新築なのに廃業した巨大倉庫のような有様だ。
「そういえば飯塚さん、自衛隊って荷物は自前……ですよね?」
「そりゃそうだよ。ちなみに船も飛行機も自衛隊と政府関係の奴しか来ない。来る荷物は自衛隊か防衛省の荷物ばかりだから……君の仕事は無いね」
すげえ。わかってたけど民間の俺の仕事まるでねぇ。
大吉がそんな事を考えている間にも、ミリアの施設紹介は続く。
「そんでその隣が、役場やでぇ!」
「小っちゃ!」
巨大トラックターミナルの脇にちんまりと立つ役場に、思わず叫ぶ大吉だ。
見た感じをぶっちゃけてしまえば、駅前の交番。
机二つくらいがやっと並ぶ事務室と狭い仮眠室がある。そんな感じであった。
役場の駐車場には軽自動車が止まっている。
あれで北海道より広い黒島を回らなければならないのかと、谷崎に涙する大吉だ。
ミリアがガハハと笑う。
「オマケって聞いたんでなー、大吉様の部屋を参考に作ってみたんや」
「役場なんだから市役所とかを参考にしてくれよ」
黒島も大吉の仕事も、すでに色々ダメである。
大吉は飯塚に聞いてみる。
「艦長……俺の仕事、何かありませんかね?」
「まず谷崎に相談してくれ。さっき役場の前で呆けてたから役場も何とかしてくれると有り難い」
「すみません。本当にすみません」
役場に陳情して、荷運びの仕事を分けて貰おう。
黒島支店長井出大吉は、さっそく谷崎の所へ営業に向かうのであった。
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