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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-4.そして、欲望が現れる
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16.やっぱりしれっと現れた(3)

 次に立ち上がったのはエリザベスだ。


「第八軍、聖軍。軍団長の黒の銀狼、聖女エリザベス・ウルフハウンドです」

「ケモミミだ!」「黒なの?」「銀なの?」「こんなのばっかじゃん!」


 とんでもない奴らが来たと身構えて会場に来てみれば謎の黒大プッシュ。

 そして食っちゃ寝遊ぶ気マンマン。

 こんな奴らにマジになっちゃってどうするの?

 と、だんだん黒の十四軍に毒されてきた皆である。


「あのー、聖女といわれますと治療魔法とか得意なのですか?」

「傷なんて舐めれば治ります」

「「「また夢が壊れた!」」」


 聖女なのに治療はいい加減。

 アバウト過ぎる。


「それではなぜ聖女なのですか?」

「幻獣の集団、聖軍を召喚できるからです」


 エリザベスが輝き、幻獣が現れる。

 輝く獣に皆がどよめく中、エリザベスが胸を張る。


「召喚できる数は五千以上です」

「また一人軍団だ!」「でも、第一軍ほどではないぞ?」「あっちは二十億だもんな」「五千と二十億じゃえらい差だ」「たいした事ないな」


 エルフィンは万単位で輝き分身を止めているけど気にしない。

 すっかり毒されてしまった皆である。


「任務は大吉様の身の回りのお世話と、山の主です」


 害獣や遭難や山荒らしを地味に減らすお役立ち。それが第八軍だ。

 珍しく黒島オンリーにならないのはエルフィンの実家のじいさんが獣に畑仕事をさせているためだ。


「あの、資料によると獣と会話出来るそうですが……畜産とか、どう思います?」


 エリザベスはにっこり笑う。


「肉って、美味しいですよね!」

「「「うわぁ!」」」


 さすが狼。肉大好きだ。

 そして割り切りも仲間と敵(食い物)ですっぱり。食われたくなければ戦えという精神であった。


「第九軍、ロボ陸軍グランとアイリーンでしゅ」

「第十軍、ロボ海軍アクアとマリーでしゅ」

「第十一軍、ロボ空軍ウィンザーとエミリですぅ」


 着席したエリザベスに続き立ち上がったのは三幼女だ。


「今度は幼女」「そしてロボ!」「赤、青、白か」

「赤黒でしゅ」「青黒です」「白黒ですぅ」

「いや赤でしょ」「青だよな」「白だよ」

「「「うぅうううう……」」」

「「「ああ! 黒は大事! 超大事だね黒最高!」」」


 皆、慌てて幼女のご機嫌をとる。

 涙目の幼女最強だ。


「それにしても、また一人軍団か」「ロボがいるから二人軍団?」「増えるの? 幼女増えるの?」「いいなそれ」

「それは私からご説明いたしましましょう」


 勝手に盛り上がる皆に、司会が解説を始める。

 バウルの壁が輝き、機械妖精グレムリンの工作映像が投影される。


「彼女達のロボには機械妖精グレムリンが多数生息しており、これらを放出して周囲の物質に憑依、加工を行う事により軍団を編成いたします」


 物質に憑依し、移動し、精錬し、変形し、組み立て、完成、憑依終了。

 部品が組み上がり完成品となるコマーシャル映像を見ているようだ。

 驚異的な第二次産業に皆が叫ぶ。


「「「なんて便利な!」」」

「試しに陸海空の現代兵器を作ってもらったところ性能は圧倒的で、機銃弾がミサイル以上の能力を示したそうです」

「「「そしてデタラメ!」」」


 幼女だからと言ってナメちゃいけない。

 機銃弾が誘導弾以上。そりゃ制限条約が議論される訳である。


「黒島も作ったでしゅ!」「海底から積み上げたです」「がんばったですぅ」


 自慢げに語る三幼女に、記者が手を上げ質問する。


「あのぅ、労働基準法はよろしいのでしょうか?」

「「「んー?」」」


 三幼女はしばらく考え、にぱっと輝いた。


「おてつだいでしゅ」「肩たたきと同じです」「とんとんですぅ」


 島作りと肩たたきが同格。

 オカルトに法律を適用するのが間違い。

 祟り神と同じく捧げ物をして何もしないで下さいと崇めるべき存在であった。

 そして三幼女が座り、セカンドが立ち上がる。


「第十二軍、宇宙軍。軍団長は艦隊旗艦クーゲルシュライバーの分身、セカンド」

「ボールペンだ」「ボールペンだよな?」「ボールペンだよ」「なぜ?」

「……」


 皆の囁きに赤面する大吉だ。


「十二軍の任務は……特にありません」

「「「へ?」」」


 そしてセカンド、いきなり何もしない宣言。

 あっけにとられる皆である。

 他の軍は超絶便利だがあくまで地球上の活動。人でも何とかなる。

 しかし黒の艦隊の活動範囲で人類が到達出来ているのは月面までで、それ以上は未踏の領域。

 誰もが憧れながらも手が届かない夢のフロンティア。それが宇宙なのである。


「宇宙船ですよね? 何かしないのですか?」

「大吉様と遊ぶのは当然として、あとは……黒豆? イカ? パスタ?」

「「「また第一次産業!」」」


 しかし太陽系外からやって来た黒の艦隊、畑を耕す気マンマン。


「宇宙は?」

「宇宙なんて何も無い空間がのぺーっと広がってるだけですよ? 気密とか慣性とか厄介ですし、地上で危険な天体を弾いてた方が楽なんですよね」

「「「ええーっ!」」」


 そして宇宙当たり前だから宇宙に対して夢が無い。

 セカンドは面倒臭いから嫌ですといった雰囲気マンマンだ。


「いや、あんな素晴らしいな宇宙船をお持ちなのに、なんて勿体無い」

「何かに利用するご予定はありませんか? 例えば天体観測とか」

「黒の艦隊は戦闘艦隊ですから大吉様に刃向かう者には容赦しませんが……皆様、刃向かうのですか?」

「「「めっそうもない!」」」


 バウルと花火大会という名のこてんぱん合戦をした事は皆の記憶に新しい。

 観客はたまやかぎやと叫んでいたが一発でもあれを食らえば首都圏こてんぱん。全世界でやられたら人類総こてんぱんだ。

 ほとんどの者は宇宙よりもこてんぱん回避。宇宙開発を諦める。

 しかしロマンをあきらめられない者は惑軍との交渉を決意する。

 無謀も迷惑も知ったこっちゃない。夢とは厄介な物なのである。

 そしてセカンドが着席し、最後の者が立ち上がる。

 ミリアだ。


「第十三軍、生産軍。軍団長のミリア・トゥルーフィールドや。そして手下は愉快な酒好き機械妖精グレムリン。酒は大歓迎やでぇ」

『『『サケー!』』』


 エセ関西弁でミリアが元気に挨拶し、周囲を機械妖精グレムリンがピカピカ輝きながら飛び回る。


「グレムリンだ」「ロボ幼女三軍でも出て来たな」

「わてはロボ嬢ちゃん達の拡大版と言ったところや。手下が何でも作るでぇ」

「あー、第二軍が収入いらんと言ってたのはこれが理由か」「自前で作れるなら収入なんぞいらんよなぁ……」「第二次産業が大規模に出来るんだもんなぁ」


 生産軍だから何でも作る。

 そのレパートリーは三幼女よりもはるかに多く、配下のグレムリンの数も多い。三幼女のロボが惑星開拓用ならばミリアは惑星発展用。下地の出来た星に大規模な生産拠点を作り物資を製造するのがミリアなのだ。


「せやから物資の製造が専門なんやが、とりあえずわてらの任務は黒豆とパスタの製造環境の構築や。具体的には鍋とキッチン、そしてパスタ製造機やな」

「「「またかよ!」」」


 こんなのばっかりだ! 超絶デタラメ技術なのにこんなのばっかりだ!

 平和利用と言えば聞こえが良いが超超超絶勿体無い。宇宙も新島も製造技術もぶん投げて大吉と黒豆とイカとパスタに全振りだ。


「あのー、その技術を世界で活用する気はありませんか?」

「何? あんたらも鍋が欲しいのか? それともパスタか?」

「いえ、世界の製造業で使う気はありませんか、という意味ですが」


 記者の質問にミリアが笑う。


「やってもええけど、わてが作ったらあんたら食い扶持なくすでぇ? 何でもかんでも手下がホホイと作るでぇ? こいつら酒好きやからな。缶ビール一本であんたのカメラとかホホイと作りやがるでぇ? コスパ太刀打ちできるんか?」

「「「……」」」


 太刀打ちできる訳がない。

 プロ仕様のカメラが缶ビール一本と等価ではメーカーは商売あがったりだろう。

 唖然とする皆にミリアは宣言した。


「わてらは大吉様と楽しむ為にここに来た。それ以外はいらんし欲しくもない。せやから黒島でのほほんと暮らしていたいんや。多少の事は手ぇ貸してもええが甘えるつもりならこてんぱんや。うちらの大吉様がまだまだ働く気なのにあんたらに楽させる理由なんざこれっぽっちもあらへんからなー」

「「「え? これだけ至れり尽くせりなのにまだ働くの?」」」

「「「「はぁ?」」」」


 べかーっ! べかーっ!!


「いえいえ! どうぞ好きなだけ働いて下さい!」「もう定年までガッツリ働いて!」「生涯現役! 素晴らしい!」


 こてんぱん怖さに大吉をヨイショする皆だが、正直に言えば働いて欲しくない。

 こう言っちゃ何だが今や大吉は世界の命運を握る存在だ。そこら辺で集配トラックぶるるんされると回りが扱いに非常に困る。ちょっとした事でこてんぱんを心配しなければならないからだ。


「すみません。うちの皆が本当にすみません」


 皆の心情をわかっているのだろう、大吉が深く頭を下げる。

 その姿に皆、仏の姿を見る。


「見ろよ、後光がまぶしいぜ」「そりゃ第一軍の輝きだよ」「あれぇ?」


 錯覚だった。

 実際は普通の常識を持っているだけなのだがそこはそれ。回りが酷いとその分底上げされてしまうものである。

 すっかり皆がオカルトに毒された頃、一人の記者が質問した。


「ところで、十四軍は無いのですか?」


 その言葉に、いきなり司会が語り出す。


「えー、それでは私が第十四軍のご紹介をさせて頂きます」

「へ?」


 大吉が素っ頓狂な声を上げる。

 そして会場にいる全ての者が唖然と見つめる中、司会がいきなりぶっちゃけた。


「第十四軍、諜報軍。私が副軍団長の『A』でございます」

「「「えーっ?」」」

「はい。Aでございます。軍団長は顔バレしたくないとの事で、私が代理としてこの場でご挨拶をいたします」


 司会、いやAは大吉に深く頭を下げた後、皆に告げた。


「諜報軍はその名の通り諜報に長けた軍。我が諜報軍はどこにでも潜み、二十四時間皆様に目を光らせております。ムッシュ・ノワール、いえ大吉様に害をなそうとするならば、必ず罰を受ける事でしょう。それでは失礼いたします」


 そして司会は一礼するとぺかっと輝き、消えた。

 残るはAが手にしたマイクのみ。本当に何の痕跡も残さず消えてしまったのだ。


「大吉様、探しますか?」

「いや……別にいいだろ。俺らに何かする訳じゃなし」


 皆、改めて理解する。

 このオカルト共はデタラメだ。人類がどうこうできる代物ではない。

 言ってしまえば祟り神。

 大吉は祟り神を鎮めるための生け贄。祟り神への供物なのだ。

 世界の命運、大吉の良識に託される。

 そして皆、決意するのだ。

 こいつに深く関わるのは、やめておこう。

 絶対ロクな事が無い。と。




 しかし……その場にいなかった者には、その決意は伝わらなかったらしい。




『……しかし彼の周囲、不思議とすこぶる女性が多い』


 次の日。

 全国ニュースでこう言われた大吉は、食堂で羞恥にのたうち回るのであった。

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