14.やっぱりしれっと現れた(1)
『黒の十四軍 結成式典』
東京湾、要塞世界樹バウル広場。
大吉はずらりと並ぶ政府関係者とマスコミ関係者を前に、何でこんな場違いな場所の中心に俺はいるのだろうと大吉は首を傾げていた。
事の発端は名称を求めた谷崎だ。
黒の十四軍、ブラックフォーティーンと名称を定めたと谷崎が政府に報告したところ、大々的にお披露目をしろと政府から指示を受けたのだ。
名称は周知してこそ意味がある。
と、周知を当事者たる黒の十四軍にぶん投げたのである。
「すみません井出さん、本当にすみません」
「いえこちらこそすみません。こんな事で土下座させてしまい本当にすみません」
大吉が強烈に嫌がる事を知っている谷崎、初手から土下座。
初対面の頃なら拒否しただろう大吉も、今は一緒に朝食を食べる仲。
まあ、結婚披露宴みたいなもんかと谷崎の土下座を受け入れ、こんな事で土下座させてしまいすみませんと大吉も土下座を返す。
互いに土下座しあう仲でもあった。
そうして全世界に結成式典が通知され、会場の東京湾にバウルが現れ、各国代表が、そして世界中のマスコミがバウルに入る。
「大丈夫なのか?」「生き物なんだろ?」「食われないよな?」
皆、はじめてのオカルト入りに緊張半端無い。
無遠慮にカメラを回してはいるが竜や巨人やスライム、屍を前に大人しく順路を進み、広場に用意された指定席に着席する。
その様子を全世界に放映するのは黒の艦隊だ。
バウルの上に停泊する旗艦クーゲルシュライバーが会場内の様子を全世界に展開した艦艇に送り、艦艇が空に式典を中継する。
我らの黒、大吉様の勇姿を魂に刻め。
何があろうと大吉を持ち上げる黒の十四軍は今回の式典に超ノリノリ。
大吉だけが羞恥に頭を抱えていた。
「えー、それでは『黒の十四軍』結成式典をはじめます」
政府が手配したのだろう、人間の司会が淡々と式典のはじまりを宣言した。
「まず、黒の十四軍の長。『黒』。井出大吉様でございます」
「黒!」「いい歳して黒!」「それも一文字!」「すげえ!」
招待者がざわめき、フラッシュが輝き、超痛い視線が注がれる。
あぁ、披露宴ってこんな感じなのかな……
まだ伴侶のいない大吉はそんな事を考えながら、ひきつる笑顔で頭を下げた。
旧友や親戚が無礼講とばかりに恥の暴露をしてくる披露宴との大きな違いは、黒の十四軍の皆が本気で素晴らしい事と思っている事。常識の違いから来る悲劇だ。
司会が大吉の紹介文を読み上げはじめた。
「大吉様は我らを導く尊き黒。ある者にはクロノとして、またある者にはネーロとして、アーテル、メラン、シュバルツ、ブラックとして我らの心に燦然と輝く黒。それが我らの黒、井出大吉様である」
「黒だ」「全部黒だ」「外国語なだけだ」「黒が燦然と輝くって意味わからん」
参加者が首を傾げる中、司会の言葉は続く。
「我らと大吉様の出会いは偶然だが、この再会は必然。なぜなら我らの魂に大吉様から頂いた黒の輝きが宿っているからである。我らのこれまでの道に違いはあれど黒の輝きは皆同じ。故に大吉様のもとに集い、行動を共にする事に決めた。我らの呼称『黒の十四軍』の黒は大吉様に他ならない。我らは大吉様と共に歩む決意と覚悟がこの名に宿っているのだ……」
誰だよ、このこっ恥ずかしい紹介文書いたのは……
大吉が左右を見れば皆、どうだすごいだろうと自信満々。谷崎ですらにこやかに聞いている。全員共犯だ。
司会は淡々とこっ恥ずかしい文章を読み上げて大吉の紹介を終えた。
「何かご質問のある方は、挙手をお願いします」
司会の言葉に記者の一人が手を上げる。
「あのー、こんな事を聞くのも野暮かと思いますが……その歳で黒とか、恥ずかしくありませんか?」
「「「「はあ?」」」」
べかーっ! べかーっ!!
「「「ぬあっ! 眩しいっ!」」」
ぶしつけな質問に怒り輝く、黒の十四軍。
皆、目がくらんで質問どころではない。
ある者は資料、またある者は鞄で防ごうとするが壁を貫通するオカルト閃光がそんなもので防げる訳もない。
鉄壁の輝きガードに参加者は地雷を踏み抜いた事を確信する。
黒の十四軍に黒を恥ずかしいと言ってはならない。地雷だ。禁句だ。
きっと黒は彼らにとって神なのだ。宗教の信仰と同じなのだ。
質問をした記者が叫ぶ。
「すみません質問を取り消します! 黒最高!」
「「「「よろしい」」」」
ぺっか。輝きが霧散する。
落ち着きを取り戻した皆が見たのは赤面する大吉に笑いをかみ殺す谷崎、そして特等席で突っ伏してテーブルをバンバン叩いて震える五月あやめ。
五月あやめ、ここでも自由であった。
「それでは、他に質問は?」
司会の言葉に手を上げる者、なし。
井出大吉、現人神扱い。
触らぬ神に祟りなし。
参加者は大吉に触れるとロクな事にならない事を、怒りの輝きで理解したのだ。
司会は会場を見回して挙手の無い事を確認すると、式典を進行させた。
「続きまして十四軍団の紹介に入らせて頂きます」
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