13.誕生、黒の十四軍
「そろそろ、皆さんに固有の名称を付けて頂けませんか?」
日曜日の朝、大吉アパート食堂。
新島騒ぎが一段落してのんびりしている大吉と皆に、すでに朝食の常連と化した谷崎が言った。
「名称?」
「はい」
「大吉さん、テレビつけますね」
相変わらずマイペースなあやめがテレビのスイッチを入れる。
『今日の皆既黒の艦隊食は十一時三十五分からの予定です』
「なにそのネーミング……」
いきなり流れる謎ネーミングに大吉が首を傾げた。
まあ意味はわかる。
皆既日食のようなものがクーゲルシュライバーで起こるとという事だろう。直径六百キロの物体が月より大きく見える距離にいるのだ。太陽くらいサクッと隠れる。
宇宙船だからその気になれば常に太陽を隠す地域を作る事だって出来る。浮いているだけで脅威なのであった。
「あれもそろそろ何とかして欲しいですね」
「すみません。黒島での居住環境が整い次第、月軌道に移動しましょう」
谷崎のぼやきにセカンドが頭を下げる。
あやめが再びリモコンを手にとった。
「チャンネル変えますね」
ピッ『皆既宇宙船食が……』ピッ『皆既怪獣食』ピッ『皆既黒軍』ピッ『皆既クーゲルシュライバー食』……
チャンネルを変える度に皆が好き勝手な呼称をしている。
谷崎が言った。
「ご覧の通りの理由で、政府が統一呼称を求められているのです」
「あー、これは確かにややこしい」
大吉に言わないあたりはオカルトを刺激しないようにとの政府の配慮だ。
そして本当に危ない案件には踏み込まないのがマスコミの常。
アパートで毎日起こる謎の輝き、屋上近くで目を光らせるガーゴイル、毎日見送りに手を振る為だけに現れるロボ、よく飛んで来る竜などの怪獣、そして周囲をうろつく自衛隊。
マスコミとて企業。確実に損をする案件には近付かないのだ。
「幸いにして現れている方々はみな、井出さんに縁がある者達です。統一名称を作る事に反対する者もいないでしょう」
「それもそうか」
谷崎の言うことはごもっとも。
皆、大吉縁故。大吉でひとくくりに出来る。
幸いにして今日は日曜。用事もない。
大吉は宣言した。
「じゃ、皆で相談して決めようか」
「それでは朝食の後、黒島に移動しましょう」
「今から名前を考えるです!」
「素晴らしいですわ!」
「なまえでしゅ」「すごいです」「かんがえるですぅ」
「素晴らしい名を考えねば」
にぎやかになる食卓。
「我らに新たな名が!」「すごい!」「これは一大事!」「ブリリアント様に連絡だ!」「「「「やっほー!」」」」
そして外のガーゴイルも騒がしい。
朝食と片付けを終えた大吉達は輝き転送で黒島へと移動する。
要塞世界樹バウルの広場で、ブリリアントが宣言した。
「これより、我らの名を定める」
参加者、オカルト。
オブザーバー参加、谷崎と護衛艦こんごうの飯塚艦長と梶山副長、そしてあやめ。
「まず、黒は絶対に外せませんね」
「「「「異議なし!」」」」
エルフィンの発言で、名称に黒を入れる事が満場一致で決定。
頭を抱える大吉だ。
「え? マジで? 黒が入ってるだけでこっ恥ずかしいんだが」
「ええっ!」
「大吉様のお言葉とは思えません! バウル驚愕!」
「大吉様、我らから黒を外したら何が残ると言うのです!」
「故郷の世界じゃ黒で通してたのに、こっちでは白とか格好つかねぇだろ」
「くろ、くろ」
「まったくでございます。それを外すなんてとんでもない」
「そうですわ大吉様、ここに集った者の共通項が黒なのです」
「魂の色を外すとかないです」
「くろでしゅ」「くろです」「くろですぅ」
「黒は大事です」
「うちもブラックやしなぁ」『『『ブラック!』』』
ぺっかぺっか輝きながら黒にこだわる謎集団。
呆れる大吉とオブザーバー達である(あやめ除く)。
そんな訳で、名称に黒を入れる事はあっさり決定した。
しかしそこから先が決まらない。
大吉を入れようと言って大吉が暴れ、井出を入れようと言って飯塚艦長が暴れ、黒豆を入れようと言って谷崎に却下され、ぬか漬けを入れようとあやめが言って全員に却下される。
進まぬ議論の中、ブリリアントが首を傾げた。
「バウルよ、そもそも我らはどのような集団なのだろうか?」
「トップは当然大吉様として、その下は大吉様をどう呼んでいたかで分かれるな」
ゲームタイトルの違いという奴だ。
「それと戦いを前提とした集団が多いですね」
「うちはちょっと違うけどなー」『『『サケー!』』』
そして基本は戦闘主体。
ブリリアントが呟いた。
「ふむ、つまり我らはそれぞれに軍団という事か。後は数で良いのではないか?」
「そうですね。まあ、私は一人で一軍になってしまいますが」
「「「「何か問題でも?」」」」
ブリリアントの言葉に同意するエルフィンにツッコミを入れる皆である
なにしろ黒の艦隊を一撃こてんぱん、黒軍の軍団も一撃こてんぱん。戦力的には一軍でまったく問題が無いのだ。
「ではそれで行こう。黒軍は元々六軍で編成されているからそのままだな」
「私も聖軍を出せば大勢です。一軍です!」
「一軍でしゅ」「一軍です」「一軍ですぅ」
「黒の艦隊はクーゲルシュライバーが統括していますから、一軍ですね」
「わては戦わないけど一軍やな」『『『『サケー!』』』』
皆が口々に叫び、エルフィンが集計する。
「すると私が一つ、黒軍が竜軍、鬼軍、惑軍、獣軍、樹軍、屍軍の六つ、エリザベスが一つ、アイリーン、マリー、エミリで一つずつ、セカンドが一つ、ミリアが一つで……十三軍ですか」
「黒の十三軍ですな」「ブラックサーティーン」「おお、何と素晴らしい!」
「いや、十四軍にしとけ」
「何故ですか?」
首を傾げる皆に、大吉が告げる。
「まだ出て来ていない奴らがいるんだよ」
この調子なら出て来るだろう。
その時に改名すると谷崎の心労が半端無い。
それ以上は……来ないよな? その後はスマホゲーくらいしかやってないし。
大吉の言葉で呼称を修正し、ブリリアントが宣言する。
「我らはこれより黒の十四軍、ブラックフォーティーンと名乗る事とする!」
「「「「おお!」」」」
皆が歓喜に叫び、ブリリアントがさらに宣言する。
「そして大吉様を公式の場では黒とお呼びする事とする!」
「へ? 何で?」
「当然ではありませんか。我らは大吉様の軍。そして大吉様は黒。故に黒の十四軍!」
正式名称、黒の十四軍。
そして組織の略称および代表たる大吉の呼称、黒。
「黒? 俺はそこら中から黒なんて呼ばれるの? 今さら?」
「「「「はい!」」」」
「ぬぅあ! こっ恥ずかしい!」
クロノは黒から取っている。
そしてネーロもアーテルもメランもシュバルツもブラックも外国語の黒。ゲーム内では大吉こそが黒にこだわっていたのである。
時が流れて大吉の趣向が変わっていても、皆はそんな事認めない。
「黒!」「クロ!」「我らの黒!」「素晴らしい!」
「ぬぅああこっ恥ずかしい! 大吉と呼んでくれ頼むから!」
大吉は叫び、過去の自分を恨むのであった
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