12.オカルト、新島を開発する
「大吉様! これが大吉様に捧げる島、黒島でございます!」
「……でけえな」
しゅぱたたたんとウキウキスキップなバウルの上、大吉は新島を見下ろし呟いた。
島サイズは北海道よりちょっと大きい。でかい、でかすぎる。
しかし全高五千メートル超、キロメートルスケールのバウルにしゅぱたたんと案内されるとあっという間に全島一周。もしかして小さい? と錯覚する大吉だ。
さすが要塞世界樹、大吉とのスケール差は千倍以上だ。
黒島は全体的に丸くてなだらか。
中心に大きなカルデラ湖を持つ大きな山があり、その周囲を五つの同じ形をした湖がぐるりと囲み、湖から島の全方向に川が細かく分岐しながら流れていく。
自然の川は合流する事はあっても分岐することはあまりない。
しかしここでは川は分岐しまくり用水路のごとく。さすが人工島である。
「がんばったでしゅ!」「がんばったです」「がんばったですぅ」
「そうだな。がんばったな」
「「「わぁい!」」」
にぱっ。誉める大吉にアイリーン、マリー、エミリが輝く。
バウルがしゅぱたんと歩きながら枝で大地を指さした。
「このあたりは農地となります」
「もう草木が生えてるのか」
バウルの言葉に大吉が下を見れば樹軍の樹木がそこら中で根を張り、土壌改良の真っ最中だ。
まだ出来たばかりの島なのに草木が育ちはじめているのが超すごい。さすが花火大会で栽培果物直接販売をしていた樹軍。一面の緑になるのもすぐだろう。
「ゆくゆくは黒豆の一大産地とする予定です。あとパスタ用の小麦ですな」
「……いや、他のも育てろよ?」
黒豆とパスタの為の畑らしい。
そこからしゅぱたんと歩いていくと、防波堤のような島々に囲まれた海岸線が現れる。
「俺がイカを養殖しております」
「だから、他のも育てろよ?」
イカ養殖用の場所らしい。
そしてイカスミパスタに全振りだ。
さらにしゅぱたんと歩いていくと、今度は大小様々な建物が乱立している。
「地上で何か騒いでおりますね。拾ってみましょう」
大吉の隣にいるエルフィンがぺっかと輝く。
輝き集音だ。
「おらぁ、酒飲みたかったらキリキリ働けーっ!」
『『『アイーッ』』』
拾った声は『ファクトリー』のミリアと機械妖精グレムリンの声だ。
眺める大吉にバウルが説明する。
「ここは居住区です。黒軍と黒の艦隊の皆の家を建てております」
「皆はバウルとクーゲルシュライバーに住むんじゃないのか?」
「それだと俺やセカンドの都合で皆が振り回されてしまうではありませんか。このバウルはあくまで黒軍移動用の要塞世界樹。たとえ皆が入り浸りでもマイホームではありません。皆、ミリアに好みのマイホームを頼んでおります」
「そりゃそうか」
「そしてあれが大吉様の宮殿でございます!」
枝の先を見れば五キロ四方の区画にどどんとそびえる謎宮殿。
思わず叫ぶ大吉だ。
「でけえよ! 2DKで十分だよ!」
「そうおっしゃると思いまして、中はしっかり2DKとなっております」
「アホか! 何も考えずに俺のアパートをコピーしろ!」
ひと部屋一キロメートル以上あるらしい。
さすがにツッこむ大吉だ。
まあそれはそれとしてこの建築作業、上から見るとなかなか面白い。
ピカピカ輝くグレムリンが地面に宿るとニョキッと屋根が現れて、植物の芽吹きのように家が生えてくる。
えらく楽な建築に、同行していた谷崎が呟いた。
「地震とか心配ですね。建築基準法はクリアしているのでしょうか?」
「地震なんて無いでしゅ」「地下でぜんぶ吸収です」「島の基本ですぅ」
「……デスヨネー」
さすが人工島。島全体が免震構造だ。
「そしてとても頑丈に作られております。ミリア曰く俺が乗っても大丈夫!」
「それは頑丈過ぎだ」
百人どころではない、バウルが乗っても大丈夫。
オーバースペック過ぎるマイホームに呆れる大吉だ。
「さあ、次は工業区でございます」
次に訪れたのはいくつかの山が並ぶ地だ。
黒島は人工島なので山は雨を降らせたり水を溜めたりと目的を持っている。
平坦な地にそびえる山に、大吉は首を傾げた。
「何の為の山なんだ?」
「あれは鉱山でございます。島を作る過程で様々な元素をまとめました」
「そういえば、海底資源はかなりあるってテレビで見たな」
EEZを含めれば資源国家。それが日本だ。
まあ採掘コストが高すぎるので実際には採掘出来ないのだが、こうやって地上に現れればその問題も解決。採掘し放題だ。
「含有率はどの位なんだ?」
「「「んー……」」」
三幼女に聞いた大吉に三幼女は首を傾げ、にぱっと輝き答える。
「「「掘ったのぜぇんぶ」」」
「……そういうのを鉱山と呼ぶのはどうなんだ?」
山の形をしたインゴット。
さすが人工島。すでに精錬済みだ。
「工業区では日用品の他、パスタ製造機、黒豆用の鍋、石炭や木炭を作ります」
「……いや、他に色々作れるだろお前ら」
どこまでも黒に全振りな皆に呆れる大吉だ。
農地、居住区、鉱山、工業区と島の平坦部をぐるりと回ったバウルは島の中心へと進む。
そういえば……大吉はふと思い、バウルに疑問をぶつけてみた。
「それぞれの区画の間にずいぶんな隙間があるんだが、何に使うんだ?」
「このバウルも歩けるメインストリートでございます。幅は五キロメートル。ちょっと狭いですが俺も何とか歩けます」
「広いなオイ!」
「自衛隊から要望のあった空港も兼ねております」
「……それだけ幅があったら横並びで着陸できるぞ」
黒島、メインストリートの横断に徒歩一時間以上かかる事が判明。
「大吉様、輝き転送ならばすぐですよ」
「そうですわ大吉様」
「です!」
しかし輝き転送があれば空間など無いに等しい。気にしていない皆である。
まあ北海道も大半の場所が車必須。
輝き転送必須も似たようなものだと大吉は割り切って、バウルが進む先にそびえる中心の山を見下ろした。
「中心の山は、どの位の高さなんだ?」
「三七七五メートルでございます」
「大吉様は一歩身を引く奥ゆかしいお方ですから」
富士山よりちょっと低いのが一歩身を引く奥ゆかしさらしい。
「そして火口のカルデラはこのバウルもゆったり温泉湖! 温度も適温でございます。このバウルも大吉様と一緒にお風呂が楽しめますぞ!」
「どんだけ深いんだよ」
全高五千メートル以上のバウルがゆったり。間違いなく世界最深だ。
近付くと山頂にはためく日本国旗。そして護衛艦こんごう。
甲板で皆が手を振り叫んでいる。
「おーい、そろそろ海に降ろしてくれー」
「おお、忘れてた」
お子様ランチを食べる時はまず旗を取りましょう。
バウルが持ち上げる護衛艦こんごうの姿に、そんな事を思う大吉であった。
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