11.新島、日本のEEZの穴に現る
話は少し戻る。
大吉が怪獣裁判の準備をしていたその頃、バウルでは皆が揉めていた。
彼らの前には輝き投影で映し出された地球がくるくる回っている。
ブリリアントが叫んだ。
「大吉様を救う為、我らはすごい島を作らねばならぬ!」
「そうだなブリリアント。俺もロボの三幼女もやる気十分。どんと来い」
「やるでしゅ」「やるです」「やるですぅ」
「あのじじいはちっぽけでいいって言ったが、大吉様には似合わねぇ」
「すごい、の、つくる」
「これは私共黒軍の力を、お見せする良い機会でございます」
「私達黒の艦隊も当然参加いたします」
「わても手伝うでぇ」
黒軍の皆と三幼女、黒の艦隊、ミリアが頷く。
「そこで我は、一番でかいのを作ろうと思う……これだ!」
ブリリアントは皆に頷き、投影された地球のロシアを指さした。
ロシア……つまり、ユーラシア。
知っての通り大陸だ。世界で一番大きな陸地だ。
太平洋が三割ほど埋まってしまう。もはや島とは呼べない代物である。
日本が世界最大の国家になる棚ボタチャンス到来。
しかし三幼女はぷるぷると首を振った。
「駄目でしゅ」「海も資源です」「大きすぎて大吉様に迷惑かかるですぅ」
「む、そうなのかセカンド?」
「そうですね。それを作るならまず我らが世界を征服しなければなりません」
「そうか……それは大吉様が困るな」
ブリリアント、しょんぼり。
当然、そんなの作ったら世界各国が黙っていない。必ず戦争となるだろう。
ユーラシア却下。理由……大吉が困る。
そんな中、広場がぺっかと輝いた。
「何をしているかと思って覗いてみれば、皆さん分かっておりませんね」
輝き分身で現れたエルフィンだ。
「エルフィン、大吉様は良いのか?」
「フォルテもエリザベスもそばにおります。それにちょっと輝き分身した位で、私が大吉様をお守り出来ないとお思いで?」
「「「……デスヨネー」」」
ちょっとくらい輝き分身してもデタラメはデタラメ。
納得する皆である。
「ではエルフィン、お前ならどう作る?」
「大吉様はこのような事には一歩身を引く奥ゆかしいお方。もっと小さく……このくらいが良いでしょう」
そう言ったエルフィンが示したのはオーストラリア大陸。
確かにユーラシア大陸に比べれば奥ゆかしいが、それにしても大きい。
現存する島が食われてしまう程のサイズだ。
「駄目でしゅ」「海も資源です」「イカが困るですぅ」
「それは大変。却下します」
オーストラリア却下。理由……イカ。
「イカスミは良き黒。蔑ろには出来ぬ。エルフィン、お前もまだまだだな」
「お恥ずかしい限りです」
へかー。
ブリリアントの言葉に輝きがヘタれるエルフィンだ。
その後も様々な意見が出たが海洋の問題、国際的な問題、イカ、黒豆、大吉様への我らの思いがちっぽけと思われては悲しい等々、様々な意見で紛糾する。
議論が進まぬ中、ブリリアントはあきらめた。
「我らでは話が進まぬ。提案した本人に聞く事にしよう」
ぺぽぱぱぷぱぷぱぺぺっか……ブリリアントが断続的に輝く。
輝き電話だ。
『はい、麻田です』
「ブリリアントだ」
『……この電話番号、谷崎も知らんはずだが』
「我の輝きをもってすればたやすい事」
輝き、何でもアリである。
ブリリアントは呆れた麻田に構わず用件を告げた。
「我らは島の大きさで揉めている!」
『ちっぽけで良いんだが』
「我らの大吉様への忠誠は海全てを陸にしても足りぬ程である!」
『……』
しばらくの沈黙。
そして麻田から返答が戻ってきた。
『日本じゃあ二番。そのくらいにしておけ』
「それで大吉様がお喜びになるのか?」
『今住んでるアパートが大吉の今の甲斐性だからな。でかすぎると言うだろうさ』
「なるほど北海道か。了解した」
「その位ならいいでしゅ」「イカも黒豆もおっけー」「ですぅ」
そんなこんなで怪獣裁判の二日後。
日本のEEZの穴に、新島が出現した。
サイズは北海道よりわずかに大きいくらい。
麻田が言った通りの日本じゃあ二番。本州寄りにしなかったのが奥ゆかしさだ。
しかし人工的に作られた島なので地形がとても利用しやすいようになっている。
使い勝手の良い平地、雨を降らせる為の山、ため池のような湖、用水路のような川と地下水脈、ダムや港を作りやすい地形と海岸線、地熱、鉱脈、油田ガス田等々。
新島なのに真水もガッチリ確保済み。
これでもかとばかりにぶち込まれた欲張りセットな新島だ。
とどめは新島中央の山頂で日本国国旗をはためかせる護衛艦こんごう。
海上保安庁の航空写真でそれを見た麻田は膝を叩いて笑う。
「お子様ランチかよ!」
そして新島のニュースは怪獣裁判と共に瞬く間に世界を駆け巡る。
各国の調査団が来てみれば山頂には護衛艦こんごうと日本国旗。
日本め、やりやがった!
新島問題はすぐに国連安保理の議題となり、会合が開かれた。
当然、日本を糾弾だ。
「麻田、あの島はどういう事だ?」
「いやぁ、試しに言ったらあいつら作っちまったよ。まいったなぁ」
日本の代表、いいだしっぺの麻田が笑う。
しらじらしい!
心で叫ぶ皆である。
「とにかく、これは人工の島である。故に領土とは認めない」
「それは構わんが、管理は我が国が行うぞ?」
「何故?」
「怪獣共が井出大吉にくれてやった島を、我が国が贈与を受けたからだ」
「「「贈与!」」」
麻田、しれっと爆弾発言を放り込む。
「井出大吉は日本国籍だから怪獣から貰ったモンでも贈与税は払ってもらわなきゃ困る。それで少なくとも数十兆円と言ったら払えねぇ、ついでに管理も出来ねぇから国でやってくれと言うから仕方無く我が国が贈与を受けたと言う訳だ。まあ、元々日本のEEZが囲んでた海域だからいいだろ?」
「良い訳が無い!」
「これではどこにでも領土を作れてしまうではないか!」
「こんな事を許しては世界秩序が崩れる!」
「これを認めるのは許されない!」
安保理、激怒。
たちまち決議がなされ、日本の領有を認めない事が決定された。
しかし麻田は笑みを絶やさない。
「いや、その決定は別にいいんだが……怪獣は説得してくれよ?」
「「「へ?」」」
ぺっか。
輝きと共に現れるのは、金剛竜ブリリアントだ。
「我らの大吉様への忠誠に文句があるなら、聞こう」
「「「へ?」」」
「じゃ、後はまかせた」
唖然とする皆をよそに、麻田は席を立つ。
帰るのだ。
「麻田!」
「お前も説得してくれ!」
「いやぁ、日本はもう説得失敗してるんでな。これ以上やって敵対関係になったらシャレになんねぇんだよ。という訳でよろしく」
「さあ、話を聞こうか」
「「「うわぁ!」」」
かくして麻田の目論み通り、怪獣利用を制限する国際条約が締結された。
しかし新島は日本の領有が承認された。
結局、どの国もブリリアントを説得出来なかったのだ。
作っちゃったものは仕方無い。
そして怪獣より日本の方がマシ。
そんな消極的な理由であった。
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