10.人は形じゃない。心意気なんだよ
「彼らはこの世界に現れました」
大吉の言葉は続く。
「これはゲームには無い展開です。『エクソダス』のゲームは全てが同一の世界を使ったもの。それは剣と魔法と怪物のゲームでも機械文明のゲームでも変わらない。住む星が違うだけです。そうですねあやめさん?」
その通りだとあやめが頷く。
『エクソダス』のゲーム世界はどれだけこの世界に近いものでも異世界だ。
日本も東京も存在しない。そしてオカルトはどこかに必ず存在する。
現実の世界を題材にしたゲームは今も存在しないのだ。
「彼らは皆、夢の中を現実と思わせるほどリアルです」
大吉は会話を続ける。
「彼らはプレイヤーと共に歩めるほどリアル。そして彼らはプレイヤーから学び、成長します」
『エクソダス』は他のゲームとは違い、ゲームだからとプレイヤーが一方的に歩み寄る事はない。
文化や技術は違えど話せばキャラクターは理解し、行動を変える。
共に歩み寄り、学び、成長する。
彼らの思考は自由。だからこそのリアルだ。
「『エルフィンメイカー』のエルフィン・グランティーナは今から十年前、八歳の頃に三歳から十三歳の夢を無数に見続けました。そして鍛錬を積み重ねて人族の守り手となり、別の大陸で生活する『フロンティア』のエリサベス達にとっての災厄となりました」
究極のエルフィン・グランティーナ。
当時の大吉はそれを目指して寝ている時間全てを注いだものだ。
「九年前には独身だった『ストラテジ』の金剛竜ブリリアントは夢で好きな相手へのアプローチを試行錯誤し、今や立派な妻子持ちだ」
軍団ゲーで恋の相談。
大吉は黒軍王ネーロとして、共に頭をひねって考えたものだ。
「『スターフリート』は元々バラバラだった者達が夢で集まり、セカンドと共に心に決めた艦隊司令を求めて宇宙をさまよい、『ロボ』と共に地球へとやって来た」
そういえば『ファクトリー』のミリアは、どういういきさつで地球に来たんだろうな?
ふと大吉は考え、今はそれを考える時では無いと首を振る。
「彼らの誰もが自分で考え、自らの意思で生きています」
彼らが語った『人生』。
そして夢から学び、考え、自らの道を定めた結果が『今』。
「それがゲームの後付け設定である可能性は……否定できません」
しかしそれらは別の『エクソダス』のゲームで表現されている。
それをゲーム設定では無いと断言する術は無い。
現在の地球の文明では異世界が存在するかどうかすらわからないからだ。
「原告のフラットウェスト社からすれば、彼らはただのゲームキャラクターかもしれません。彼らの生き様も箇条書きにできる設定に過ぎないのかもしれません。エルフィンの鍛錬やブリリアントの結婚もユーザープレイを設定に反映させただけの事かもしれません。しかし……」
大吉は言葉に力を込める。
「しかし、この世界に来てからの全ては彼らの意思であり選択だ」
異世界の事は分からない。
しかしこの世界の事なら分かる。
誰もが同じように見て触れて考えられる、大吉達の世界だからだ。
「エルフィンはクロノを求めて世界を渡り、ブリリアントやバウルら黒軍は黒軍王ネーロを守る為に世界を渡った。エリザベスもアイリーン、マリー、エミリも、セカンド達もミリアもやってきた。そして俺と再会し、世界の皆とも触れ合った。それはゲームではない、彼ら自身の選択だ」
黒軍は流通を補填し、黒の艦隊は宇宙のゴミを片付けた。
エリザベスは獣と人の間のトラブルを調停している。
人が要求した事に従い、人の行う以上の事をしているのだ。
「彼らはゲームではないこの世界でも人の話を聞き、考え、学び、成長している。見た目が竜だったり樹木だったり獣だったりするが、人の話を理解し共感してくれる異世界の『人』なんだ」
それを著作物、物として扱うのか?
ナシである。
「彼らは理解し合える存在だ。見た目だけで判断しないでくれ。
意思も感情もある存在だ。ゲームだからと縛らないでくれ。
そして責任も取れる存在だ。使えるからと道具にしないでくれ」
大吉は深く頭を下げ、最後の言葉を放った。
「皆さんにお願いします。彼らの生きる道は、彼らに選ばせてやってください」
言いたい事は全て言った。
大吉は深く息を吐き、もう一度深く頭を下げた。
「以上です」
大吉が陳述を終える。
話を聞いていた裁判官が口を開いた。
「五月あやめさん、法廷で床に突っ伏して床を叩かないように」
「……」
ぶれませんねあやめさん。
振り返れば食事時と同じように突っ伏しているあやめに赤面する大吉だ。
そんなに恥ずかしかったか、こっ恥ずかしかったかあやめさん!
大吉は心で叫び、今日の裁判の終わりを待つ。
次の裁判はいつだろうか。何回やるんだろう? 長いなぁ……
大吉がそんな事を考えている内に裁判は進み、やがて終了した。
「大吉様、素晴らしいお言葉でした」
ぺっかー。
エルフィンが輝きながら大吉を賞賛する。
「大吉様の思いに我ら黒軍の皆も喜んでおりますわ。この戦いがどのような結果に終わろうが我らに悔いはございません。大吉様のお好きなようになさって下さい」
「さすが大吉様です! この世界でもやっぱり我らの勇者です!」
「ありがとう」
フォルテとエリザベスも大吉を絶賛。
「いやぁ大吉さん。今までで最高でした!」
「……床に突っ伏す程ですか?」
あやめにツッコミを入れながら大吉が外に出れば世界が夜のようだ。
見上げれば、天に根と黒い球体。
要塞世界樹バウル。
そしてその背後、はるか天空には直径六百キロのクーゲルシュライバー……
「……エルフィン。どちらも打ち返せ」
「はい」
べぇちこーんっ!
「「なぜですかー!」」
「でかすぎるからだーっ!」
ぴゅーっ。打ち返された二者に叫ぶ大吉だ。
まったくお前ら、いい加減にしろ。
と、大吉が呆れて見上げていれば周囲がぺかっと激しく輝く。
輝き転送だ。
「大吉様! このブリリアントをいきなりべちこんとはひどいです大吉様!」
「そうだぜ大吉様! エルフィンも多少は手加減しやがれこのやろう」
「べち、こーん」
「私どもも大吉様を直接讃えたいのでございます! いきなりべちこんはあんまりでございます!」
「大吉しゃま、ぐるんぐるんでしゅ!」「おめめ、回るです」「ですぅー」
「あまりべちこん叩かれると修理が大変」
「いやー、わても感動したでぇ! さすが大吉様や!」
いやもう、はじめから輝き転送で来いよお前ら。
バウルと共に飛んで来るとか危なすぎるから二度とやるなと思う大吉に、皆が揃って頭を垂れた。
「大吉様。我らは大吉様と出会い、共に歩めてとても幸せでございます」
「……そうか」
ブリリアントの感謝に大吉は頷く。
大吉の言葉の通り、世界も生き方も形も違えど彼らは人と変わらない。
人は形ではない。生き様であり心意気だ。
「俺も! 俺も讃えたい! でも近付くとべちこんされる! バウル悲しい!」
「ではクーゲルシュライバーで宴会を開きましょう。クーゲルシュライバーは星サイズ。バウルくらい楽々収納」
『『『『サケ!』』』』「あんたらは禁酒や」『『『『エーッ!』』』』
天空でクーゲルシュライバーがぺっかぺっかと輝いた。
そして直系六百キロの表面に描かれる大吉様宴会会場の文字。
どこかの旅館かよと苦笑する大吉だ。
「宴会に宇宙……また、えらく遠くだな」
「なぜです? 徒歩でさくっと行ける近所ではありませんか」
「それはお前だけだ」
首を傾げるエルフィンに、大吉はツッコミを入れた。
そして口頭弁論から三日後。
フラットウェスト社は大吉達に対する訴えを取り下げた。
社長直々の取り下げであった。
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