6.惑星開拓重機、ロボ
「これはまた……本物の怪獣は実にすげぇな。長生きしてみるもんだ」
小笠原沖を漂う要塞世界樹バウルの広場。
谷崎の案内でバウルに上陸した麻田が呟いた。
麻田の前には黒軍の軍団長がその巨体を並べている。
かたや二十メートル超の巨体。かたや老人。
黒軍の誰かが動けば風圧で飛ばされてしまいそうな圧倒的な力の差。
しかし麻田は気にせず彼らの前に進み出て、静かに深く頭を下げた。
「俺は麻田次郎。今は隠居しているただのジジイだ。あんたらが怪獣代表か?」
「黒軍代表、竜軍団長ブリリアント」
「黒の艦隊、セカンド」
ブリリアントとセカンドが頭を下げる。
麻田は二者が頭を上げるのを待って、さっそく話を切り出した。
「今日はお前らと井出大吉に悪くねぇ話を持って来た」
「大吉様に?」
ブリリアントが麻田に首を伸ばし、そして傾げる。
「……谷崎、この者は自らをただのジジイと言ったが?」
「今は確かに隠居されていますがこの方は元総理大臣で、現職の安住総理大臣とも懇意にされているお方です。提案は日本国政府からと考えて頂いて構いません」
「それは禁句だぞ谷崎。ジジイのタワゴトとして扱ってくれんと安住が困る」
「失礼しました」
「なるほど。谷崎がそう言うのであれば、悪くねぇ話とやらを聞こう」
ブリリアントが首を引っ込める。
近くで見るとさすがに怖えな。
内心の恐怖を顔には出さず、麻田は彼らに提案した。
「ちっぽけなもんで構わねぇ。お前らにふたつほど島を作ってもらいたい」
「島?」
「谷崎、頼む」
谷崎がバウルの作った壁にプロジェクターで資料を写す。
映し出されたのは領海とEEZまで描かれた日本地図。
麻田は海に記したバツ印を示して言った。
「場所はお前らが最初に現れた我が国のEEZの穴。この地図に示した通りに作ってもらいたい」
谷崎が資料を示し、麻田が詳細を説明する。
バウル、ブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒム、そしてセカンドが静かにその話を聞く。
説明を終えた麻田は彼らに問いかけた。
「……と、いう訳だ。出来るか?」
「舐めるな。その程度ならいくらでも出来る」
「ロボは惑星開拓重機。アイリーン達にやらせましょう」
「すげぇなぁ。異世界にはそんなものがあるのかい」
異世界の超絶オカルトっぷりに麻田が笑う。
「しかし、これがどうして大吉様の為になるのだ?」
「この星では新島の領有権は基本的に発見した国のものとなる」
首を傾げたブリリアントに麻田が言う。
「しかしお前らが島を作れるんなら好きな場所に島を作って領有出来る事になる。こんなのを一国の、しかも一企業が権利を独占するのを世界が認める訳がねぇ。その枠組み作りの為に島を作って盛大にアピールして欲しいのさ」
えげつないなぁ、この人……
谷崎は麻田の説明を、何とも言えない顔で聞いていた。
フラットウェスト社が怪獣達の利権を握れば、国の領土を一企業が操作できるという事になる。
麻田の言った通り新島の領有権は発見した国のもの。
どの国も自国の近くに勝手に島を作られて領有されたくは無いだろう。世界各国がこぞって制限に乗り出すはずだ。
実際には人工的に作られた島の領有が認められるかはどうかは国家の力による。
しかし人工だろうが何だろうが島が出来れば使わない手は無い。必ずどこかの国が領有し、何かに使う事になるだろう。
制限は島に限った話ではない。
気候、海流、地形など大小あらゆる事柄に及ぶものになる。
麻田はフラットウェスト社の行為を、国際条約で潰すつもりなのだ。
裁判がどんな結果に終わろうが国際条約があれば大吉は要求を突っぱねられる。国際条約は企業活動はおろか国内法にも優先する。一企業では泣き寝入りだ。
「なるほど、理解した」
ブリリアント達は麻田の説明を理解したのだろう。やがて皆、頷いた。
「しかし人であるお前が我らの肩を持つとは、意外だな」
「別にお前らの味方をしてる訳じゃねえ」
またも首を傾げるブリリアントに麻田は笑う。
「お前らは力がありすぎるんでな、誰かに肩入れされると非常に困る。のんびりと遊んでいてくれるのが我が国としては一番助かるんだよ」
「大吉様は、良いのか?」
「あれはお前らの親みてぇなもんじゃねえか。親孝行は仕方ねぇよ」
親という言葉にブリリアントが唸る。
「親か……まあ、そう言えなくもない」
「そうだなブリリアントよ。我らの今は黒軍王ネーロ様の導きがあればこそ」
「この恩に報いる為なら、島の一つや二つホホイと作ってやるぜ」
「やるー、やるー」
「その通りでごさいます」
「黒の艦隊もシュバルツの導きに集まりました。大吉様は産みの親です」
ブリリアントは再び麻田に首を伸ばし、問う。
「しかし良いのか? 日本国の者が、日本国に得るべき利益を訴えたのだろう? それを蔑ろにするのは国を統べる者としてどうなのだ?」
「皆に良い顔をしたいだけの奴じゃあ国の舵取りは無理だからな。このくらい腹黒くねぇと簡単に国が滅びる」
「腹黒か……谷崎、この者はわかっているようだな」
「いや、黒だけで判断されては困る」
そもそも腹黒いは良い意味で使われる言葉じゃないぞと、ブリリアントの言葉にため息をつく谷崎だ。
「これで大吉様と遊べるぞバウル!」
「夜通し黒を語れるのか!」
「モーニングコーヒーはブラックだぜ!」
「くろー、くろー」
「そして黒いイカスミパスタを食っちゃ寝でございます!」
「素晴らしい。大吉様と黒三昧。素晴らしい」
「黒? まあ、お前らと井出大吉のこだわりは好きにすればいいさ」
麻田の言葉に皆が首を傾げる。
代表してブリリアントが谷崎に言った。
「谷崎、この者はわかっていないようだな」
「いや、だから黒だけで判断されては困る」
そのうち黒詐欺にでも遭ってとんでもない事をするんじゃないかこいつらと、不安バリバリの谷崎であった。
その日の夜。
麻田が示した海底に、動くロボの姿があった。
グラン、アクア、ウィンザーだ。
「マリー、エミリ、やるでしゅ」
「テラフォーミングです」
「アピールするですぅ」
三体のロボは身体からピカピカと輝くものを海底に放出する。
鉱物に宿る精神生命体、機械妖精グレムリンだ。
ロボは海底を歩きながらそこら中にグレムリンを放出し続けた後、中心に集まり叫んだ。
「「「メランしゃまの、大吉しゃまのために!」」」
ぐぉん! アイリーン、マリー、エミリの叫びにロボが輝く。
その輝きに呼応するかのように、グレムリンを宿した海底がピカピカと輝いた。
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