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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-4.そして、欲望が現れる
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5.つながれていれば猛獣も可愛いもの

「なんだ! このふざけた要求は!」


 要塞世界樹バウル内、広場。

 大吉が持ってきた訴状のコピーを床に叩きつけて、ブリリアントが叫んだ。

 フラットウェスト社の訴状は、大吉達への要求が書かれている。

 大吉達にフラットウェスト社が業務を委託し、収益からロイヤリティを徴収する。

 取り分は大吉達九割、フラットウェスト社一割。

 大吉達の方が取り分は圧倒的に多い。

 しかし、大吉達に選択権は無い。

 エルフィン達の権利は実質フラットウェスト社のものであり、いつ、どこで、どのように活用するかを決める権限は大吉には無い。

 大吉は中間管理職。そしてエルフィン達は作業員。

 都合良く利用してロイヤリティで稼ごうとしているのだ。


「まあ、妥当と言えるでしょう」

「何だと!」

「私達にとってではありません。彼らにとって妥当という事です」


 べかーっ。

 大吉の横で、エルフィンが怒りに輝きながら言った。


「私達は大吉様のもとに集った者達。大吉様以外の誰が私達を服従させられると言うのですか。それともブリリアント、バウル、あなた方は彼らに従うのですか?」

「ありえん!」「無い!」「ねえよ!」「ない、ない」「ありえませんな!」

「ありえませんわね。あやめの会社であっても使われるなどお断りですわ」

「大吉様でなければ納得できないです」

「ないでしゅ」「ないです」「ないですぅ」

「私もありえません」

「すまんなぁ、わてがしくじったせいですまんなぁ……大吉様もすまんなぁ……」


 黒軍の皆が叫び、エリザベスが尻尾を振り、幼女達とセカンドが首を振り、ミリアがひたすら頭を下げる。

 エルフィンは皆の反応に頷いた。


「ですから業務委託なのです。大吉様と私達に九割、儲けのほぼ全てを与えるが選択の自由は奪う。仕事を押しつけてキャラクター使用料で稼ぐ算段なのですよ」


 いわゆる著作権商売。

 自社が世に出したゲームキャラクター達がオカルトパワーで世界を席巻しているのだ。著作や商標の権利をどうやって利用しようか考えるのは当然の事。

 彼らにとって謝罪に現れた大吉は彼らとオカルトを結ぶ不可欠のピース、ぶっちゃけカモネギであったのだ。


「これでは我らが大吉様と遊び倒せないぞバウル!」

「毎日、夜通し黒を語り合おうと思っていたのに!」

「そして次の朝、大吉様と飲むモーニングコーヒーは当然ブラックだぜ」

「くろー、くろー」

「その通りでございます。私も大吉様と共にバウル殿の養殖したイカで作ったイカスミパスタを食っちゃ寝暮らししたいのでございます!」

「いや、俺はこれまで通りに働きたいから食っちゃ寝暮らしはムリだぞ」

「そんな大吉様! バウル殿のお部屋で我らと食っちゃ寝ウェールカーム!」

「「「ウェールカーム!」」」

「俺が嫌なんだよ!」


 こいつら、俺への甘やかし半端無いなぁ……

 と、叫ぶ黒軍の皆に苦笑いの大吉だ。


「このバウルが用意した部屋に引っ越しましょう大吉様!」

「野外の放浪生活ならエリザベスにおまかせです!」

「クーゲルシュライバーでも大歓迎です。月あたりまで行ってしまえばこんな奴らに手出しは不可能。何なら火星か金星でテラフォーミングいたします」

「惑星開拓ならまかせるでしゅ!」「専門です!」「ですぅ!」

「すまんなぁ。わてもガンガン物作りするでぇ」『スルヨ』『スルヨ!』

「アホか。俺が良くても周囲が困る」


 人間社会とは人の繋がりだ。

 大吉がそんな事をすれば両親や親類縁者に迷惑が行くだろう。バイトにすら保証人が必要なように、自分一人で責任を完結させるのは非常に難しい事なのだ。


「それでは大吉様は、どうなさるおつもりなのですか?」

「著作権があるからなぁ……裁判する事になるだろうな」

「……そうですか」


 エルフィンの問いに大吉は答えた。

 著作権は世界で認められた権利。だから裁判は避けられない。


「まあ裁判というのは国家権力が仲介する交渉だ。どちらか片方の言い分が全て通る事は滅多に無いから交渉次第で条件の緩和が出来る。どこまで譲歩してもらえるかは分からんが出来るだけの事はしてみるよ……どうした?」

「「「……」」」


 裁判を前提とした大吉の言葉に皆の表情が沈んでいく。

 重苦しい雰囲気が場を包む中、ブリリアントが皆を代表して口を開いた。


「大吉様も……我らをただ夢のゲームに出て来た存在と思っておいでか?」

「そんな事は思っていない」


 即答する大吉に重苦しい空気が霧散する。


「しかしそれを証明する方法も無い。信じない者は信じない」

「では、実力で信じさせて「やめれ」なぜですか!」


 ブリリアントの叫びに大吉は答えた。


「そんな事をすればじいさんやばあさん、あやめさん、運送会社のぶるるん仲間、谷崎さんと自衛隊の方々、こんごうの人達ら多くの知人に害が及ぶからだ。お前ら、せっかく仲良くなった彼らを傷つけたいか?」

「……必要ならば、我等はこてんぱんをためらいません」

「俺はためらうんだよ。それで信じさせたとして、その後の生活は楽しい訳が無いだろう? ブリリアント、さっきお前は俺と遊び倒したいと言っただろ。そんな状態になったら遊んでも俺は楽しくないんだ」


 無理にゴリ押せば縁が壊れる。

 縁は信頼だ。壊れれば二度と元には戻らない。

 エルフィンから始まったオカルトと世界の出会いは今のところ良好。せっかく築き上げた縁を壊してしまうのが、大吉には惜しいのだ。

 大吉は宣言した。


「裁判はする。そしてフラットウェスト社と出来うる限りの交渉をする」

「それで我らが納得できなかったらどうするのですか?」

「そうだなぁ……」


 皆が固唾を飲んで見守る中、大吉はしばらく考える。

 異世界人、怪獣、獣、ロボ、宇宙人。

 日本にも地球にも縛られているのは大吉だけだ。

 大吉は答えた。


「お前らは怪獣だし異世界人だからな。その時はトンズラすればいい」

「……その時は、大吉様をさらってもよろしいですか?」


 ブリリアントの問いに大吉は笑う。


「構わんが、しこたま貢いだ後にしてくれよ? 許して貰えるかもしれんから」





「本人達はうまい事考えたと思っているだろうが、ハタ迷惑な奴らだなぁ」

「全くです」


 麻田宅。

 茶を飲みながら安住と麻田はぼやいていた。


「権利を主張する事自体は悪くねぇが、相手が悪すぎる」

「確認された最高速度が光速以上、海上の怪獣に加えて宇宙艦隊。自衛隊はおろか核を持つ米軍でも一方的にこてんぱんです。まったく、よくこんな者達を相手に権利を主張したものですよ。裁判所も頭を抱えているそうです」

「当たり前だわなぁ」


 人知を超えたオカルト相手に裁判。

 判決次第で世界がこてんぱん。裁判官は生きた心地がしないだろう。


「まあ欲を出すのもわからないではありません。流通、海洋開発、そして宇宙開発。ロイヤリティが一割でも毎年数千億は軽く儲かる事でしょう」

「謝りに来た井出大吉の態度を見てイケると思ったんだろうなぁ。ほら、サーカスのライオンと同じようなもんだ。襲われればひとたまりも無い存在でも檻の中に閉じ込めたり猛獣使いが従わせていれば『すごい』とか『可愛い』だからな」


 パンダとかもそうだ。

 可愛いと皆が言うがあれは熊。襲われればひとたまりもない。

 麻田は茶を飲み、ぼやいた。


「要はナメてんだよこいつら。権利なんざマトモな奴しか尊重しねえってのに」


 井出大吉という人間が社会を尊重するから成立しているだけの事。

 それも未来永劫尊重してくれるとは限らない。

 大吉が世界を捨ててオカルトに行けばそれで終わりだ。


「彼が尊重する事をやめたら、どうするでしょうか?」

「良くてトンズラ、悪くて世界がこてんぱんだ」

「どちらも大損害ですね」

「全くだ。こちとら近くで遊んでて貰うだけで儲けものだってのに」


 何もしていなくても安全保障上きわめて有益。

 ブリリアント達の言う通り遊び倒していてくれるのが一番ありがたい。

 それが政府のオカルトに対する立場。今は賠償として流通に関与してもらっているが、暴れたら手の付けられない怪獣なら大人しくしてもらうのがベスト。井出大吉は荒ぶる怪獣を鎮める極めて重要な存在なのだ。

 だから今回の裁判は政府の都合を壊すものと言える。

 利益が絡めば損害を出す所も出る。圧倒的なオカルトパワーのもたらす格差の前には日頃叫ばれている貿易摩擦すら可愛いものだろう。

 そして井出大吉がキレたら全てがパー。世界中からしっぺ返し炸裂だ。

 まったく困ったものであった。


「彼はまだまだ若いですから、困っているでしょうね」

「そうだなぁ……ちぃと入れ知恵してくるか」


 このままでは日本がピンチ。

 一時の儲けに浮かれては後が怖い。それも怪獣頼りの他力本願など論外だ。

 個人の力では大企業に抗いようもないだろう。

 しかし大企業とて、世界の流れには抗えない。

 麻田は笑う。


「俺も一度は、怪獣に会ってみねぇとな」

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