幕間.クロマメ、それは敗北の味
決戦から二日後。
セカンドは艦隊旗艦クーゲルシュライバーの宇宙港にて、『ロボ』の三体を出迎えた。
「アイリーン、マリー、エミリ。シュバルツを見つけてくれてありがとう」
「セカンドおねーさん……」「負けちゃった」「ですぅ」
「反則負けですから、仕方ありません」
涙目の幼女達にセカンドが微笑む。
バウルが言った通り、黒にこだわり過ぎた結果だ。
外面だけの黒。まさに偽黒であった。
「いずれ我らを導くシュバルツを……大吉様をお迎えする日も来るでしょう。これからは内面の黒さを、腹黒い女を目指さねばなりませんね」
セカンドはエルフィンが言っていたような事を呟いた。
黒の艦隊は、今も黒い。
しかし何があっても黒くあるつもりは今は無い。
今の黒は太陽その他から得られるエネルギーを吸収する為の黒。艦隊のエネルギーを節約する為の黒だ。
直径六百キロの艦隊旗艦は様々な施設を有している。
黒の艦隊の艦艇や三幼女のような地上開拓重機ロボをはじめとした様々な物資を作り出す工場、食料を作る農場、研究所、病院、娯楽施設、貯蔵庫、艦隊全てを格納可能な宇宙港……艦隊旗艦は移動する星と言っても良い。
それらを稼働させる為のエネルギーは膨大。偽黒と笑われようが必要な事なのだ。
「グラン達が背負っているのが、敗北の黒豆ですね?」
「セカンドおねーさん」「負けのクロマメです」「おいしぃですぅ」
ロボが背中の巨大な荷を降ろし、港の機械がそれを運ぶ。
セカンドは三人と一緒にブリッジに輝き転送し、三人から別に貰ったタッパーのふたを開いた。
そこには美しく輝く黒豆。
ロボが背にした荷物全てにこれが入っているらしい。黒の艦隊の全員分の黒豆だ。
「あれだけの量……誰がお作りになったのですか?」
「「「エルフィンおねーさん!」」」
にぱっ! 三人の笑顔が輝く。
「おねーさんの作るご飯はいつも美味しいでしゅ!」「大吉しゃまと一緒に遊び相手もしてくれるです」「とっても眩しい、じゃなかった優しいのですぅ」
「……そう」
これだけの量、これだけの黒。
全てあの女、光の黒騎士エルフィン・グランティーナが作ったのか。
さすが黒の艦隊を一撃こてんぱんするデタラメ。
セカンドは艦隊の皆を旗艦に集めると、黒豆を配り告げた。
「審判より我らの敗北の証を頂きました。心して食べましょう」
「「「「いただきます」」」」
セカンドは皆と共に手を合わせ、黒豆を食べ始める。
「これが、敗北の味ですか」
「うまいですなぁ」
「この黒豆、我らを導くシュバルツと食べたかったものですな」
「我らにもいずれ機会が来るだろう。その時の為に精進せねばな」
艦長達と各艦のセカンド達の評判も上々。
今度作り方を聞いて艦隊の献立に加えてみよう。
セカンドがそんな事を考えていると、三人が騒ぎ出す。
「あ、そうだ!」「セカンドおねーさんにお手紙です」「大吉しゃまからですぅ」
受け取った手紙を恐る恐る開いてみれば、文面はたったの一行。
『明日は、そっちに泊まりに行くからな』
くわっ!
セカンドは力強く立ち上がり、今も黒豆を楽しむ皆に叫ぶ。
「明日、大吉様が泊まりにいらっしゃる! 全艦歓迎準備!」
「「「「なんと!」」」」
黒豆タッパーのふたを閉じ、艦長達も立ち上がる。
「まずは掃除ですな!」「我らの艦を綺麗にせねば!」「それと駐留空間のデブリクリーンだ!」「急げ!」
艦長達が輝き転送し、艦隊が動き出す。
周囲を掃除し、ゴミを始末し、艦隊をデコレーション。
ウェルカム大吉様とぺっかぺっかと輝いて、エルフィンと大吉を出迎えた。
「まさか生身で宇宙を飛ぶとは思わなかったぞ……」
「すみません。いつもこの程度の移動は徒歩で済ませておりますので」
宇宙空間が徒歩の移動範囲。さすがはデタラメ。
そんなエルフィンが黒豆に続いて皆にふるまうのは、イカスミパスタだ。
「黒い! そしておいしい!」
「バウルがイカを育てているのです」
クーゲルシュライバーより小さくともバウルは島サイズ。
バウルの入り組んだ根は魚礁と同じ。バウルは海上をしゅぱたんと駆けながら、イカ養殖に励んでいるのだ。
「それと、バウルからお手紙です」
エルフィンが差し出した手紙をセカンドが開いてみれば、文面はこれまた一行。
『偽黒などやめて、内側から黒くなるがいい』
「……これは、完敗です」
セカンドも艦長達も、笑うしかない。
皆で黒いうまいと叫びながら歓迎の宴は進み、やがて就寝の時間となった。
「エルフィン、大吉様と別室で良いのですか?」
「今はその時ではありません。ダメ無限力を何とかしないと……くううっ!」
どれだけ強くても、得たいものを得たい形で得られるとは限らない。
デタラメに強くても苦悩はある。
「それに部屋を別にした程度で、私が大吉様をお守り出来なくなると思いますか?」
「……いいえ」
セカンドは首を振る。
もはやエルフィンは侮れない女ではない。圧倒的なデタラメをひたすら大吉様のために使う頼れる味方だ。
彼女は己の全てをかけて、大吉をあらゆる害悪から守り抜く事だろう。
だから、大吉は安心だ。
セカンドはそんな風に考えていた。
……この時は。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。