12.知ってる者は土下座する。知らぬ者だけこてんぱん
『攻撃開始!』
『ぶちのめせ!』
午後七時半。東京上空。
イベント会場の皆が見上げる星空で、二者の戦いが始まった。
樹軍から緑のビームが、黒の艦隊からは青のビームが放たれる。
始めは互いに様子見なのだろう、空にちょろっと走っただけの光の筋は瞬く間に全天を埋める光の奔流に変わり、ビーム同士の衝突が引き起こす爆発が花火のように空を彩る。
「「「たまやー!」」」
例えるなら超大規模な流星雨の夜に開催された花火大会。
観客も初めて見る光景に大興奮だ。
「うわぁ……」
そして大吉も観客達と同じように、唖然と空の輝きを見上げていた。
海上からは要塞世界樹バウル率いる樹軍。
宇宙からはクーゲルシュライバー率いる黒の艦隊。
双方ともに全力の殴り合いだ……理由は呆れるほどしょーもないが。
しかし綺麗に見えるのも、影響と被害が無いからこそ。
激しく輝く緑ビームも青ビームも東京に当たれば首都圏こてんぱんだ。
「エルフィン、あのビームは本当に大丈夫なのか?」
「こてんぱんにはしっかり配慮されていますよ?」
当たるとこてんぱんな謎ハイテクビーム。オカルトだ。
「……安全には配慮してないのか」
「そこに配慮したら攻撃とは呼べないのでは?」
そりゃそうだ。
「安全に関しては私がしっかりガードしております。地上や海上はもちろんの事、人工衛星も航空機も渡り鳥も虫も宇宙デブリも安心な鉄壁ガードですよ」
「やっぱ、お前が一番怖いわ」
「ですわね」
「さすがデタラメ一号です!」
「ええっ!?」
普段通りなのに虫すらガードする光の黒騎士。
さすがデタラメ一号だと感心する大吉だ。
「勝負は、互角だな」
会場の大型スクリーンには樹軍と黒の艦隊の戦いの様子が中継されている。
樹軍と黒の艦隊、今のところは互角。
互いにこてんぱんが増えているもののバウルもクーゲルシュライバーも健在。
大吉がバウルの映るスクリーンを見れば、日本近海を反復横跳びで悩ませたバウルはやはりアクティブ。
しゅぱたんと移動しては攻撃を弾いて軍を守り、しゅぱたんと移動しては緑ビームを天にぶち込む。
あー、コンピュータゲーム黎明期のあれだ。インベ○ダーとかポ○とかだ。
海上を左右に移動する様に生まれる前のゲームの動画を思い出す大吉だ。
『『『かぎやー』』』
そしてテレビ局が中継しているスクリーンにはバウルがなぜか持っている護衛艦こんごうにテレビ局、特等席で花火観戦しているブリリアントら他の軍団。
ノリはこの会場と変わらない。
戦国時代の頃に農民が弁当を持って合戦を見物していたというアレだ。対岸の火事という奴だ。
「こんごう、避難しなかったんだ」
「もしものこてんぱんがあってもブリリアント様達が何とかいたしますわ」
「まあ、ブリリアントがいれば安心か」
ブリリアントは黒軍最強だからな。
「もちろん私もしっかりガードしております」
「まあ、デタラメだからな」
「ええっ!」
ハイパワーオカルトだもんな。
大吉は相変わらずな黒軍に苦笑して、黒の艦隊が映し出されるスクリーンへと視線を移した。
宇宙空間に展開する黒の艦隊旗艦クーゲルシュライバーは今も黒い。
そしてバウルとは違い、不動。
代わりに旗艦の繰り出す防御艦が艦隊の前面に配置され、艦隊を守ると同時に樹軍の攻撃を吸収している。
そのエネルギーを攻撃に転換しているのだろう、時々強力な青ビームを放ってバウルを唸らせていた。
「バウル様も吸収は出来ますが、弾く事に専念してますわね」
「おかげで跳弾処理が大変です」
「世間話しながら跳弾処理とかさすがデタラメ一号です!」
「……やっぱ、お前が一番怖いわ」
「ええっ!」
バウルが弾いた青ビームはエルフィンが戦域外にぶん投げているのだが、普段通りに生活しながら難なくこなしてしまうのが恐ろしい。
さすがは泣いて世界を引き裂いたオカルトだ。
「まあそれはとにかくとして、このままだと勝負は判定だな」
「そうですね」
午後八時三十分。
現在、会場のスクリーンに映る両者は互角。
しかし延長戦は無い。午後九時になればこの勝負は終了。
なぜなら、花火大会だからだ。
しかし午後八時四十分。
形勢が傾いた。
「黒の艦隊の攻撃が激しくなったな」
「勝負に出ましたね」
「です」
「ああっ、樹軍がこてんぱんにされていきますわ! バウル様がんばって!」
スクリーンに映る光景にフォルテが叫ぶ。
しかしこの攻撃、黒の艦隊も苦しまぎれのものだったのだ。
『エネルギー貯蔵限界ギリギリです!』
「……思ったより、ずっと強い」
午後八時五十分。黒の艦隊。
艦隊旗艦クーゲルシュライバーのブリッジで、セカンドはスクリーンに映るバウルを睨んだ。
樹軍からの攻撃エネルギーの吸収と転換が追い付かない。
艦が持つエネルギー炉からの攻撃エネルギー供給はすでに停止している。
攻撃エネルギー全てを樹軍からの攻撃でまかなっているにも関わらず、貯蔵エネルギーが限界にまで増えているのだ。
『このままでは溜め込んだエネルギーで我らが自滅こてんぱんです!』
「攻撃と平行して背後にエネルギーを解放! 急げ!」
午後八時五十五分。海上。
「バウル様! 敵後背に謎の発光を確認!」
「ついに我慢出来なくなったな偽黒め。あと少しだ! 目一杯食わせてやれ!」
「輝け!」「かがやけーっ!」「「「ぺっかーっ!」」」
ここからが勝負とバウルら樹軍が輝き、渾身の緑ビームを叩き込む。
そして午後八時五十九分……ぺっかー!
空が明るく輝いた。
天に浮かぶのは黒を捨てた、直径六百キロメートルの輝く球体。
バウルら樹軍の力を吸収も放出も出来なくなったクーゲルシュライバーが、樹軍の攻撃を反射し始めたのだ。
「正体を現したな。まるでミラーボールだぞ偽黒よ!」
「……っ!」
「格好付けて黒を気取ってるから恥をかくのだ馬鹿者め!」
「許さない!」
はじめからなりふり構わず輝いたバウルと黒にこだわったセカンドの差、終了間際に晒される。
セカンドは、樹軍をナメ過ぎたのだ。
「全艦バウルに集中攻撃。こてんぱんにぶちのめせ!」
「ぬぅうううおおおっ!」
セカンドがバウルに集中攻撃を叩き込む。
バウルは攻撃を弾き、受け止め、避ける。
そして、午後九時。
「全軍、攻撃停止!」
海上でバウルが叫び、樹軍は即時攻撃停止。
「こてんぱん!」
しかしセカンドは攻撃続行。
黒を剥ぎ取られた怒りがもたらした致命的な判断ミスだ。
「バカめ!」
「「「やっちまったなー!」」」
空の輝きにバウルが叫び、樹軍が笑う。
そしてイベント会場。
大吉が呟いた。
「あれは時間外攻撃だな。エルフィン」
「反則ですね」
べえぇえちこおぉぉぉおん!
エルフィンの攻撃で黒の艦隊、一撃こてんぱん。
「なに? あの、デタラメ……」
こてんぱんにされた黒の艦隊が艦列を崩していく。
ここに、勝敗は決した。
勝者、要塞世界樹バウル率いる樹軍。
敗者、セカンド率いる黒の艦隊。
黒の艦隊の敗因、エルフィン知らず。
知ってたバウルは攻撃を止め、知らないセカンドは止めなかった。
圧倒的なデタラメが審判だと知らなかったのが、セカンドの敗因。
エルフィンが宇宙を引き裂く次元断層を作った張本人だとセカンドが知ったのは決戦から二日後、敗北の証である黒豆が届いた時の事であった……
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