10.黒の艦隊、大吉を要求する
「ん、もう朝か……そして、またか」
朝。大吉のアパート。
部屋の眩しさに大吉は目を覚ました。
大吉が寝てから潜りこんだのだろう。アイリーン、マリー、エミリが大吉にしがみついて眠って……いない。
「チカチカします大吉しゃま」「おへや、まぶしぃ」「まぶしぃーですぅ」
「……起きようか」
壁どころか部屋全体が眩しい。
三人だから輝きも三倍。壁、天井、床と輝きまくりだ。
他の部屋も輝きまくりだろうなぁ……うちのエルフィンがすみません。
と、大吉は他の住人に心で謝り起床する。
そして台所は、やっぱり超眩しかった。
「なぜ、なぜ夜這いしなかったのですか夢の私! 幼い頃なら仲良しスキンシップで押し切れたではありませんかバカーっ!」
「落ち着きなさいエルフィン。落ち着いて超眩しいっ!」
「眩しいです! デタラメ眩しいです大吉様タスケテ!」
壁を貫通する輝きだから目を閉じても超眩しい。
今度は幼女に変身しそうだなエルフィン。
と、思いながら大吉は声をかける。
「何も無いから落ち着けエルフィン。そしておはよう」
「お、おはようございます大吉様……そうですよね。何もありませんよね」
「当たり前だ」
ぺっか。
エルフィンの輝きが通常に戻り、一安心する皆である。
オカルト光が身体にどのような影響があるかは知らないが、周囲が見えないのは非常に困る。
見えるようになったので大吉は幼女達と一緒に顔を洗い、寝間着から着替えて食卓に料理でも運ぼうかと台所に戻った。
今の食卓はエリザベスの部屋だからだ。
が、しかし……
「エルフィン、料理を……へ?」
ぺかっ!
大吉の目の前で、輝きと共に料理が消える。
唖然とする大吉を前に自慢げにエルフィンが言う。
「輝き転送です」「ですわね」「です」
「……もうお前ら、黒捨てちまえ」
「「「ええっ!」」」
最高速度記録をどんどん更新していくオカルトに大吉が頭を抱えながら食卓部屋に移動すると、普段いない者が食卓についていた。
防衛省の谷崎だ。
「井出さん、おはようございます」
「おはようございます」
色々な事が起こっているからだろう、今日は食卓に谷崎が座っている。
テレビのスイッチはすでに入っており、ニュース番組が流れている。
『怪獣に続き今度は謎の小惑星、地球に衝突か?』
「すみません。一大事になってしまってすみません」
テレビに映る派手なタイトルを見て、谷崎に頭を下げる大吉だ。
『観測によると接近する天体は少なくとも千個以上。最大のもので直径六百キロ、平均直径二キロ。三日後に地球に二万キロの距離まで接近するという事です』
『しかし世界中の電波望遠鏡がこの天体から過去のテレビ電波を受信。太陽系外文明、つまり宇宙人が建造したものと推測されています』
『小笠原沖に出現した黒軍のような怪獣の可能性も指摘されています』
食事をしながらテレビを見ればすでにかなりの情報が発表されているらしい。大勢の出演者が様々なコメントを出している。
皆、色々調べてるなぁ……すみません。
大吉が心で頭を下げると新たな情報が入ったのだろう、急に画面が切り替わる。
『宇宙望遠鏡が接近する天体の撮影に成功しました』
画面に映ったのは、銀河を背景にした黒い丸。
「「「黒い!」」」
べかーっ!
その画像に輝き叫ぶエルフィン、フォルテ、エリザベス。
「なあ、あれはセカンドか?」
「「「うん!」」」
にぱっ。
大吉の問いに幼女達が輝く笑顔で頷く。
やはりあれがセカンドらしい。ゲーム通りの姿だ。
「私は輝くのに!」「私もですわ!」「銀なのです!」
「いや、あれは黒いとはちょっと違う」
また、どうでも良い事で騒いでるなぁ……
と、大吉は思いながら皆に説明を始めた。
「『スターフリート』の宇宙船は宇宙空間に存在する様々なエネルギーを利用出来るように作られているんだ。光をエネルギーとして吸収すると反射しないから黒く見える。だからあれは黒というより闇だな」
「つまり……吸収しなければ黒くない、と?」
「その通りだ。エネルギー吸収が不要ならば黒く見えないし、攻撃されれば鏡のようになってエネルギーを反射したりもする。そういう船なんだ」
「「「偽黒!」」」
べかーっ!
また輝く三人。
「あの黒、全てがニセモノ!」
「豊満な偽黒で世間をダマしているのですね!」
「黒に対する冒涜です! とんだ詐欺黒です!」
豊満とかやめい。
「井出さん……皆さんの黒へのこだわり、どうにかなりませんか?」
「すみません。ムリです」
頭を抱える谷崎に大吉が頭を下げれば、また新たなニュースがやってくる。
『謎の天体から要求と思われる文章を受信したと政府が発表いたしました。”我ら『黒の艦隊』はグラン、アクア、ウィンザーと共にある者との面会を希望する。六時間以内に回答せよ”との事です』
「「「大吉様にお泊まり要求!」」」
べかーっ!
またまた輝く三人。
「大吉様、このエルフィンが今から偽黒どもをこてんぱんにして参ります」
「偽黒のくせに大吉様を呼びつけるなど、何と図々しい!」
「偽黒をひんむいてひぃひぃ輝かせてやるです」
「やめい」
ヒートアップする三人を大吉がなだめていると、谷崎の携帯に着信音。
電話を終えた谷崎は何とも申し訳なさそうに頭を下げた。
「井出さん、お願いできますか?」
「……わかりました」
「「「ええーっ!」」」
驚く三人。
しかしこれが一番面倒が無い。
どうせ見知った仲なのだ。ややこしい事にはならないだろう。
困った事になっても皆がいるのだ。どうにでもなる。
と、大吉は楽観していた。
「いずれ会わなきゃいけないんだ。泊まるくらいいいだろ」
「「「そんなーっ!」」」
しかし……しゅぱたん!
そのお泊りに待ったをかける者がいた。
「お泊まりを先に約束したのはこのバウル! 偽黒ごときに譲りませぬぞ!」
「ややこしくなった!」
フォルテ経由で食卓の様子を伺っていた、要塞世界樹バウルである。
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