9.ロボは宇宙からの使者
「アイリーンでしゅ」「マリーです」「エミリですぅ」
「ようこそ日本へ。私は防衛省の谷崎と申します」
大吉アパート、玄関。
ぺこりと頭を下げる幼女達を前に、何とも微妙な笑顔で谷崎が頭を下げた。
「そしてアイリーンのグランでしゅ」
「マリーのアクアです」
「エミリのウィンザーですぅ」
ぐぉん! メカメカしい駆動音を立てて三体のロボが礼をする。
うわぁ、動いた、助けて! 変形したマンションの住人が叫ぶ。
未知の巨大ロボに住居を勝手に改造されれば当然の反応だ。
大吉は三人の頭を撫でながら言った。
「とりあえず地下に戻しなさい。みんなが迷惑してるから」
「「「はぁい」」」
ごぉんごぉん……手を振りながらロボ達が地下に潜っていく。
すみません。本当にすみません。
大吉は元に戻ったマンションの住人に深く頭を下げた。
幸いな事にマンションの機能は損なわれていないらしい。住人たちは恐る恐るドアを開いて外に出る。
「なんかエレベータが増設されてるぞ?」
「ここにあったヒビがすっかり綺麗に」
「このマンション、もうすぐ修繕だったよな?」
「必要なくね?」
「オカルトプレミアムだ!」
そして思いかげぬオカルトリフォームに歓喜する皆だ。
家は一戸建てもマンションもずっと住める訳ではない。
日々の風雨や災害に家屋は傷むもの。修繕を定期的に行わなければならない。
マンションのような集合住宅はその為の費用を皆で積み立てている。
そして修繕費が積立金を上回れば臨時徴収されるもの。揉める事も多いのだ。
まったく現金なものである。積立金だけに。
まあ問題があったら谷崎さんに相談しよう……大吉は問題をまるっと未来にぶん投げて、スマホで会社に遅刻すると連絡を入れる。
当たり前だが店長からは小言の嵐。
しかし谷崎が苦慮しているのに大吉だけとんずらする訳にもいかない。
大吉はひたすら頭を下げる。
「大吉様が困ってるぞ」「一大事!」「ブリリアント様に連絡だ」「やっほー」
「……荷物は壊すなよ?」「「「「はぁい」」」」
荷物が遅れてクレームが入ると店が困る。
いつもなら「やめい」の一言で止めるガーゴイル達に大吉は乗っかる事にした。
皆様ご迷惑をおかけします。今日の配達は驚きの怪獣航空便です。
店長にブリリアント達が代わりに配達する事を告げて大吉は電話を切り、谷崎と幼女達の会話に戻った。
「赤黒のグランは陸に強いでしゅ」
「青黒のアクアは水に強いです」
「白黒のウィンザーは空に強いですぅ」
「大吉さん、これはそれぞれのロボで陸海空を分担しているという事でしょうか」
「その通りです。それとこいつらは戦闘ロボですが軍団を構築する工場でもあります。グランなら陸軍、アクアなら海軍、ウィンザーなら空軍が作れますよ」
「それはビックリドッキリですね」
宇宙船から降下したロボは戦いながら資源を集め、自らの軍団を構築する。
一匹見つけたら三十匹いると思え。Gもびっくりな自己増殖マシンなのだ。
そして大吉も谷崎もムリヤリな黒をまるっとスルー。
もはやそこにツッこむのを諦めていた。
「それで来日の目的は?」
「「「メランしゃまに会いに来ました!」」」
にぱっ。輝く笑顔で答える三人。
メランとは大吉が『ロボ』で使った名だ。
「ご身分を証明するものはありますでしょうか?」
「「「マイナンバーカードありますー」」」
「でしょうねぇ……拝見します」
「「「はぁい」」」
エルフィンが持っていたのだから幼女達が持っていてもおかしくない。
そして偽造の証拠は見つからないだろう。ついでに驚きの日本国民に違いない。
それでも手続きはしなければならない。谷崎は三人からマイナンバーカードを受け取り自衛隊員に渡した。
「それで、どこからいらしたのでしょうか?」
「とおくから来ましたでしゅ」「すごく、とおく」「お船に乗ってきたですぅ」
「外国ですかね?」
首を傾げる谷崎に三人は上を指差した。
「「「おそらー」」」
「……井出さん、このゲームに宇宙船は出てきますか?」
「出てきますが、ゲーム本編には関わってきません」
「宇宙から攻撃とかはないのですか?」
「ありません。支配と資源収集が目的のロボはあらゆる物が資源です。もちろん星に生きる動植物も資源。星の外から攻撃するのは資源破壊行為と見なされているのです……まあ、ゲームの縛り設定ですけど」
実際のこいつらは別の事を言うかもしれないなと思い三人を見ると、うんうんと大きく頷いている。
「さすがメランしゃま」「ご飯は大事です」「星はご飯を勝手に作るですぅ」
「なるほど……では、あなた方は宇宙船をお持ちなのですね?」
「「「もってなーい」」」
谷崎の言葉に、三人はふるふると首を横に振った。
そういえば三人の宇宙船は無かったなと大吉はスマホを見る。
最初と最後にチョロっと出るだけの宇宙船など出す気も無いのだろう。
しかし、大吉のスマホの中に宇宙船はある。
『ロボ』の後に大吉がハマった宇宙ゲー『スターフリート』の宇宙艦隊だ。
「では、どうやって地球までいらしたのですか?」
「お友達でしゅ」「近くまで送ってくれたです」「人探しを手伝うですぅ」
「誰に?」
「「「せかんどおねーさん!」」」
「井出さん、ご存じですか?」
「たぶん……このキャラですね」
大吉がスマホを操作して谷崎に見せる。
セカンド。
ロボの幼女達と同じような宇宙船の分身達であり、艦長を補佐する副長でもある。
スマホ画面を覗きこんだ三人は大喜びだ。
「せかんどおねーさんだ!」「おねーさん!」「おねーさんですぅ!」
「大吉様、また女性ですね」
「ですからエルフィンさん、それ禁句です」
谷崎の妙に気遣う視線が痛い。超痛い。
仕方無いじゃん! ゲームだから仕方ないじゃん!
エルフィンの素朴な疑問にまたも心で叫ぶ大吉だ。
「……で、セカンドも人捜しをしてるのか?」
「えーと、しゅば」「しゅば」「しゅば……?」
「シュバルツか?」
「「「それだ!」」」
にぱっ! 幼女の笑顔が輝く。
「その名前を知ってる人を知らせてくれって頼まれてるでしゅ」「もう見つかったです」「連絡するですぅ」
「「「さすがメランしゃま!」」」
ビーッ、ビーッ……
『これより発進いたします。白線の後ろまでお下がり下さい……』
再びマンションが変形をはじめ、ロボが地上に現れた。
頭上が激しく輝き、三体のロボの頭上を通るような光の輪が形成される。
激しく火花を散らす輝きはやがて安定し、輪から見えた空が黒に塗りつぶされた。
空間が切り裂かれたのだ。
「ぬりぬり」「うんしょ」「よいしょ」
切り裂かれた空間の下で幼女達はスケッチブックを取り出してクレヨンで塗り塗りして絵を描き、紙飛行機にして輪の中に投げ込んだ。
「「「とどーけ!」」」
「超光速通信か!」
幼女達が紙飛行機を投げるのが妙にローテクだが、あれで光よりも速く届く。
そして、ぽーん……大吉のスマホにメールが届いた。
『みつけた』
「……」
短い文面にまた俺なのかと思う大吉だ。
「……井出さん。先ほども言いましたが、未届けのオカルトは困ります」
「まだ地球に来てもいないじゃないですか!」
その日、世界中の天文台が何年も昔のテレビ電波を受信した。
コンタクトかよと、次の日のニュースを見て大吉は頭を抱えたのである。
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