8.ロボが静かに寄ってきた
「あやめさん! なんか大変な事になってますよ!」
テレビを前に大吉が騒ぐ。
騒ぐ先は当然のようになぜかいる五月あやめ。
フラットウェスト社第一開発部の当事者だ。
「そうですねぇー」
しかし当事者五月あやめ、興味無し。
ずずーっ、と食後の茶をのんびり飲む様に呆れる大吉だ。
「いや、あやめさんの所のゲームでしょ?」
「あれは広報部と第二開発部の仕事ですから。第一開発部はノータッチです」
またかよ。
スマホゲーの時と同じ返事にまた呆れる大吉だ。
「いやいや、それでもファンサービスの目玉だったんですよね? どうしてこんな事になってるんですか?」
「そりゃ、拾ったロボを使ったからでしょー」
「拾った!?」
そして五月あやめ、爆弾発言。
とんでもない事言い出した。
「あれ拾ったんですか? 拾ったものにあれだけ大規模な工事したんですか?」
「いやー、工事も拾ったロボまかせみたいですよ?」
「作業員いましたよ?」
「隠す足場を組んだだけと聞きました」
「なんつーいい加減な……つまり、あれはオカルト?」
「はい」
それ、法的に駄目だろ。
コンプラなんちゃらはいいのかと、あやめの言葉に頭を抱える大吉だ。
「なんで拾ったロボ使ってるんですか……」
「それを大吉さんが言いますか?」
「うっ……」
呻いた大吉が食卓を見回せばエルフィン、フォルテ、エリザベス。
皆オカルトだ。
そしてエルフィンは運送会社で集配手伝い、フォルテら黒軍は海と空で輸送手伝い、エリザベスはじいさんの山で獣と畑仕事だ。
人の事をとやかく言えない。
「大吉さんと一緒ですよ。相手がオカルトでも友好的ならそこまで気にする事ではありません。役に立つならなおさらです」
「でも、逃げられましたよ?」
「そりゃそうでしょう。来日目的はエルフィン達と同じく人捜しでしょうから」
自社の事なのに何とも他人事なあやめだ。
「エルフィン達は気付いてたのか?」
「当然です」
「承知しておりました」
「向こうも知ってたと思うです」
大吉の言葉に皆がうなずく。
「なんで教えてくれなかったの?」
「大吉様が知ってる必要あるですか?」
「……ないな」
首を傾げるエリザベスの言葉はまったくもってその通り。
周囲がオカルトまみれなオカルトホイホイであっても大吉の仕事ではない。大吉はあくまで運送会社の社員。谷崎のようなオカルト担当公務員ではないのだ。
「谷崎さんには昨日、私の方から連絡しておきましたわ」
「万が一敵対してもあの程度の相手は私の敵ではありません」
「さすが世界を切り裂くデタラメ一号です!」
連絡万全、対策万全。
大吉の知らない所で皆、しっかりと動いている。
餅は餅屋、オカルトはオカルト。
どのみち大吉に出来る事は谷崎に知らせる事くらい。
エルフィン達が解決してくれるならそれでいいかと思う大吉だ。
「それにしても大吉様。私達の誰もあの方々を知らないのですが……どちら様なのでしょうか?」
「それは当然だエルフィン。他の星が舞台のゲームだからな」
「ええっ!」
「まさかの宇宙文明!」
「UFO! オカルトです!」
「お前らが言うな」
突然発生した次元断層によって二分された、動乱の宇宙。
スマホにいるのにまだ出て来ていないロボゲー、宇宙ゲー、生産ゲー、スパイゲーはそんな宇宙を舞台にしたゲームだった。
だからエルフィン達は知らないだろう。何だかんだ言っても星からは出ていないからだ……宇宙を切り裂いた覚えはあるかもしれないが。
「大吉さん、そんな事より出勤時間ですよ」
「お、もうそんな時間か」
まあ、今はそんな事より日常だ。
大吉が手早く朝食を片付け着替えてアパートを出れば、いきなり警報ブザーが鳴り響く。
ビーッ、ビーッ……
『これより発進いたします。白線の後ろまでお下がり下さい……』
前、右後ろ、左後ろ……
大吉アパート周囲のマンションが謎の変形をして、地面からロボが現れる。
赤、青、白。まさしくフラットウェスト社から消えたロボだ。
「ロボが出て来たぞ!」
「なんだこれ!」
「いつの間にこんな工事を!」
変形したマンションの住人、ベランダから外を見て呆然。
見上げる大吉も呆然。
そして掃除をしていた自衛隊員も呆然。
同じく掃除していた谷崎が大吉に言う。
「……井出さん、未届けオカルトは困ります」
知らないのに未届け扱い。
谷崎の中ではオカルト = 大吉なのである。
「いえ、今回は私関係ありませんから。フラットウェスト社ですから」
「ですが周囲のマンション、変形して地下からロボが現れましたよ?」
「ほ、本当ですよ?」
「本当に? ほら、ロボの足下でこちらを見てるあの子達に見覚え無いですか?」
谷崎が指さすロボの足下、大吉に熱視線を注ぐ幼女達。
プレイヤーと一緒に行動するロボの分身だ。
「……ありますね」
「やっぱり未届けだったんですね」
「いえ初対面ですよ。少なくとも現実では」
だいたい昨日までこんな穴は無かったはずだ……たぶん。
大吉はため息を吐き、これで違かったら恥ずかしいなと思いつつ声を掛ける。
「よく来たな。アイリーン、マリー、エミリ」
にぱっ!
どうやら当たりらしい。幼女達の笑顔が輝いた。
「やっぱりメランしゃまだ!」「メランしゃま!」「しゃまーっ!」
わぁい!
輝く幼女達が大吉に群がる。
「大吉様がされるゲームは、必ず女性が側にいるのですね。不思議な事です」
「エルフィンさん、それは禁句です」
エルフィンが不思議ではない共通点に首を傾げ、谷崎がとどめを刺す。
仕方無いじゃん! ゲームだから仕方ないじゃん!
幼女達にもみくちゃにされながら、大吉は心で絶叫した。
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