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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-3.その他、いろいろ現れる
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7.散歩は犬の性

「大吉様散歩行くです行きましょう!」


 夜、大吉アパート。

 仕事帰りの大吉のもとに、リード付きの首輪をつけたエリザベスがやって来た。

 人の姿で首輪とリード。危なさ半端無い。


「……その首輪とリードは、どうした?」

「あやめに買ってもらいました!」


 暇なのか? 暇なのかあやめさん?

 タイトルを乱発しているフラットウェスト社第一開発部勤務なのに暇なのか?

 と、首を傾げる大吉だ。


「大吉様、エリザベスと散歩に行くのですか?」

「まあ、エリザベスは狼だからな」


 運送会社から一緒に帰宅したエルフィンに大吉が答える。

 犬といえば散歩。

 それは縄張りを持つ狼も変わらないだろう。

 しかし街は人の縄張り。

 だから勝手に歩き回るには首輪にリード、そして同行者が必要だ。

 エリザベスは大吉にそれを求めているのだ。


「人の姿なら一人で散歩出来るではありませんか」

「一人では面白くないです」

「なるほど。それでは私も一緒に行きましょう」

「えーっ「何か?」イエ、ナンデモアリマセンデス……」


 ぺっか。

 エルフィンが輝いて着替えを完了する。

 うわ、すげえ便利だオカルトベンリー。

 まあ散歩は犬を飼う者の義務の一つ。大吉も普段着に着替える。


「大吉様、レッツ散歩です!」

「いや、その前に首輪を外すか狼になるかしてくれ」


 人の姿で首輪とリードは危ない。危なすぎる。


「じゃ、狼になるです」


 エリザベスが輝いて狼の姿に変わる。

 大吉はエリザベスが咥えたリードを掴み、エルフィンと共に夜の散歩に繰り出した。


「あ、大吉様がお出かけだ」「散歩?」「犬の散歩だ」「ブリリアント様に……」「迷惑だからやめい!」「「「「ええーっ!」」」」


 ガーゴイル達の囁きに大吉は釘を刺す。

 黒軍を呼ぶ時は事前連絡して下さいと、谷崎から土下座要求されているのだ。

 今は夜。当たり前だが谷崎は勤務を終えている。

 自衛隊員が二十四時間交代勤務しているが連絡すれば谷崎が呼び出されるのは確実。手に余る事柄はぶん投げられるものなのだ。

 大吉達は見張りの自衛隊員に散歩に行く旨を告げ、アパートを後にした。


「たのしぃー、たのしぃー」


 ちゃっかちゃっかちゃっか……エリザベスが爪を鳴らしながら道路を歩く。

 エリザベスが進むのに任せて大吉達は路地を歩き、大通りを歩き、広い場所へとたどり着く。

 大きな広場とその奥にそびえる高層ビル。

 『エクソダス』を開発したフラットウェスト社の本社だ。

 さすがはゲーム会社。夜でも明るい。

 週に何十本という狂気の速度でゲームタイトルを乱発するのだ。常にマスターアップ前のデスマーチ状態……の、はずだ。


「ここであやめが働いているのですね」

「そうだな……たぶん」

「たぶん?」

「いや、本来ゲーム開発者とか恐ろしく忙しいはずなんだがなぁ……」


 しかし、あやめの日常は大吉と大差無し。

 大吉と一緒に朝食を食べ、大吉と同じ時間に出勤し、大吉の帰宅時間にスーパーの袋を持って現れる。

 このフラットウェスト社で何をしているんだろうと首を傾げる大吉だ。


「大吉様、あれは何でしょう?」

「何かのイベントの準備じゃないか?」


 広場には何かのイベントの準備だろう、足場が組まれている。

 その数、三つ。

 足場の内側は幕で隠れてわからない。

 時々作業員が幕から出入りしている所を見るに今も何かの作業中。突貫工事だ。

 後であやめに聞いてみようと思いながらエリザベスと広場で遊び、大吉達は家に帰った。

 そして次の日の夜。


「さんぽ」

「ブリリアント、お前……」


 首輪。そして口に咥えたリード。

 竜軍の長なのに、妻も子供もいる竜なのに……犬!


「井出さん。我が国の平和のために散歩に連れて行ってあげて下さい」

「すみません。本当にすみません」


 事前連絡を受けて待機していた谷崎にひたすら頭を下げて、大吉は今日も散歩に繰り出した。


「「たのしぃー、たのしぃー」」


 ちゃっかちゃっか、ののっしののっし。

 エリザベスとブリリアントは昨日と同じルートを歩き、またフラットウェスト社前の広場にたどり着く。


「足場を撤去してるのか」


 昨日はわずかしか居なかった作業員が、慌ただしく動いている。

 そして広場にトラックが入り込み、足場の積み込み作業を行っていた。


「「さんぽ」」

「……あの人達の邪魔をするなよ?」


 しかしそれは無理な注文。

 ブリリアントが広場にいるだけで作業員の手が止まるからだ。

 昨日は大型犬エリザベスだけだから作業員も別に気にしなかったが今日の犬は竜サイズ。でかい。

 作業員はあんぐりと口を開けて大吉達をガン見。

 すみません。我が国の平和の為なんです。

 と、夜間の突貫作業を邪魔する後ろめたさに大吉はひたすら頭を下げる。

 さらに次の日。


「「「さんぽ」」」

「……わかった。わかったよ。あとバウルに今度泊まりに行くからお前は来るなと言っておけ」


 首輪をつけたガトラス、ボルンガ、ビルヒムに渡されたリードを握って大吉が散歩に出かければ、広場の足場は完全に撤去されていた。

 その場所にあるのは立ち入り禁止の柵に囲まれた、切れ目のある地面だ。


「何の工事だったんだろ?」

「あやめはファンサービスイベントの目玉と言ってましたよ?」

「手間暇かかってるです」


 あやめの話によると近日開かれるファンサービスイベントでお披露目するらしい。

 さすがフラットウェスト社。やたらとお金がかかっている。

 大吉達が感心していると、ゴゴン、ゴンゴンゴン……柵の中の地面が割れていく。

 ぽっかりと開いた穴からせり上がってくるのは台座に立つ鋼の巨人だ。


「『ロボ』か」


 大吉が呟いた。

 『ロボ』は七年前に発売されたエクソダスのゲームタイトル。宇宙船から降下して星を侵略していくロボアクションゲームだ。

 足場が三つあったので現れるロボも三機。

 大吉達が見つめる先でゆっくりと、赤、青、白の鋼の巨人が現れる。

 全高はガトラスよりもはるかに高く、全高五十メートル超。

 さすがフラットウェスト社。やる事が派手だ。

 そういやぁ、お台場にアレが出来た時は見に行ったなぁ。

 実物大サイズはデカくて驚いた当時を思い出す大吉だ。


「前々から思っていましたが、いい加減なタイトルですよね」

「その後延々とロボゲーを乱発したからな。格好いいタイトル名を考えるのが面倒臭かったんだろうなぁ」

「なるほど。それで大吉様も『ロボ』で遊んだのですか?」

「発売日からサービス終了までハマッたよ。赤いのは『グラン』。青いのは『アクア』。白いのは『ウィンザー』と名付けたな」


 当時を懐かしむ大吉。

 作業員は今日もあんぐりと口を開けて大吉達をガン見。

 皆を遊ばせながら大吉はひたすら頭を下げた。

 そして次の日。


「こ、これは素晴らしいプレイですわ……大吉様、私のリードをお持ち下さい」

「待て、今から行くのは散歩だフォルテ。性癖の発見じゃない」

「他の軍団長が首輪とリードで散歩したのですから私もそのようにいたします。さあ大吉様、新たな世界へ旅立ちましょう!」

「ぉおい!」


 目眩を感じながら昨日と同じように散歩に出かければ、途中で警官と遭遇だ。


「君、ちょっと話いいかな?」

「へ?」

「こんな夜中に女性に首輪付けて紐で引くとは、一体何をしているんだね?」

「……え、えーと」

「ちょっと署まで来なさい」


 大吉、不審者扱い。

 身元保証人として呼ばれた谷崎が警官に頭を下げ、ようやく解放された。

 そして次の日。


『今日はフラットウェスト社が面白い物を作ったので紹介しまーす』

「お、アレがテレビで紹介されるのか」


 エリザベスの部屋、食堂。

 広くなった食卓で皆で朝食を食べながら、大吉はテレビを眺めていた。

 あれは話題になるだろうと思っていた大吉だが、しかし……


『地面が開いて現れるのは……あれ? あれーっ!?』

「へ?」


 レポーターが素っ頓狂な声を上げる。

 そして大吉も素っ頓狂な声を上げた。


 せり上がってきた台座に何も乗っていなかったからである。

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― 新着の感想 ―
[一言] グランゾートだこれー!?
[良い点] 黒くないんですけど [一言] フォルテさん侮りがたい
[良い点] フラグかなあ? やっぱりフラグだった!
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