6.手狭になってきましたよ
「ん、もう朝か」
朝。大吉のアパート。
壁の眩しさに大吉は目を覚ました。
身体は「お手」のし過ぎで筋肉痛だ。
結局あの後、皆の「お手」に踊って踊って踊りまくり、日が沈むまで「お手」し続けたのだ。
でかい駄々っ子恐るべし。
まったく……ん?
頭をかいた腕をベッドに投げ出せば、もふもふ感触。
その主は大吉に寄り添うように寝ている銀狼。
エリザベスだ。
「おはようエリザベス」
「大吉様、おはようございます」
くぁーっ、ぺろぺろぺろぺろ。
身体を伸ばしたエリザベスが大吉の顔を舐める。
甘える大型犬の癒やし効果はなかなかのもの。狼だが。
大吉もしばらくエリザベスを撫で、もふもふを堪能する。
「『フロンティア』でもよくこうして休息していたなぁ」
「はいです」
「夢の中でもそうだったが、お前のもふもふは心地いいなぁ」
「嬉しいですが大吉様……一緒に起きてくれませんか?」
「……そうだな」
べかーっ。輝きで壁が眩しいし。
窓から入る陽光よりも壁が眩しいなんてうちだけだろうなぁ……大吉は筋肉痛の身体に顔をしかめつつ、エリザベスと一緒に部屋を出る。
台所は……超眩しかった。
「私がやったら実家行きなのに、犬なら良いのですかくううっ!」
「落ち着きなさいエルフィン。落ち着いて超眩しいっ!」
フォルテが諫める中、エルフィンが嫉妬でべかーっと輝いている。
壁を突き抜けるオカルトの輝きだ。
このまま輝き続けたらエルフィン、犬になりかねんな……眩しいエルフィンに尻尾と犬耳を幻視しながら、大吉は声をかけた。
「おはようエルフィン」
「だ、大吉様おはようございます……何もありませんでしたか?」
「犬と何をするんだよ」
「そ、そうですね。そうですよね……」
ぺっか。
安心したらしい。輝きが霧散して普通に戻るエルフィンだ。
しかし毎朝この眩しさは目に悪い。
そしてエルフィンが犬になって押しかけられてもたまらない。大吉は背後で尻尾を丸めて震えるエリザベスに言った。
「エリザベス。今後は俺の寝床に潜り込むなよ? 次やったら実家のじいさん家に戻すから」
「はいです。次からは人の姿で『べかーっ!』しません絶対しません! 大吉様怖い怖いです!」
ぶぉんぶぉん! エリザベスが激しく頷く。
輝きだけでこの始末。さすがデタラメ一号。
そしてエリザベスの実家もめでたくじいさん家に確定だ。
元々じいさん家の山の主をしていたのだから間違いではないだろう。
いざという時はまかせたじいさんと、大吉は心でまるっとぶん投げた。
「それと、このアパートはペット駄目だから人の姿でいてくれ」
「はいです」
エリザベスが輝き、人の姿に変わる。
大吉アパートは借家。
家主の定めたルールに従わねばならない。契約時にはそうなっていたはずだ。
しかしそんな大吉に異を唱える者がいた。
当たり前のように食卓についている隣人、五月あやめだ。
「大吉さん回覧板見てないんですか? 今はペットOKですよ」
「へ?」
「今はペットどころか竜も巨人もスライムも屍もOKです」
「いや、屍は駄目だろ……誰かが持ち込んだらどうすんだ」
「普通の屍なら警察の出番に決まってます。当たり前じゃないですか」
つい最近までペット禁止だったのに今ではペットOK。
犬猫どころか竜も巨人もスライムも屍もOK。
さすがはオカルトプレミアム。家主もえらく寛容だ。
「それでは、朝食にしましょう」
エルフィンが食卓に朝食を並べて、皆が席につく。
大吉、あやめ、エルフィン、フォルテ、エリザベス。
狭くなったテーブルに大吉は苦笑いだ。
「今度、大きなテーブルを買ってこないとな」
「大吉さん、大きなテーブルを置けるほどダイニングキッチンは広くないですよ」
「それもそうか……どうしようか」
「谷崎さんに相談してみたらどうです?」
「食卓が狭いんですって防衛省に相談するの?」
あの人ハゲるよあやめさん?
と、オカルトと防衛省の板挟みな谷崎を不憫に思う大吉だ。
しかしこのままでは、ちょっと狭い。
今はまだ良いがこの先もっと狭くなるだろう。なぜなら大吉のスマホに居座る未登場キャラがまだいるからだ。
大吉がどうしようかと考えていると、フォルテが手を上げ提案する。
「それなら大吉様、これを機にバウル様に引っ越しなされてはいかがですか? 豪華な部屋をご用意されているそうですよ」
「どんな部屋?」
「庭の面積が四平方キロ、部屋の総面積が一平方キロだそうですわ」
「どこの宮殿だよ?」
というか通勤はどうする? ブリリアント通勤?
そして転入届はどの自治体に出す? 住所不定になるの? 会社員なのに?
社会人として色々とダメだなぁと思う大吉だ。
「ここは私の輝く念で空間わん曲「「「「やめて」」」」ええっ!」
当たり前だがエルフィンの案は全員全力却下。
向こうの月みたいに地球や月がスライスされたら世界の敵認定間違い無し。賠償がいくらになるのか見当もつかない。
しばらくこのままで行くか……
と、大吉が考えていると、エリザベスがまともな案を出してきた。
「私の部屋の一部屋とDKを合わせて食堂にするです」
フォルテの部屋は黒軍と防衛省の連絡部屋を兼ねている。
エルフィンは大吉の護衛なので絶対に部屋を譲らないだろう。
あやめは入り浸っているが一応部外者だ。彼女の部屋をオカルト集会所にするのは気が引ける。入り浸ってはいるけれど。
大吉はしばらく考え、エリザベスの案を採用した。
「じゃあ、とりあえずそれでいくか」
「デタラメ一号が輝かなくて良かったです」
「ええっ!」
「それでは今日の夜からそのようにいたしましょう」
皆がエリザベスの案に賛同する。
決定だ。
「これで谷崎さんの頭髪も安心ですね大吉さん!」
「いや、エリザベスの部屋も借りてるの防衛省だから」
一部屋使ってしまうので食卓が狭いんですと相談するのと大差無い。
谷崎さんすみませんと、大吉は心で頭を下げるのであった。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。