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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-3.その他、いろいろ現れる
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5.黒の銀狼、獣を導く

「しまった! これならどうですか!」

「変身する狼もいねえよ!」

「でも狼はこの世界にもいるではありませんか!」

「少なくとも喋る狼はいねえ!」

「何ですかこの世界は!」

「それはこっちのセリフだよ! とりあえず座れ! おすわり!」


 狼に変身するのにツッこみ、喋るのにツッこみ、文句にツッこみ。

 ツッこみ疲れた大吉はエリザベスを座らせた。

 銀の体毛がとても美しい、大きな銀狼だ。

 そして森の獣の信頼を得ているらしい。エリザベスの背後にはバウルにあぶり出された鹿、猪、熊といった野生生物、そして野良であろう犬と猫など獣達が伏せながら鳴き、エリザベスを応援していた。

 すでに勝負はついた。

 そしてバウルの枝の壁で逃げる事は不可能。まな板の鯉状態の彼らは主であるエリザベスを応援するしかないのである。

 銀狼に変身したエリザベスは彼らの期待が分かるのだろう。お座りを正すと大吉を見据え、口を開いた。


「私は黒の銀狼、聖女エリザベス・ウルフハウンド」

「……黒か銀かどっちかにしないか?」

「では黒狼で」

「銀だろ」


 色アンド色。

 光の黒騎士よりも始末が悪い。

 しかしそんなエリザベスに深く頷く者達がいる。

 光の黒騎士と黒軍だ。


「迷い無く黒とは、わかってますね!」

「ぎゃーっ! 災厄一号!」


 エルフィンにエリザベスの尻尾くるん。

 犬っころの恐怖行動だ。


「うむ! なかなか見所のある獣人だな!」

「ぎゃーっ! 災厄二号!」


 そしてブリリアントにエリザベスがお腹ごろん。

 犬っころの完全降伏状態。好きにして状態だ。

 完全降伏したエリザベスはごろんごろんと転がりながら、大吉に叫んだ。


「二大災厄ではありませんか! デタラメ一号、数の二号ではありませんか! なぜそんなの従えてるんですか! あなた災厄の元締めですか!」

「違うぞ」


 半狂乱のエリザベスにツッコミを入れながら、大吉はハマッたゲームを思い出す。

 『フロンティア』ではエルフィンと黒軍は災厄扱い。

 RPGの定番である世界の異変の元凶ツートップ。それがエルフィンと黒軍だ。

 『フロンティア』の舞台はエルフィン達のいる大陸から海を隔てた別の大陸。そこで繁栄していた獣人族が世界の異変に立ち向かうというストーリーだった。

 エルフィン、ここでもラスボスだ。


「大吉様、獣人族のゲームも遊んだのですか?」

「ああ。海を隔てたお前らのとばっちりで俺ら大変というゲームだった」

「「「「「「「うっ……」」」」」」」


 大吉の言葉にエルフィン達が呻く。

 ゲームでは海を渡り災厄と最終対決する流れだったが現実は夢よりデタラメだ。

 事実は小説よりも奇なりという言葉があるがゲームも同様。

 現実ではあり得る突拍子もないデタラメは創作物では「こんなのねぇよ」と読者やユーザー離れを招く劇薬。他者の理解と共感を得られねば儲からない創作物の限界なのである。


「現実はもっとひどかったです。夢では月は割れなかったです! 『壁の花にもなれない女!』なんて隕石落ちてこなかったです! こいつらデタラメ過ぎです!」

「「「「「「わかる!」」」」」」

「うっ!」


 黒軍が頷く中、ただ一人呻くエルフィンだ。


「わかるぞエリザベス。こやつのデタラメ振りには俺達黒軍も苦労したのだ」

「海を隔ててなおデタラメ。我も何度こてんぱんにされた事か……」

「デタラメ過ぎるもんなぁ」

「さい、やく、さい、あく」

「星どころか空間すらこてんぱんですからな。まったく規格外でございます」

「あなたも本当に大変でしたわね」


 エルフィン一人だけアウェー。


「いや、お前らも災厄扱いだから。災厄二号だから」

「「「「「「うっ!」」」」」」


 しかし大吉から見ればどっちもどっちだ。

 強力な台風一号とちょっと勢力の弱い台風二号みたいなもの。

 どちらも災害である事に変わりは無い。


「ま、ゲームの話はおいといて……今はじいさんの畑だな」


 現実はもっとデタラメなのはまるっとスルーで、大吉は話を戻した。

 エルフィンがエリザベスに問う。


「エリザベス、私の魔力障壁を破壊しましたね?」

「……はい」

「そして黒豆を、おじいさんの黒豆を食い散らかしましたね!」

「ひいいっ!」

「エルフィン、黒豆もおいておけ」


 黒豆でヒートアップするエルフィンを大吉が宥め、じいさんにバトンタッチ。

 エリザベスは淡々と話し始めた。


「この世界に渡り森をさ迷っていた所、食べ物を取れる範囲が年々狭くなって困ると彼らから苦情を受けたのです」

「ほぉ、狼の嬢ちゃんは獣の言葉がわかるのかい」

「獣人族は獣でもあり人でもあるのです。近くにある食べ物は謎の光で近づけないと彼らが言うので幻獣で壊したのです」


 おおーんっ……エリザベスが咆哮し、輝く幻獣を召喚する。

 じいさんは幻獣の輝きに目を細めた。


「まぁ、気持ちがわからん事も無い。この畑もわしが子供の頃はただの森じゃったからのう。わしらが食い扶持のために獣を追い立ててる事は確かにその通りじゃ」


 人が森を住宅や田畑にし続けた結果、獣と人の距離が近くなったのだ。

 大吉もテレビで良く見る社会問題の一つ。食いものを育てて食べる人と育てず食べる獣の価値観の違いだ。


「だからと言って譲る気は無い。ここの畑はわしとばあさんが育てたものじゃ。何もせずにただ食うのは許さん。狼の嬢ちゃんにはわかるな?」

「……はい」


 しかし……意思疎通出来るなら話は別だ。


「じゃから、働け」

「へ?」


 じいさん、獣にとんでも無い事言い出した。

 素っ頓狂な声を上げる大吉だ。


「狼の嬢ちゃんがおれば獣も働くじゃろ。実はわしもこの山で少し困った事があってのぅ……実はこの山、松茸が採れるんじゃよ」

「げっ」


 日本の高級キノコの代表格だ。


「金になるものがあると獣よりも人の方が始末が悪くての。わしの山だというのに採ったの俺だから俺のものとか屁理屈半端無い。そんで遭難してわしらが毎年山狩りじゃ。まったく迷惑なへなちょこ連中よ。獣達にはそやつらの監視を頼みたいのじゃよ。畑を耕すのを手伝ってもらえばなお良いのぅ」


 じいさん話が通じるとわかったとたん、無茶ぶり半端無い。


「でもじいさん、オカルトだぞ? たぶんそのうち無くなるぞ?」

「その時はまた田畑を守って戦うだけの事じゃ。せっかく話が通じるのだから使わんと損じゃろ。細かい事を気にするな」


 じいさんはカカと笑い、腰に吊した鉈を抜く。


「それとも……わしの畑で肥えた分、鍋で返してくれるかの?」


 獣達阿鼻叫喚。

 エリザベスにやりますやらせて下さいと懇願し、雇用関係が成立した。

 今日からじいさん、山の主だ。


「よぅし、明日からお前らの食い扶持分の畑を広げるとするかのぅ。畑はいいぞぅ。何せ食えるもんしか育てんからのぅ。キリキリ働け獣ども」


 じいさんの言葉に獣達が姿勢を正す。


「ではこれで解決ですね。魔力障壁はどうしましょう?」

「無くていいじゃろ。勝手に食ったら鍋にするからの」

「働きますから、働かせますから鍋は勘弁してあげて下さい!」


 とにかくもこれで解決。後はじいさんとエリザベスに任せよう。

 あとは……大吉はふと思い、エリザベスに聞いてみる。


「エリザベス」

「はい?」

「お前も、誰かを探しにこの世界に来たのか?」

「はい」


 エリザベスが頷く。


「お前が探している奴って……勇者アーテルか?」

「……なぜ、その名を知っているですか?」

「いや、八年前にアーテルという名でお前と一緒に旅してたからな。俺のスマホゲーに他の奴らみたいにお前もいるし、もしかしたらと思ってな」


 大吉がスマホを見せる。

 エリザベスは大吉のスマホをしばらく見つめ、ぷいっと横を向いた。


「獣人族はそんなものよりボデーランゲージです! アーテル様は求めれば必ずしてくれました!」

「えーっ……あれ、やるの?」

「するです! アーテルならするです!」

「……わかったよ」


 ブンブンと尻尾を振りながらエリザベスが吠える。

 仕方無い。こっ恥ずかしいが仕方無い。

 大吉は踊り始めた。


「大吉様?」


 皆が怪訝な顔で大吉を見つめる中、大吉は踊り続ける。

 くそぉ、こっ恥ずかしい。

 と、思いながら大吉が踊っているとエルフィンの上が騒がしい。

 バウルに住む黒軍だ。


「大吉様が不思議な踊りを!」「不思議な踊りとはなんたる不敬!」「聖なる儀式に決まってるだろ!」「きっと俺達には分からないすごい意味があるに違いない!」「もっと近くで拝謁だ!」「「「ふりーふぉーる!」」」


 エルフィンが背負ったバウルから次々と黒軍が降下してくる。

 また観客倍増か! また羞恥倍増なのか!

 しかしここで止めれば最初からやり直しだ。恥を捨てろ井出大吉!

 と、赤面しながら大吉は踊り続ける。

 ステップ、ターン、腕振り、足上げ、ジャンプ。

 ラストは野球投手のアンダースローのフォームで腕をエリザベスに振り抜き、手の平を上に。

 大吉は叫んだ。


「おぉぉぉー手ぇぇぇぇぇーぃ」

「わんっ!」 


 エリザベスが差し出した手に前足を乗せる。

 これが勇者アーテルと聖女エリザベスの絆の証。

 これでもかとボデーランゲージを詰め込んだ、二人だけの『お手』だ。


「夢の通りですアーテル様! 勇者様は本当にいらっしゃったのですね!」


 ぺろぺろぺろぺろ……エリザベスが大吉に飛びついて顔をなめる。

 もふもふに埋もれる大吉。

 そして呆れるじいさんだ。


「あれだけ踊ってただの『お手』……大吉、お前やはりアホじゃな」

「ぐっ!」


 ゲームだから仕方無いじゃん。はっちゃけても仕方無いじゃん!

 心で叫ぶ大吉。

 しかし、面倒臭いのはこの後だ。


「「「ありがたや、ありがたや」」」

「……やめい」


 拝む黒軍。

 大吉にとって恥でも彼らとっては聖なる儀式。鰯の頭も信心だ。

 妙に手間がかかっている所に価値を見出す皆である。

 そしてエルフィンと軍団長らが騒ぎ出す。


「大吉様! このエルフィンにも今のお手、お手を!」

「このバウルめにも!」

「ぬぅおお大吉様! 竜だってお手出来ますぞ!」

「巨人だって出来る!」

「おて、おて」

「大吉様が私のためだけにあの儀式を……素晴らしい!」

「お願いいたします大吉様!」

「嫌だよ恥ずかしい!」

「「「「「「「おぉぉぉー手ぇぇぇぇぇーぃ!」」」」」」」


 ごろーん! ごろーん! 

 叫ぶ大吉に黒軍&エルフィンが地に転がり、駄々をこね始める。

 惨状を前に谷崎は土下座。

 あやめは朝食の時と同じように、突っ伏して地面を叩いている。


「やめんか駄々っ子ども!」


 大吉は今日の事を、生涯忘れる事はないだろう。

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[良い点] 爺さんは大物 他は犬 [一言] 今回は煮ないのですね
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