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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-3.その他、いろいろ現れる
25/142

4.大吉、黒豆不戦勝

 山道を、異形の団体が歩いていた。


「大吉様とハイキングー、ハイキングー」


 ののっし、ののっし。


「おう、大吉様とみる景色……輝いてるぜぇ」


 ずしん、ずしん。


「大吉様と、草、うまい」


 ぽよよん、ぽよよん……


「心地良い風です。ホホホ」


 ふよふよ、ふよふよ……


「皆様、あまりはしゃぎ過ぎてはご迷惑ですよ」

「まったくです。日本では歩行者は右側通行がマナー。この山道の先にはおじいさんの実家しかありませんがご迷惑がかからないように注意なさい」

「「「「はぁい」」」」


 ブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒムがエルフィンとフォルテの言葉に元気よく返事して右側に寄る。

 さながら保母さんに引率される園児のようだ。

 まあ、車よりもずっと大きい園児だが。


「井出さん……これ、何とかなりませんか?」

「すみません。本当にすみません」


 そして大吉は、エルフィンを指差し首を傾げる谷崎にひたすら頭を下げていた。

 今、エルフィンの肩には二つの根が乗っている。

 その根の先を見上げれば雲の上には巨大な樹。

 バウルだ。


「はーいきーんぐー」


 バウルの楽しげな声が天から響く。

 まあ、仕方無い。

 大きいからダメとかズルい。仲間外れは嫌だと東京湾でしゅぱたん駄々をこねたからだ。

 島サイズが東京湾で転げ回る様を、大吉は生涯忘れる事は無いだろう。

 途方に暮れる大吉と土下座する谷崎にエルフィンが折れ、今の肩車となったのだ。


「エルフィン、重くないか?」

「は? この程度で私が音を上げるとお思いですか?」

「……デスヨネー」


 エルフィンは肩に乗る根を気にする事なく歩いている。

 今のエルフィンはバウルの土台。

 エルフィンが下にいる限りバウルがどれだけはっちゃけても周囲に害を及ぼす事は無い。念だけでバウルを吹き飛ばすエルフィンのオカルト鉄壁肩車であった。


「いやー大吉さん、すごいお友達がいますね」


 そしてなぜかいるのがあやめ。

 こんな面白そうな事を放っておけるかと同行を申し出てきたのだ。

 竜、巨人、スライム、屍、大樹。

 面白いのは分かるがサイズは巨人、そしてスペックは怪獣だ。

 そんなのが近くで歩いたりスキップする度に感じる風圧はなかなかのもの。

 大丈夫だろうと思いながらも冷や汗かきまくりな大吉だ。


「危ないですよあやめ。こいつら雑ですから」

「何を言うか、一番危ないのはお前ではないか」

「バウルを担いでへっちゃらとかありえねぇよ」

「だん、とつ」

「そうでございますぞあやめ殿。私などエルフィンにかかれば一発粉みじんですからなぁ。まあ粉みじん程度では死にませんがカカカ」

「あはは」


 エルフィンともフォルテともすぐに仲良くなったあやめは、今や他の軍団長ともすっかり仲良しだ。

 秘訣は黒豆。

 あやめが皆に振る舞ったところ「ぬぅおお黒いぞバウル!」「炭じゃない!」「美味いぞ!」「マジ、か!」「炭とは大違いですな!」と賛辞の嵐。無類の信頼を勝ち取った。

 炭と比較するあたりが本当に悪食な黒軍である。

 大吉達は談笑しながらしばらく山道をのぼり、やがてじいさん宅に到着した。

 大吉が呼び鈴を鳴らす。


「おおぃばあさん、嬢ちゃんが縁起物を連れて来たぞ」

「あらまぁ」


 玄関から出て来たじいさん、いきなり拝み出す。


「「ありがたやありがたや」」


 竜、鬼、仏(屍)、大樹。縁起物と言えなくもない。

 しばらく拝んだじいさんはエルフィンを見つめ、肩から伸びる根の先を見上げた。


「嬢ちゃん、少し会わない間に肩ですごいの育てとるなぁ。家庭菜園か?」

「違います」

「これだけあれば食うに困らんのぅ。食いっぱぐれもないのぅ」

「ですから違います。それで畑が荒らされたとの事ですが」

「そうじゃった。こっちだ」


 じいさんの案内に従い畑に行けば、一部の輝きが失われている。

 魔力障壁が破壊されている証だ。

 エルフィンは痕跡を探り、じいさんに言った。


「これは……私達の世界の者の仕業ですね」

「しかし足跡は鹿や猪、犬、あとは熊じゃぞ?」

「この魔力障壁はぶるるんもへっちゃらなのです。そのような障壁を破れる野生生物がここにいるのですか?」

「そりゃ、おらんのぅ……こいつら、穴が空いたからこれ幸いと食べにきたのか」


 エルフィンの言葉にじいさんが腕を組んで考える。

 しかし、天から声が響いた。


「違うぞ」


 バウルだ。

 ブリリアントも鋭い視線を森に注ぎ呟く。


「そうだなバウルよ。この気配の構成、配置……主がいるな」

「おぅ。主がいなけりゃもっとバラバラだよな」

「とう、そつ、とれ、てる」

「獣が大小合わせて二千。それと……幻獣の反応ですな。およそ五千」

「幻獣およそ五千ですか。私達と一戦交える気のようですね」

「大吉様お下がり下さい。どうやら相手は獣人族のようです」


 エルフィン達が森を睨み、大吉に告げる。

 幻獣。

 獣人族だけが呼び出せる、文字通り幻の獣の事だ。

 大吉も軍団戦略ゲー『ストラテジ』の後にハマったRPG『フロンティア』で見た事がある。

 というか大吉の相棒が獣人族で、集団相手に良く使っていた。咆哮で召喚される光り輝く獣達が敵をこてんぱんにするのだ。

 しかし、当たり前だが地球にそんな存在は無い。 

 だからオカルト確定。

 しかも初の敵対オカルトだ。


「じいさん下がれ。どうやらオカルトのようだぞ」

「嬢ちゃんのお仲間か。なるほど食いしん坊じゃのう」

「ですから違います」

「しかしこれ以上ここの黒豆を食われては、ばあさんの作るそれを酒の肴に出来なくなる。もう食わせてはやれんなぁ」


 そのじいさんの言葉に、皆が激しく反応した。


「「「「「「「クロマメ!」」」」」」」


 べかーっ!

 怒りに皆が輝く。


「ぬぅおお黒豆を、黒豆を食い散らかしたというのか!」

「許せねぇなぁ……」

「こてん、ぱん」

「活きのいい屍はやはり呪い! 健康優良屍かもーん」

「おじいさんとおばあさんの黒豆を冒涜する不届き者!」


 ブリリアントが怒りに叫び、ガトラスが大地を震わせ、ボルンガが樹木を溶かし、ビルヒムが呪いを垂れ流す。

 しかし何と言ってもエルフィンだ。

 漫画剣ではなくバウルをぶぉんぶぉんと振り回す姿はオカルト半端無い。

 どこまで突き抜けるんだろう? うちのエルフィンは……と、頭を抱える大吉だ。


「あ、獣が逃げ始めましたわね」

「当たり前だろ。これで逃げなかったらマトモじゃねえ」

「黒豆、不、戦、勝」

「バウル殿でぶん殴られたら山ごとぺしゃんこですからなぁ」

「しかし逃がさん! バウル!」

「まかせろブリリアント!」


 しゅぱたん!

 バウルが天から枝を飛ばし、森に枝の壁を構築する。

 いきなり壁を作られて森の獣達阿鼻叫喚。

 バウルは作った壁を動かし獣達の居場所を削っていく。

 そうして畑のすぐ近くの森まで追い立てられた獣達に、バウルを上段に構えたエルフィンが告げた。


「出て来なさい。今出てくればこてんぱんで許してあげます」


 森から慌てて出て来たのは少女だ……たぶん。


「わ、私怪しいもんじゃないよ? 私、エリザベスってんだ」

「この星に犬耳尻尾つきの人間はいねえよ!」


 森から現れた獣人族の少女エリザベスに、大吉はツッコミを入れた。

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