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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-2.黒軍、太平洋に現る
20/142

9.こてんぱんにぶちのめしてやったぞ!

「いやぁー、負けた負けた」

「我ら、こてん、ぱん」

「強いですな、絶対に強いですなぁ」

「ありがとうございます」


 要塞世界樹バウル、広間。

 こてんぱんにされた軍団長達がエルフィンと談笑していた。


「しかし我らが王を迎えたらこうはいかねぇぜ」

「お前、こてん、ぱん」

「そうですぞ。我らの王なら必ずや貴方をこてんぱんにする事でしょう」

「その時は受けて立ちましょう。大吉様と共に歩む私は無敵ですから」


 わははははは……皆が笑う。

 皆、こてんぱんが終わればノーサイド。

 紆余曲折はあったが本来の目的は不可侵の均衡を崩さない事。

 エルフィンに王を害する気が無いと分かればここで終わりだ。

 そして話をややこしくした張本竜は、看病されながら今も痛みに唸っていた。


「ぬぅおおおお……超痛い。全身超痛い……」

「自業自得ですブリリアント。これに懲りたら発言に気をつける事です」


 呻く金剛竜ブリリアントにエルフィンは容赦無い。


「そして愛を笑う発言はお慎み下さいブリリアント様」

「次やったら追い出すからな」

「フォルテもバウルも冷たい!」

「愛を笑うからだ」「鱗キラキラ野郎のクセに愛を笑うとは」「強さに驕らず謙虚に生きやがれ」

「お前らも冷たい!」

「「「こてんぱんの恨みだ!」」」


 そして軍団の皆も容赦無い。

 それにしてもエルフィン強い、超強い。

 皆が笑い合う中、首を傾げる大吉だ。


「すでに均衡は崩れているような……」

「敵対勢力は黒軍だけではありませんから」


 そんな大吉にエルフィンが笑う。


「そして人族も私だけではありません。人族も怪物達も互いをオーバーキル出来るだけの力を持っています。相手を一方的に叩けないので均衡が取れているのです」

「なんという物騒な」


 フラットウェスト社は育成ゲーと同様に軍団戦略ゲーも呆れる程出した。

 だから『ストラテジ』に出て来る彼らの他にも数百の怪物軍団が存在する。

 フラットウェスト社の第一開発部内でのタイトル乱発ユーザー奪い合い状態に、当時も今も一つのタイトルを大事に育てれば良いのにと思う大吉だ。


「それに自ら戦わないのに人族の覇権だの怪物の根絶やしだのと調子に乗る高貴な方が多くて正直うんざりしているのです。壁の花もさせてくれないくせに!」

「そ、そうか」


 壁の花はエルフィンのトラウマらしい。

 もしかすると今回の戦いでエルフィンが最もダメージを受けたのはこの言葉かもしれない。

 ブリリアントの奴、ピンポイントで地雷を踏み抜いたなぁ……と、大吉は呻くブリリアントを眺めていると、背後から声をかけられた。


「「「こんにちは」」」

「こ、こんにちは」


 大吉が振り向けば今回は戦いに参加しなかった惑軍、美人サキュバス集団だ。

 にこやかな美人集団に気後れしながら大吉が挨拶を返すと彼女達は興味津々、大吉をわっと取り囲んだ。


「貴方がエルフィンの大事な人ですか?」

「エルフィンをあそこまでに育てるなんてすごい!」

「でも、普通ですよね」

「普通ですね」

「私達の王もこんな感じなのかしら?」

「そうかもー。王なら『俺を見つけてみせろ』くらい言いそうよね」

「「「わかるーっ」」」


 大吉はエルフィンにとって、最も自分を導いてくれたユーザー。

 現実の王は大吉のような存在であるとサキュバス達も知っているのだろう。大吉をじっくり観察しながらまだ見ぬ王の姿で盛り上がっている。

 サキュバス達が語るのは大吉ではなく王だが、ちやほやされると悪い気はしない。

 しかし……隣が怖い。

 べかーっ、べかーっ……エルフィン、嫉妬の輝きが。


「……さすが大吉様。サキュバス達にも大人気ですね」

「そう思うなら輝くのやめて」


 べかーっ。

 輝きながらにこやかに笑うエルフィン怖い。超怖い。

 照れ念で扉を吹き飛ばすエルフィンだ。嫉妬念でも何が起こるか分からない。

 そんな念に震える大吉の前に、救い主が現れた。


「あなた達、エルフィンがこれ以上手が付けられなくなる前にやめなさい」

「「「はーい」」」

「それと、傷ついたオス達は今が狙い目ですよ」

「「「はーい!」」」


 惑軍団長、フォルテ・クレッツェだ。

 彼女の言葉に従いサキュバス達がこてんぱんなインキュバス達に群がっていく。

 ある者は看病、ある者は食事の手伝い、またある者は歩く際の支えとなる。

 愛に生きるサキュバス達は皆、心を優しく埋める術を心得ているのだ。

 そしてサキュバス達と交代するように、フォルテが大吉の隣に居座った。


「……フォルテもオスは今が狙い目ではないのですか?」

「私は王に全てを捧げておりますので」

「大吉様は王ではありませんよ?」

「そんな事は分かっております。これは私のもてなしの心。ようこそ黒軍へ」

「くっ……さらに強敵が! 強い! 絶対に強い!」


 へかー……輝きがヘタれていく。

 さすが惑軍団長。溢れる魅力オーラにエルフィンは戦わずして嫉妬喪失。

 しおれた念に大吉も一安心だ。


「すみません。うちのエルフィンが「うちのエルフィン!」……眩しくて」

「……いえ、大吉様も大変ですね」


 ぺっかー!

 眩しさに目を細めながら大吉とフォルテは互いに頭を下げる。

 念が暴走するハイパワーオカルトに二人で苦笑いだ。


「も? 失礼ですがあなた方も色々と大変なのですか?」

「はい。その、念が……」


 フォルテが苦笑して答える。

 さすがエルフィン。異世界でも念は健在だ。


「やっぱりそちらの世界でもオカルトハイパワーで?」

「私達の世界の方がもっとすごい事が起こります。こちらの世界でも同じ事になるのではと心配していたのですが、私達の世界よりも頑丈で良かったです」

「そうなんですか?」

「はい。エルフィンはもちろんの事、黒軍の軍団長クラスの者になると力が強すぎて世界が歪みます」

「世界が歪む……すごいですね」

「強い願望や衝動に世界が影響されるのです。不可侵条約には極端な世界の歪みを防ぐ意味もあるのですよ」


 あれか。強い重力で光が曲がるみたいなもんか。

 大吉が勝手に思っていると、フォルテがしみじみ語り出す。


「夜空に『壁の花にもなれない女!』と描かれた時は皆、頭を抱えました」

「そんな事が起こるんですか?」

「はい。その文字が砕けて隕石になった時には皆、必死に迎撃したものです」

「そんな事まで起こるんですか!」

「死ぬかと思いました」


 漫画でそんなのあったなぁ……と、オカルトの凄まじさに身震いする大吉だ。

 どうやら向こうの世界ではエルフィンの念が今以上に凄まじいらしい。

 近距離も遠距離もこなす上に超絶ハイパワー。

 災厄だ。まったくもって災厄だ。


「六年前が一番ひどかったですね。あの時は空間が引き裂かれて月が二つになりまして、このままでは住む星が空間断層スライスのピンチだと皆で必死こいて空間を戻しました」

「……エルフィン」


 なにしてんだお前。

 大吉がエルフィンを睨めば、エルフィンが何とも気まずそうに頭を下げる。


「夢を大幅下方修正した頃ですね。あの時は泣きに泣きまして、涙で月が二つに見えただけだと思っていましたが本当に割れていたとは驚きです。フォルテ、ご迷惑をおかけしました」


 『ステキなお嫁さん』に夢を大幅下方修正で星をスライスする女。

 その様にドン引きな軍団長達だ。


「あれだけの事をしたのに泣いただけとは……オカルト過ぎる」

「我ら必死だったのに……必死だったのに!」

「やべえ、こいつヒドすぎる」

「げき、まず」

「我らのラスボスは強大ですなぁ……と、言うよりアホ強過ぎですな」

「夢を教訓にしたとはいえ、鍛え過ぎですわ」


 そして軍団長達、皆で大吉に土下座だ。


「大吉様、こやつをよろしくお願いします!」

「こやつの相手は大吉様にしか出来ませぬ。強くした責任を取って下され!」

「ご機嫌取りはまかせたぜ!」

「おね、がい」

「研究の過程で命にも色々詳しくなりましたので命の危機には私ビルヒムを頼りなさい。あ、死んだらどうしようもありませんからその前にお願いいたします」

「本当に、本当にお願いいたしますわ大吉様」

「……お前ら、俺を人身御供扱いしてないか?」


 神頼み、いや大吉頼みの軍団長達に呆れる大吉だ。


「早く王を見つけねばならぬなブリリアント」

「そうだなバウル。こやつの理不尽から我らの王を守らねば」

「こいつ何するかわからんし」

「王、ピンチ」

「大吉様がおられるとはいえエルフィンですからな。うっかり念で王を呪い殺すくらいやりかねません」

「私達が防いで三日寝込む位にしてあげたいですわ。看病は私にお任せください」

「……あなた達、私を何だと思っているのですか?」

「「「「「「理不尽」」」」」」

「ぐうっ!」


 そしてエルフィン、理不尽扱い。

 間違っていないのが辛い所だ。


「とにかく、これであの列島も調べられるな」

「日本国も渋々許可してくれたし」

「よし、今から我らの王を呼んでみようぜ」

「やろう、やろう」

「唯一の懸念がエルフィンでしたからなぁ。しかしこれで懸念も解決。大吉様々ですな」

「そうですわね。ついに私達の偉大な王、黒軍王ネーロ様を迎える時ですわ!」

「へ?」

「「「「「「ふんっ!」」」」」」


 大吉が素っ頓狂な声を上げる中、軍団長達が気合いを入れる。


 ぽぽぽーん、ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽーん……


 そして大吉のスマホから流れる人気時代劇シリーズのオープニングだ。

 ああ、やっぱり……大吉はスマホの着信メール音にため息をつく。

 どんな反応をするかと大吉が見上げる先、軍団長達は歓声を上げて再び土下座した。


「さすが我らの黒軍王ネーロ様! すでにエルフィンを下していたとは!」

「そうきたか!」


 さすが王を敬愛する黒軍。ポジティブシンキングだ。


「この理不尽女をここまで従順に調教するとはさすがネーロ様!」

「金剛竜ブリリアント、目から鱗でございます!」

「すげえぜ。エルフィンを成敗か! 峰打ち成敗したんだな!」

「さすが、王!」

「我らの王は常に我らの一歩先を歩くお方。さすがでごさいます!」

「ネーロ様ステキ!」


 わっしょい、わっしょい。

 黒軍の皆が大吉に群がり胴上げをはじめる。

 大吉を奪われて納得できないエルフィンが騒いだ。


「何を世迷い言を! 大吉様はクロノ様。黒軍王ではありません」

「何を言うか! 我らの王ネーロ様に決まっている。その証拠に我らの念がしっかり届いたではないか! ふんっ!」


 ぽーん。


「私の念だって届きます! ふんっ!」


 ぽーん。


「なにおう! ふんふんふんっ!」

「ふんっ! ふんふんっ!」


 ぽーん、ぽーん、ぽっぽっぽっぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……


「やかましい!」


 エルフィンとブリリアントの念のやかましさに叫ぶ大吉。

 胴上げをしながらブリリアントが大吉に問う。


「大体ネーロ様、こやつを導いたのはいつ頃なのですか?」

「十年前だな」

「我らの王として我らを導いたのは?」

「九年前だな」

「つまり大吉様は我ら黒軍に移籍したのですな!」

「『エルフィンメイカー』のサービスが終了したからな……そうなるか」


 全てのゲームが一年でサービス終了となる謎メーカーの振る舞いの結果だ。

 それが無ければ今もエルフィンメイカーで楽しんでいたかもしれない。

 しかし黒軍にとってはそんな事は些細な事。

 ブリリアントがエルフィンを見下ろし叫ぶ。


「つまりエルフィン、お前は昔の女という事だ!」

「昔の女!」


 べかーっ!

 エルフィン、怒りの輝き。

 そしてべちーん!


「痛い! 超痛い!」


 ブリリアント、三度こてんぱんだ。


「あの鱗キラキラ野郎、懲りないな」「あんな奴にあの美人奥様竜とか、世の中おかしいよなぁ」「あの鱗、輝きに呪いでも乗ってるんじゃね?」「やべぇ」

「お前ら、我に冷たい!」


 しかし念が通じたのならば仕方が無い。

 ぶるるんと念の通じるスマホは大吉とエルフィンを繋ぐ重要な根拠だ。

 黒軍のそれを否定すればエルフィン自身にブーメラン。

 不承不承認めるエルフィンだ。


「それで大吉様は黒軍王ネーロとして……私をどうなさったのですか?」

「ゲームは楽しむものだからな……」


 ぐっ。

 親指を立て、さわやかな笑顔で大吉は答えた。


「こてんぱんにぶちのめしてやったぞ!」

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[一言] こてんぱんに「成敗!」したのですね ぽーぽぽー ぽぽーぽぽー ぽーぽーぽーぽぽー
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