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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-2.黒軍、太平洋に現る
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6.こてんぱんにぶちのめしてあげます

「私、こういう者です」

「ありがとうございます」


 胡散臭いと思ったら本物だった。

 と、大吉は頭を下げながら両手で差し出された名刺を受け取った。

 谷崎始。防衛省ほにゃらら……なんか長ったらしい役職名が並んでいる。

 そんな彼の背後には迷彩服ではないが自衛隊の面々らしい、鋭い視線を大吉に注いでいた。


「大吉様お下がり下さい、こいつら大吉様よりずっと強いです」

「そりゃそうだろ」


 自衛隊だし。

 大吉は前に出ようとするエルフィンを手で制し、頭を上げた。

 まあ、思い当たる節はものすごくある。


「その方が光の黒騎士エルフィン・グランティーナさんですね?」

「はい」


 デスヨネー。

 やっぱりエルフィン案件だったと、大吉はため息をついた。

 意外だったのは警察や市役所よりも先に自衛隊が出て来た事だ。

 エルフィンが大吉の所に転がり込んだ直後に要塞世界樹バウルが現れたからかなぁ……と大吉は考え、ふと思いついて聞いてみる。


「ところで、どこからその名を?」

「太平洋を反復横跳びしている方々から伺いました」

「あー、バウルですね」


 反復横跳び。もはや政府内でもそれなのか。

 大吉が納得していると、エルフィンが横入りしてくる。


「すると先程ぶん殴ったカトンボげふんげふん、金剛竜ブリリアントはこの国と対話していたのですか?」

「はい」

「人族でもないのに?」

「はい。これが話をしてみると意外と通じる方々でして、彼らの提案により今回のこちらへのご挨拶となった次第です」


 すげえな自衛隊。対話できれば怪獣にも寛容だわ。


「本当は外務省にぶん投げたかったのですが……怪獣じゃん、で一蹴されました」


 そして立場弱いな防衛省。

 このあたりの力関係は大吉が生まれる前から相変わらずだ。

 谷崎は額の汗をぬぐい、話を続けた。


「国内は比較的平穏ですが、輸出入や人の往来に影響が出ております。そこで自衛隊を派遣し接触すれば『争う気は無い』と言われ『人を探しに来た』と言われ『それよりお前らの都に我らより危険な奴がいるぞ。何故だ』と聞かれ、調査を進めていたのです……まさかここまでとは思いませんでしたが」


 谷崎が視線をエルフィンに向ける。


「してやられたな。エルフィン」

「まさか囮だったとは……さすが竜、長生きしているだけあって汚い」


 忌々しくエルフィンが呟く。

 まあ、自衛隊が来なくてもいずれ警察や市役所が来ていただろう。

 穏やかなだけ良しとしよう。

 大吉はそう思い、谷崎に聞いた。


「それで、何が聞きたいのでしょうか?」

「今回の訪日の目的についてです」


 訪日。まさかの入国審査だ。

 谷崎は姿勢を正すと、エルフィンに聞いた。


「エルフィンさん、貴方はなぜ日本にいらしたのですか?」

「大吉様のお側にいる為です」

「はぁ……」

「夢にまで見たクロノ様こと大吉様のお側に行けるのです。馳せ参じるのが当然ではありませんか!」

「つまり、人に会いに来たと」

「はい!」


 胸を張ってエルフィンが答える。


「失礼ですが旅券は? ビザの発行はありますでしょうか?」

「マイナンバーカードならありますよ?」

「拝見いたします」


 谷崎はエルフィンが出したマイナンバーカードを受け取り、後ろの者に渡して確認を指示する。

 確認するまでの間に少し時間がかかるらしい。

 大吉は見ている同僚に頼み、人数分の缶コーヒーを買ってきてもらった。


「それしても谷崎さん、こんなの相手に落ち着いてますね」

「いえいえ内心ビクビクですよ。正直逃げたい位です」

「わかります」

「ええっ! 大吉様も逃げたいのですか?」

「はじめは逃げてただろ」

「まさかぁ。ぶるるんを走らせた位で私から逃げられる訳ないじゃないですかー」

「だよな。だから諦めた」

「ええっ!」


 そんな大吉とエルフィンのやりとりを見て、谷崎が笑った。


「やはり、話はしてみるものですね」

「そうですか?」

「はい。たとえ怪獣でも、ゲームから出て来た破天荒な何者かであってもまずは話をしてみないと。何より話だけで終われば楽ですから」


 対話は実力行使より楽で安上がり。

 さすが有事に矢面に立つ自衛隊。よくわかってらっしゃる。

 大吉も笑った。


「まあ、いきなり実力行使しないのは正解でしたね。ご覧になった通り、エルフィンはブリリアント相手なら楽勝ですから」

「そうですね。まさか戦闘機も真っ青な機動力と速度で砲弾もミサイルも返品してくる竜が一撃だとは思いませんでした」

「バウルならもっと楽勝です」

「マッハ四の島サイズが?」

「エルフィンは『ストラテジ』のラスボスですから当然です」

「ブリリアントもバウルも四年前にこてんぱんにしました!」


 ぺっか。

 エルフィンが胸を張る。

 谷崎と自衛隊の皆は開いた口が塞がらない。

 映画では怪獣相手に頑張っている自衛隊だが人間相手の組織。

 各省庁からぶん投げられているが怪獣やオカルトは守備範囲外なのだ。

 そんな会話をしている内に調べが済んだらしい。カードが戻ってきた。


「本当に不思議で不本意な事ですが、不備が見つかりませんのでマイナンバーカードをお返しいたします」

「いいんですか? 旅券は? ビザは?」

「まさかの日本国籍だそうです」

「ええーっ……」


 すげえよオカルト。


「証拠も無いのに改ざんと決めつけては後々の問題にもなりかねませんからね。貴方に問題が無ければエルフィンさんも妙な事はしないようですし、様子見です」

「すると、仕事を再開してもいいんですね?」

「構いません。改ざんの証拠が見つかりましたら改めてお話を伺います」

「ありがとうございます」


 ブリリアントを一撃ノックアウトで証拠にならんとかさすが官僚。書類は絶対だ。

 エルフィンが笑顔でカードを受け取りポケットにしまう。

 カードを渡した谷崎は次に無線機を差し出してきた。


「それと、エルフィンさん」

「はい」

「その……金剛竜ブリリアントが話をしたいと。今の所は保留だと伝えたところ直接話をさせろとすごい剣幕でして」

「わかりました」


 エルフィンが谷崎から無線機を受け取った。


「もしもし?」

『エルフィンか!』


 無線機から聞こえるのはブリリアントの怒鳴る声だ。


「四年ぶりですか。久しぶりですねブリリアント」

『貴様! 我らとの不可侵の均衡を崩すつもりか!』

「そんなつもりはありません」

『ならばなぜこの世界に渡った? 我らの黒軍王を害するつもりではないのか!』

「愛に生きるため!」

『……』


 一同、沈黙。

 ぶっちゃけたなエルフィン。

 まさかの色恋だよ。馬に蹴られて死んでしまえなアレだよ。

 谷崎と自衛隊の面々の生温かい視線に赤面する大吉だ。


「ですから黒軍王でも何でも探せばよろしいでしょう。言っておきますが私はあなた方がこてんぱんにした夢のエルフィンよりも強いですよ。鍛えましたから」

『愛? 壁の花にもなれないお前が愛だと?』

「……」


 べかーっ!

 エルフィン、怒りの輝き。


『相手がいないから異世界か? 念でバウルを吹き飛ばすお前とイチャコラしたら相手が粉みじんだろうが。相手の為にやめてやれ!』


 べかーっ! べかーっ!

 エルフィンが再び輝く。

 ブリリアント……それは思っても言っちゃいけない事だぞ。超地雷だぞ。

 と、大吉は頭を抱えるがブリリアントにエルフィンの怒りが分かるはずもない。

 無線機の先だからだ。

 エルフィンは今もブリリアントが喚く無線機を谷崎に返すと、呟いた。


「黒の名を冠する者ですからわかり合えると思っていましたが……彼らに黒は似合いません」


 ぺかっ。

 エルフィンが眩しく輝けば、運送会社の制服から瞬間チェンジ。

 いつもの漫画鎧姿となったエルフィンは漫画剣を抜き、大吉をむんずと掴んで空に舞う。


「激怒です。大激怒です。こてんぱんにぶちのめしてあげます」

「待てエルフィン! なんで俺まで連れて行く!」

「私と一緒が一番安全だからですーっ!」


 エルフィンは再びぺかっと輝き、太平洋へと飛翔する。

 その輝き、その軌跡、映画に登場したメーサーの如く。

 呆然と見送った谷崎と自衛隊の皆は、やがてポツリと呟いた。


「なんか昔のアニメで見たな。許してもらったのに墓穴掘って折檻される奴」

「ありましたね」

「漫画だな」

「漫画ですね」

「関わりたくないな」

「関わりたくないですねぇ」


 だが、彼らの願いは叶わない。

 怪獣の相手は自衛隊なのである。




 所変わって太平洋上、バウルを監視する護衛艦こんごう。


「艦長! 光が接近してきます!」

「今度は何だ!」


 ぺええぇぇぇぇぇぇぇかあぁぁぁぁぁぁーーーー……

 光がこんごうの横を過ぎていく。

 飯塚と梶山は唖然とそれを見送り、二人で首を傾げた。


「なあ梶山」

「はい」

「自衛隊はいつからメーサーを実戦配備してたんだ?」

「さぁ?」


 そして光の過ぎた先、バウルがすこーんと弾け飛ぶ。

 二人は叫んだ。


「なあ梶山!」

「はい!」

「メーサーってあんな威力あったかなぁ!」

「知りませんよ!」


 光の黒騎士エルフィン・グランティーナ。

 一方的なこてんぱんが始まった。

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