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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-2.黒軍、太平洋に現る
16/142

5.いえ、カトンボが飛んでいましたので

「今日から私も働きます!」


 朝。大吉のアパート。

 大吉がぬか漬けをポリポリ食べていると、いきなりエルフィンが宣言した。


「……実家?」

「違います。大吉様の勤めるぶるるん聖地ですよ」

「運送会社な」


 実家のじいさんの所で働くかと思えばまさかの運送会社だ。

 大吉は味噌汁をすする。

 うん、今日も美味いなと思いながら大吉が目玉焼きに手をつけると、エルフィンが拳を握って力説を始めた。


「それにおじいさんの家では大吉様とイチャコラげふんげふん、もしもの時に対応が遅れてしまうではありませんか。まあ、おじいさんの家からでも大吉様をお守りする事は出来ますが……」

「どうやって?」

「念を送ります」

「やめれ」


 その念が通過する場所はどうなるんだよ?

 近距離も遠距離もこなすオールラウンダーオカルト。

 昔の俺ハマり過ぎだと思いながら大吉は破滅を未然に防ぐツッコミを入れ、サラダを一口。

 そんな大吉にエルフィンがテレビを指さした。


「それに今もテレビでもちきりではありませんか! バウルですよバウル!」

「あー。太平洋を反復横跳びしてるアイツか」


 要塞世界樹バウル。

 九年前に大吉がハマッた軍団戦略ゲー『ストラテジ』に出て来た巨大な樹木で、あの中に何十万もの軍団が住んでいる。

 エルフィンがこれなのだからバウルも相当のものだろう。

 しかし国内はそれなりに平常。買い占めなどが起こっているものの会社も店もやってるし電車も走っている。

 大吉は納豆ご飯を食べながら、エルフィンに答えた。


「自衛隊が出てるからな、何とかなるだろ」

「さすが大吉様の世界! 腹が据わってらっしゃる!」

「違うぞ。マッハ四で動く島なんてどうしようもないからだ」


 襲ってこない怪獣なんざ迷走する台風と同じ。皆はどのチャンネルの進路予測が当たったの外れただのどうでも良い事で騒いでいる。

 そして対応する自衛隊への信頼は政府以上だ。災害対応で黙々と信頼を築き上げた自衛隊が出来ないならどうしようもないなぁ、と割り切っているのだ。

 さすが災害が多い国。祟り神も祭る日本。

 バウルもどこかの神社で祭りあげたらしい。怪獣でもお国柄は健在だ。

 それはそれとして、大吉が落ち着いているのは日本のそれとは別の理由。

 『ストラテジ』のラスボスたるエルフィンがいるからだ。


「……ま、バウルが接近してきたら何とかしてくれ」

「承知いたしました!」


 ぺっか。

 一対一では勝負にならず、一軍でも楽勝。全軍をうまーく扱わないと倒せない激強ラスボス、それがエルフィン・グランティーナ。

 大吉もえらい苦労したものだ。

 今も海上で反復横跳びをしているあいつらでは相手にもならない。

 だからしばらくは安心。反復横跳びが終わった時に考えよう。

 と、大吉は考えながら朝食を食べ終わる。

 エルフィンは勝手に話を進めていた。


「では私は大吉様の側を離れずにいれば良いのですね! レッツぶるるん!」

「なんでそうなる?」

「大吉様に何かあったら私は戦うどころではありません。クロノ様の時は良く言ってくれたではありませんか『エルフィン、決して僕から離れるな』と」


 また、こっ恥ずかしいセリフを……

 と、大吉が赤面していると食卓の一角がやかましい。

 大吉が見ればまたしても食卓に突っ伏してテーブルを叩いている彼女。

 隣人の五月あやめだ。

 ひとしきりテーブルを叩いたあやめは笑い疲れたのだろう、涙目の顔を上げた。


「いいじゃないですか大吉さん。エルフィンは働き者ですし」

「ほら、あやめもこう言ってます」


 黒豆でエルフィンの信頼を得たあやめはすっかり入り浸りだ。

 しかし働くにあたっては色々問題がある。

 エルフィンはオカルトだから。


「大吉さんの店は作業員を募集してましたよね? 『僕から離れるな』ですよ」

「いやいやうちで働くのは無理だぞ。住民票とかマイナンバーが無いから」


 今時の仕事はバイトでもマイナンバーが必要。

 ゲーム世界からやって来たエルフィンに戸籍もろもろがある訳もない。まっとうな就職は不可能だ。

 が、しかし……


「これですね!」


 エルフィンは自信満々、服のポケットから諸々を取り出した。

 マイナンバーカードと住民票だ。


「なんでだよ?」

「ポストに入ってました!」

「なんでだよ!」


 このオカルト、政府のお墨付き?

 いやいやないない。きっとこのカードもオカルトに違い無い。

 そして役所のデータまで侵食しているに違い無い。大吉のスマホのように。

 大吉が頭をかかえる側でエルフィンとあやめはハイタッチだ。


「これで問題は無くなりましたね大吉さん。さあレッツ面接!」

「ありがとうあやめ! レッツぶるるん!」

「お前ら、グルか!」


 運送会社は力仕事。

 エルフィンはオカルトハイパワー。だから面接はあっさり合格だった。




 エルフィンが運送会社の面接をあっさりパスしたその頃……

 東京湾を、鱗きらめくドラゴンが飛んでいた。

 金剛竜ブリリアントだ。

 その周囲を固めるのは航空自衛隊のF-15の編隊。

 自衛隊と接触した黒軍はお前らの島にとんでもない奴が紛れているぞとエルフィンの話を持ち出して、日本国を巻き込む事に成功した。

 しかし日本国とてブリリアントらの言葉を鵜呑みにしている訳ではない。

 ブリリアントの背後を飛ぶ二機はブリリアントに照準を定めている。

 陸自も海自も東京湾と沿岸に展開し、ブリリアントに照準を定めていた。

 それがブリリアントに効果があるかは別として、いつでも戦う意思はある。

 ブリリアントはそれを知りながら、知らん振りして飛んでいた。


「ほう、見事な都だな。なんという名だ」

『東京だ』


 飛び立つ前に渡された無線のマイクにブリリアントは話しかけ、横を飛ぶF-15のパイロットが答える。

 声色に浮かぶ恐怖にブリリアントはため息を漏らし、告げた。


「やらぬよ。我とて親もあれば妻子もある。ましてここは異世界。争った所で得は無い」

『そ、そうか。ゲームや小説ではドラゴンは暴虐の限りを尽くすものだが』

「人族はすぐ増えるからな」


 ブリリアントは問いに答えた。


「すぐ増えるから新たな土地が必要になり、我らと生きる土地が重なり争いが起こる。それを人族の立場で見れば、確かに我らは暴虐だな」

『……耳が痛いな』

「もちろんその逆もある。お互い様だ」


 ブリリアントは眼下の都市を睨んだ。


「しかしあやつは、エルフィン・グランティーナは別だ」


 東京タワーが、スカイツリーが、多くの高層ビルがブリリアントの眼下に過ぎる。


「あれは人の形をした化物。世界の理を覆す怪異。そして我ら黒軍が一丸となっても勝てるかわからぬ脅威。そんなものが王に近付くのを我らは黙って見ておれぬ」

『そ、そうなのか。そんな者が東京に潜伏しているのか』

「そうだ。あやつの一撃で『超痛い!』で済むのは我とバウルくらい。故に我が囮なのだ。バウルがここで転がされてはお前達も困るだろう? 地上の者は配してあるのだろうな?」

『ああ。バウルが指示した場所の近くに配置してある』

「ならばよし。汝ら、戦慄するがいい。見れば必ず我らの反復横跳びに納得する事だろう……ぬっ!」


 ぺかっ……地が輝く。

 そして、べぇえちこおぉぉぉぉぉーんっ!


「ぬぅおおおおおおーっ!」

『おおいっブリリアントッ、ブリリアント大丈夫かーっ!』

「骨が折れた痛い! 超痛い!」


 ぴゅーっ……ブリリアントが弾き飛ばされていく。

 空自のF-15が慌てて旋回し、ブリリアントを追っていく。

 輝いた場所は運送会社。やったのはもちろんエルフィンだ。




「エルフィン、どうした?」

「いえ、カトンボが飛んでいましたので」




 そしてそれを目撃した、地上配置の陸自と防衛省の官僚が頭を抱えるのだ。


「なにあのデタラメ?」

「あんなのと話をしなきゃいけないの俺ら?」


 舐めてたわオカルト。

 しかし、ここでヘタれてはブリリアントが骨折り損。

 交渉した日本国の信用に関わる。

 彼らは覚悟を決めて、店内に足を踏み入れた。


「すみませーん。防衛省の方から来た者ですー」


 消防署の方から来ましたのような文言が、微妙なヘタれをあらわしていた。

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[良い点] 中学時代を思いだし右腕が疼きだしたこと [気になる点] 高校時代を思いだしたら嫌いな上司にエターナルフォースブリザードを放ちそうになったこと [一言] 樹に筋トレは効果があるのか!?…
[良い点] 竜の扱いが相変わらずひどい [気になる点] あやめさんの本職はなんなのでしょう [一言] ブリちゃんがんばえ・・・
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