16.尊い輝きは、目には見えないもの
『みなさま、大変お騒がせしておりますm(_ _)m 』
ぺっかぺっか。
大吉と皆の挙式の日、エイブラム王国の空をクーゲルシュライバーが泳いでいた。
「黒い月だ!」「黒い月が頭上に!」「今度は何する気だ!?」
王国民、叫ぶ。
『本日は偉大なる黒の十四軍の長たる黒、井出大吉様の結婚式でございます』
「肩書き長いよ!」「魔王でいいじゃん!」「英雄クロノじゃん!」
王国民、ツッコミを入れる。
『妻は光の黒騎士エルフィン・グランティーナ、金剛竜ブリリアント、巨人ガトラス、サキュバスのフォルテ・クレッツェ、要塞世界樹バウル、スライムボルンガ、リッチービルヒム、黒の銀狼聖女エリザベス・ウルフハウンド、赤黒のアイリーン、青黒のマリー、白黒のエミリ、黒の艦隊セカンド、黒の工場長ミリア・トゥルーフィールド、五月あやめでございます』
「長いよ!」「妻多すぎだよ!」「というか金剛竜ブリリアントって雄だろ!」「ついでに妻も娘もいるだろ!」『妻妻と妻長女です』「聞こえてるのかよ!」
王国民、さらにツッコむ。
『招待状にはグランティーナ子爵領で挙式すると記しましたが親族ならびに招待客が巨大なため、挙式会場をクーゲルシュライバーに変更いたしました』
「巨大!」「多数じゃなくて、巨大!」「要塞世界樹バウルの親族か!」「そりゃでかいよなぁ!」
王国民、さらにさらにツッコむ。
『これよりクーゲルシュライバーは星を一周いたします。近所を通過する際に黒の艦隊がお迎えにあがりますので、今しばらくお待ちください』
「上を通るなら用水路を修繕してくれ!」「うちの街道を!」「鉱山を!」
そして前回のおつかいイベントにありつけなかった王国領主、おつかいイベントを叫ぶ。
しかしクーゲルシュライバー挙式会場、そんな声を無視して国際宇宙ステーションの如くぐるっと星を一周。
近所の地表に黒の艦隊を繰り出し親族と招待客を手際良く運び、そそくさと天に舞い上がる。
『お騒がせしましたー\(^o^)/サラバ!』
「ああっ! おつかいイベントーッ!」
王国領主の面々、叫ぶ。
そんな王国領主の心の底からの叫びは、招待客に丸聞こえだ。
「あやつら……祝いの場で余に恥をかかせおって」
「まったく、あの時とは情勢が違うというのに甘ったれな領主どもですな」
ルオ国王は恥ずかしげに顔を歪め、レギム宰相は声の主とセリフを手帳に書き留める。口は災いの元であるのは貴族社会も変わらない。
「まあ、それでもトンズラ息子ほどの恥ではない」
「それもそうですな。今回は叱責程度にとどめておきましょう」
「ひどい!」
そしてグリード王子、いつまでもいつまでも言われ続ける。
結果オーライでも逃がした魚はバカでかい。王国の歴史に燦然と輝く伝説レベルのやらかしであった。
おかげで王子の縁談がまとまらない。国王も宰相も大変だ。
しかしここは祝いの場。
ルオ国王とレギム宰相はため息を吐いて嫌な事を頭から追い出し、スクリーンに映る地表に視線を移す。
「そんな事より高いなレギム!」
「雲が大地に貼り付いておりますな。素晴らしい」
歳をとっても新たな経験は楽しいもの。
ルオ国王もレギム宰相もお目々キラキラだ。
「星は丸いと夢の者が言っていたが本当に丸いのだな。すごいなレギム!」
「それでなぜ落ちないのかと聞いたら万有引力とか何とか言っておりましたな。不思議な力があるものですなぁ」
「オカルトだな」「オカルトですなぁ」
何事も解明されるまではオカルト。
そして解明されると新たな謎が生まれるのでオカルトは無くならない。
そんなものだ。
「あの……国王陛下。なぜ私お呼びになられたのでしょうか?」
そんなお目々キラキラの二人とトンズラ王子と言われ続けるグリードの後ろ、料理人を引き連れた貴族がルオ国王に声をかける。
大吉がエクソダス世界で出会った王国貴族、アスタロス・グレイン子爵だ。
ルオ国王とレギム宰相は答えた。
「ノストール湖の魚は、今が旬であろう?」
「祝いの場ですからな。手ぶらという訳にもいきません」
グレイン子爵、旬の魚係。
「しかし前回、井出大吉様は一口もお召し上がりになりませんでした。祝いの場にふさわしいとは思えませんが……」
首を傾げる子爵にルオ国王とレギム宰相は笑い、近くで招待客に頭を下げる新郎新婦? を見て言った。
「そういうものこそ大事なのだよ」
「彼らの前には王国の全ては吹けば飛ぶ蝋燭の灯火と同じですからな。とにかく最高の料理を頼みます」
「は、はぁ……わかりました」
そんな会話をしている王国組の視線の先、新郎新婦? は大吉世界からの招待客に皆で頭を下げていた。
「店長、おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「井出さん、おめでとうございます」
友人兼同僚招待客、雄馬、竜二。
スーパーおかると労働組合招待客、岡本。
「井出さん、そして皆さんおめでとうございます」
そして日本国政府招待客、谷崎。
黒の十四軍、サクッと輝き異世界転送招待。
闇の渦が消えたら渡れないかもしれないなんて心配はまったくの杞憂。さすがオカルト頂点だ。
祝福の言葉に大吉と皆は頭を下げる。
「皆様、ありがとうございます」
「それにしても店長、軍団長すべて妻ですか」
「まさか怪獣組を妻に迎えるとは思いませんでした」
「あの……彼ら、雄ですよね?」
リリィに支えられた雄馬が驚き、ノエルに支えられた竜二が唸り、アランに支えられた岡本が首を傾げて大吉に聞いてくる。
大吉も首を傾げるくらいなのだから招待客も首を傾げるのは当然だ。
「我が国では重婚は違法ですよ?」
「……その言葉は今の自分に言ってもらえますか? 谷崎さん」
「谷崎さんは私が支えます」「いえ私が」「わたしが!」……
谷崎の支え、惑軍サキュバス達。
元々惑軍と一緒に仕事する事の多かった谷崎だが深夜にスーパーの弁当をモソモソ食べながら残業している姿が彼女達の心を打ったらしい。大吉も驚きのモテモテ状態だ。
そんな状態で重婚違法を言うものだから説得力まるでない。
谷崎もそれは自覚しているらしい。さすがに苦しいなぁと苦笑いだ。
「……まあ異世界ですから良いでしょう。ただし税や権利の優遇は認められませんのでご了承下さい」
「大丈夫ですよ。税はこっちの世界で納める事になりますので」
「それもそうですね」
あっはっは。
大吉と谷崎の間で結ばれる異世界ノーカン協定。
日本国内どころか地球でもないので国家公務員の谷崎もユルユルだ。
「あと、こちらの世界の事ですが……」
「互いに物質をエネルギーに変換でき、それを自由に使える世界関係という事ですか? 知ったところでどうしようもありませんよ。世界を渡る事が出来るのは今のところ黒の十四軍の皆様とVだけなのですからね」
エクソダス世界の全ては願いを叶える夢の物質だが、そもそも世界を渡れないのだから手に入れようもない。
Vの身柄は黒の十四軍が確保している。
例えるなら浦島太郎に登場する竜宮城の亀はすべて黒の十四軍の管理下。どれだけ竜宮城に行きたくても黒の十四軍に知られずに行く事は不可能なのだ。
谷崎はニヤリと笑い、言った。
「まあ、どうしても欲しいなら黒の十四軍と戦って勝てば良いのでは? 勝てると思っているならば」
「それもそうですねー」
あっはっはっは。
大吉と谷崎が笑う。
当然ながら力を手に入れる前に黒の十四軍に対抗できる訳もない。
黒の十四軍はオカルト非常識。何をしようが輝きひとつで覆すデタラメ存在は世界を去った今も世界の脅威なのであった。
「雄馬様、この式が終わったらカーマイン伯爵領へ。父上が会いたがっています」
「き、緊張するなぁ……」
「俺達は店長を頼って、グランティーナ子爵領で家を探そうか」
「子供部屋のある、広い家にしましょう」
「俺はアランとしばらく旅をしようと思います」
「旅費は露店で稼ぎましょう」
雄馬、竜二、岡本は世界を渡る事にした。
オカルトと仲が良かった者は多かったが、世界の外に踏み出す決意をしたのは三人と大吉だけ。世界を渡る事にはそれだけの覚悟と繋がりが必要なのだ。
「谷崎さん、いいんですか?」
「本人達が望むなら別に良いのではありませんか? 三人とも、井出さん経由で定期的に連絡をお願いしますね」
「「「はい」」」
「……スパイ?」
「いえいえ現地リポーターですよ。世界にオカルトが再び現れないとは限りませんし、普段の様子を伝えるくらいは良いでしょう」
そんな三人に日本国政府、しれっと仕事を頼んでいる。
谷崎は今も大変だ。
オカルト去っても仕事変わらず。大吉は相変わらずの谷崎の苦労人っぷりに苦笑し、リリィ、ノエル、アランに言った。
「お前ら、三人がうっかり輝かないようにしっかり支えてやれよ?」
「「「はい」」」
クーゲルシュライバーの中では大丈夫だが、エクソダス世界の大地は支えが無ければ埋まる。慣れるまではビルヒム椅子のような支えが必要だ。
まあこの三人はすぐに慣れるだろう。エクソダス出身なのだから。
「え? だったらすぐ戻って報告する私にはここまでの支えは不要なのでは?」
「ええっ!」「谷崎さん、トンボ帰りなんですか!?」「もっとゆっくりしていって下さい!」「休暇も大事です!」「きっとここは竜宮城!」「異世界だからそれでオッケー!」「みんな、谷崎さんを取り囲めーっ!」「「「はいっ!」」」
先程まで支えるポジションを争っていたサキュバス達、一致団結谷崎確保。
谷崎、嬉しい悲鳴だ。
「向こうで仕事が山積みなんですよ!」
「こっちに持ってきてくれればお手伝いします!」「そうですよ!」「これまでだってお手伝いしてきたじゃありませんか!」
「結婚式に仕事なんて持ち込みませんよ! 井出さん、助けて井出さん!」
「エルフィン、仕事を輝き異世界転送だ」「はい」
ぺっか。
書類が山のように輝き異世界転送されてくる。
とても一人でこなせない量に呆れる大吉だ。
「谷崎さん、こいつらが手伝ってた頃の仕事を一人でやってるんですか……?」
「増員は上司に求めていますよ……ちょっと待てと言われ続けていますが……」
「そりゃそうでしょ」
オカルトが世界を去ったのに部署が拡充されるわけもない。
多くの者からぶん投げられたオカルト残務処理がたまりまくった悲劇だ。
「なんてブラック職場!」「同じブラックでも黒の十四軍とはえらい違い」「ブラック好きなら転職しましょう谷崎さん」「谷崎さんの休暇を作れーっ!」「「「はぁい!」」」
谷崎を取り囲んだサキュバス達がテキパキと書類の処理を開始する。
サキュバス、愛の人海戦術。
どれだけ優秀でも一人は一人。谷崎が頭を抱えていた書類はあっという間に処理されてしまった。
谷崎、サキュバス達の質問に答えただけである。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「これで余裕が出来ましたね谷崎さん!」「どのくらい出来ました?」
「まあ、一週間くらいは」
「「「やったーっ!」」」
サキュバス、愛の為なら全力だ。
「エルフィン」「はい」
ぺっか。
エルフィン、処理済み書類を輝き異世界返送。
「ついでに休暇申請も出しておきました」
「通るとはとても思えませんが……」
「私の輝き請願を書類に輝き転写しておきましたから通るでしょう」
「ええっ! 呪いをかけたんですか!?」
「失礼ですね!」
ぺっか。
そしてオカルトゴリ押しだ。
大吉はうちのエルフィンがすみませんと笑って谷崎に頭を下げた。
「じゃ、俺達は他の招待客の方々に挨拶してきますんでこれで失礼します。谷崎さんの接待はまかせたぞお前ら」
「さすが大吉様!」「わかってるー!」「みんな、谷崎さんを連れていけーっ」「「「はぁい!」」」
谷崎、連行。
後はサキュバス達がうまくやってくれるだろう。大吉は谷崎を見送って次の招待客に頭を下げた。
「大吉、おめでとう」
「おめでとう、大吉」
「俺の店に来た時はヘナチョコだったのに、たくましくなったなぁ」
「嬢ちゃんもついに結婚か」
「おめでとう」
大吉の両親、世話になった店長、そして大吉世界のエルフィン実家のじいさんとばあさんだ。
こっちは樹軍の者が椅子となって支えている。
うっかり輝きの防御と移動補助のためだ。
なにせクーゲルシュライバーは巨大。徒歩では非常につらい。
樹軍が椅子ならばしゅぱたんで楽ちん移動。慌てなければ輝く事もないだろう。
「獣の嬢ちゃんもおめでとう。うちの獣達も喜んどったぞ」
「ありがとうです!」
じいさんの所の山の主エリザベス、獣からも賞賛を受ける。
「「ありがたやありがたや」」
大吉、縁起物をモノにした男だとじいさんとばあさんから崇められる。
「大吉を、よろしくお願いします」
「「「「「「「「「「「「「「お義父様!」」」」」」」」」」」」」」
「たまには、こちらにもいらして下さいね」
「「「「「「「「「「「「「「お義母様!」」」」」」」」」」」」」」
そして大吉の両親、妻が十四人いても怪獣組の雄が妻でも気にしない。
「いやぁ、俺らもオカルト慣れしたなぁ」
「これまでも色々いらしてましたからねぇ」
「へ? こいつら実家に行ってたの?」
「なんだ、知らなかったのか大吉」
「あんたのおかげで世間の注目浴びちゃったもの。皆様が交代で家の番とかしてくれてホント助かったわぁ」
オカルト、魔除け扱い。
自衛隊ならゴリ押す人間がいてもオカルトならトンズラだ。
そして世界を去った今でも有効成分効果アリ。オカルト効き目バッチリだ。
「お前ら、俺の家族のためにありがとう」
「当然です。大吉様のご家族なのですから」
「「「「「「「「「「「「「当然!」」」」」」」」」」」」」
「そしてこれからは、私達も家族なのですから」
「「「「「「「「「「「「「その通り!」」」」」」」」」」」」」
頭を下げる大吉にエルフィンが答え、皆が頷く。
「そうだな。これからは家族だな」
本当に、皆には世話になりっぱなしだ
と、大吉は思いながら次の招待客に頭を下げる。
「井出大吉、クーゲルシュライバー高いぞ井出大吉!」
「我らは本当に丸い星の上で生きているのですなぁ井出大吉様!」
ルオ国王とレギム宰相、ハイテンション。
「うちの国王と宰相が年甲斐も無くはしゃいですまんな井出大吉。この二人に代わって俺がお前達の結婚を祝福しよう。おめでとう」
へべれけで大吉に絡みまくったグリード王子、まとも。
「い、井出大吉様おぉおおおおめでとうごございます」
そして領地自慢の旬の魚料理をスルーされたアスタロス・グレイン子爵、恐怖でテンパっている。
大吉、まずテンパる子爵に頭を下げた。
「アスタロス・グレイン子爵、前回は旬の魚料理に手をつけず申し訳ありません。異世界は初めてだったものですから不用意に口に出来なかったのです」
「そ、そうなのですか……それでは今日はお食べになって頂けるので?」
「ぜひ。皆が美味しそうに食べているのが羨ましかったんですよね」
「そうですか。そうですか! このアスタロス・グレイン、最高の旬を大吉様と皆様に振る舞わせていただきます!」
「楽しみにしています」
大吉とアスタロス、互いに深々と頭を下げる。
「井出大吉。此度の結婚式、王たる余がお前達の誓いを神に届けよう」
ルオ国王、神官を買って出る。
「そしてお前が夢で遊んだこの世界、その身で存分に楽しむがよい。お前の世界がどのようなものかは知らぬがこの世界もなかなかのものだぞ」
「我が王国の楽しみはノストール湖の魚だけではありません。各地をめぐり旬を存分にお楽しみください」
「お心遣い、ありがとうございます」
大吉、国王と宰相にも深く頭を下げる。
偉大なる黒の十四軍の長たる黒は世界の頂点。
孤高の存在となってしまった今、ありふれた普通の事がとてもありがたい……絡まれるのはちょっとアレだが。
「大吉ーっ、俺のトンズラ何とかしてくれよ大吉ーっ」
大吉、グリード王子に絡まれる。
「え? なんで俺が?」
「俺とお前の仲だろ大吉」
「いや、お前がへべれけで絡んできただけの仲だと思うんだが……」
「世界の頂点、偉大なる黒が固いこと言うなよーっ」
「夢で偶然で他力本願だけどな」
偉大なる黒の十四軍の長たる黒、井出大吉。
夢で偶然で他力本願で得た立場なのは事実だ。
しかし大吉の言葉にグリードの表情が険しくなる。
「……井出大吉」
「ん?」
「胸を張れ!」
「あいたっ!」
べちこーんっ!
グリードは大吉の背を派手に叩き、言った。
「いきさつはどうあれお前は我らの世界に平和をもたらしたのだ。夢だろうが偶然だろうが他力本願だろうが胸を張れ。お前はこの世界の誰もなし得なかった事をしたのだからな」
大吉が英雄クロノでなければエルフィンはデタラメにはならなかっただろう。
大吉が黒軍王ネーロでなければ黒軍は怪物の覇者とならず、人族の代表たるエルフィンと共に歩む事も無く、人族と怪物は今も争っていただろう。
大吉が勇者アーテルでなければ、エリザベスの大陸は今も別大陸の振る舞いに振り回されていただろう。
大吉がメランでなければ、黒島での皆の団結は無かっただろう。
大吉がシュバルツでなければ、平和はこの星だけで終わっていただろう。
大吉がブラックでなければ、エクソダスを無力化出来なかっただろう。
そして大吉が中途半端にノワールでなければ、あやめが皆を集める事は出来なかっただろう。
「こいつらはお前と共にいるだけで嬉しいのだ! 幸運な夢に胸を張れ! 偶然を掴んだ事を誇れ! 他力を頼れる事に感謝しろ! そして全てを背負って笑え! それがお前の、お前だけが持つ輝きだ! 偉大なる黒の十四軍の長たる黒、井出大吉よ!」
すべては『だろう』。
すべては夢、そして偶然。
しかし大吉はその偶然を幸運に変え、皆の心をつなぐ中心となった。
それが、大吉の輝き。
黒の十四軍の誰よりも眩しい心の輝きだ。
「俺は間違えた。お前は間違えなかった。だから胸を張れ!」
「……ありがとう。トンズラ王子」
「グリード! グリードだ!」
「あ、すまん」
「私の縁談トンズラ王子、素晴らしい祝福に感謝いたします」
「「「「「「「「「「「「「「トンズラ偉い!」」」」」」」」」」」」」」
「だからグリードだ!!」
王子、さんざんだ。
「ほらトンズラ王子、式を始めるから下がれ」
「父上もひどい!」
「良い事をおっしゃいましたがトンズラの名を返上するのは大変ですぞ」
「レギムもひどい!!」
王子、本当にさんざんだ。
「井出大吉よ。こんなトンズラ息子だが、これからも仲良くしてやってくれ」
「大吉様はデタラメを極めたお方ですから王国の権威も血統もしがらみも無意味な事でございましょう。トンズラでも王子。大吉様のようなデタラメでなければ本音でぶつかる事もできませぬ。これからもへべれけに付き合ってくだされ」
「ハハハ」
二人の親心に大吉、苦笑。
そして式が始まる。
「病める時も健やかなる時も、互いを思い、互いに寄り添う事を誓うか?」
「誓います」
「「「「「「「「「「「「「「誓います」」」」」」」」」」」」」」
ルオ国王の言葉に大吉が誓い、皆が誓う。
大吉と皆の誓いを聞いたルオ国王は満足顔で頷き、大吉と皆を祝福した。
「神の祝福が皆の道を明るく照らしますように。世界が皆を分かつまで」
「世界が皆を分かつまで」
「「「「「「「「「「「「「「分かつまで」」」」」」」」」」」」」」
大吉達を皆が祝福する。
「母さん眩しいなぁ。本当に立派になったなぁ……」
「食っちゃ寝ゲームばっかりしてたのに、本当に眩しくなりましたねぇ」
「嬢ちゃんも獣の嬢ちゃんも、皆も輝いてるのぅ。綺麗じゃのぉ」
「そうですねぇ、眩しいですねぇおじいさん」
世界を分かつカウンターはもう、存在しない。
夢を現実に変えたからだ。
「それでは、誓いの口づけを」
ルオ国王の言葉に大吉は頷き、エルフィンのベールを上げる。
「大吉様、この時をずっと待ち続けておりました」
「待たせたな。エルフィン」
「でも皆様、どうして眩しい、輝いているとおっしゃっているのでしょうか? 私達はちっとも輝いていないのに」
首を傾げるエルフィンに、大吉は笑う。
「尊い輝きは、目には見えないものだよ」
「「「「「「「「「「「「「「つまり赤外線!」」」」」」」」」」」」」
「違う」
「「「「「「「「「「「「「「では黒ですね!」」」」」」」」」」」」」」
「お前らいい加減黒から離れろよ……そういうもんじゃないんだよ」
見えないから見逃すし間違える。そして後悔する。
それを掴むのは偶然かもしれない。見えないから。
掴んで離さなかった者こそが、ためらわなかった者こそがその先に進むのだ。
「エルフィン」
「はい」
「わかれ」
「んっ……」
大吉とエルフィンの唇が重なる。
はじめは軽く、しだいに深く……二人は分かたれた月日を、世界の隔たりを埋めるように互いを求める。
やがて、唇が離れる。
エルフィンは濡れた唇から熱い吐息をもらし、フォルテに言った。
「……フォルテ、今こそ私の真の女力がわかるはずです」
「プラス∞! 真の無限力ですわ!」
「大吉様の愛の輝きです。エルフィン・グランティーナは大吉様の愛と誓いを得て、自らの愛が定まったのです」
穏やかに微笑むエルフィンは、輝いていない。
しかし皆、新たな一歩を踏み出した二人の眩しさに羨望の吐息をもらす。
美しい、心の輝きだ。
認める事、認められる事、互いの心を受け入れる事。
恋は亦心。心に振り回されるもの。
愛は受心。心を受けて変わらぬもの。
世界に分かたれた二人の恋は、世界をつなぐ愛へと昇華したのだ。
「大吉様! 次は第二軍妻、金剛妻ブリリアントと誓いの口づけを!」
「その次は第三軍妻、巨人妻の俺だぜ!」
「……すみません大吉様、怪獣組との誓いの口づけは私達の後でお願いします」
「「「「「ええっ!?」」」」」
「多数決で決めるです!」
「先がいいでしゅ」「先です」「賛成ですぅ」
「むむ、これは賛成せざるを得ない」
「わても先がええなーっ」『『『サキーッ!』』』
「賛成いぇい!」
フォルテの提案、賛成多数。
相変わらずの皆に笑う大吉だ。
「多数決なら、仕方ないな」
「「「「「大吉様、ひどい!」」」」」
「そう気を落とすなお前ら、その後でがっつり誓ってやるから」
「「「「「大吉様、ひどくない!」」」」」
おいでまーせー、おいでまーせー、くろーしまー……
黒の十四軍の皆の祝福の歌が、クーゲルシュライバーに響き渡る。
新たなる誓い。
そして新たなる旅立ち。
この日の輝きを大吉も皆も、この場にいる全ての者も忘れる事はないだろう。
二つの世界が結ばれた、眩しい愛の輝きを。
次で終わりです。
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