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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-3.世界が二人を分かつまで
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15.何もしないと言ったな、あれは嘘だ

「この川沿いの平地では主に小麦、こちらの丘陵地帯は牧畜や葡萄の栽培を行っております。この山では材木、こっちの山は石炭、こっちの山はわずかですが銀を採掘しております」

「ゲームと……いえ、夢で見たのと変わらないんですね」

「はい。グランティーナ子爵領は十年前の夢と変わりません……眩しいですが」


 グランティーナ子爵領、領館。

 エルフィンの実家の執務室、大吉はエルフィンの父ダグラス・グランティーナ子爵からグランティーナ領に関わる様々な教育を受けていた。

 何もしないとエルフィンに宣言した大吉だが、本当に何もしない訳にもいかない。

 光の黒騎士エルフィン・グランティーナは子爵令嬢。

 だから夢の続きを宣言した大吉はいずれグランティーナ領を背負う事になる。

 宇宙を切り裂き金剛竜ブリリアントなど名だたる怪物を一撃こてんぱんな王子すらトンズラする宇宙スケールのデタラメだが、夢は『ステキなお嫁さん』の子爵令嬢なのである。

 伴侶となる者は当然ながら次期領主。

 その避ける事の出来ない次期領主を、大吉は受け入れた。

 領主の座は重責だが、輝かなくても出来る事。

 普通に生きるだけなら輝く必要など無い。

 輝かない人生。

 頭も身体も動くのだから普通に生きれば良い。大吉は自らの人生をそのように定めたのだ。


「十年前の夢には悩まされたものですが、おかげで町の有力者の方々との顔合わせもスムーズに行きました。私が領主となる時には色々と難癖をつけた方々も『げえっクロノ様!』とあっさり土下座。さすがでございます」

「ゲームだからと色々はっちゃけましたから……すみません」


 大吉、夢で領地をシメる。

 よそ者が領主になるとゴタゴタが起こるもの。

 しかし大吉にはエクソダスでさんざんグランティーナ領をひっかき回した英雄クロノ。『逆らえば破滅!』と領内の有力者全てが土下座協力を申し出てくれた。

 縁談を断られ続けて頭を抱えていた父ダグラスも輝く笑顔だ。ぺっかー。


「まさに夢様々。大吉様が領主になれば我が領はますます発展する事でございましょう!」

「さすがは大吉様です……あいたっ!」

「エルフィン、お前は輝くな」

「ち、父上も輝き笑顔ではありませんか!」

「私はいいのだ。お前は輝かない特訓中だろう?」


 ぺっか。

 別室で輝くエルフィンの輝き賞賛にダグラスが輝きチョップをぶちかます。

 エルフィン、別室で輝かない特訓中。

 しかしエルフィンはデタラメ一号。どれだけ離れていても大吉の一挙一動を見逃さない。

 領館の壁など無いも同じ。決して領館が安普請という訳ではない。


「くうっ! これは試練、試練なのですね大吉様! 輝きをマスターして王国から賜った光の黒騎士から『光の』を返上して黒騎士になった時こそ大吉様と共に歩むスタートライン。今は輝きで全く見えない愛の行為と愛の結晶への道もきっと見えるに違いありません!」


 いわば輝き安普請。

 だから別室でもエルフィンの赤裸々心情がダダ漏れなのも仕方無いのだ。


「……エルフィン、がんばれ」

「がん、ばり、ます……あいたっ!」

「だから、輝くな!」


 ぺっか。

 ダグラスは再び輝きチョップをエルフィンにぶちかまし、大吉に頭を下げた。


「申し訳ありません大吉様、うちのエルフィンが……その、眩しくて」

「ハハハ」


 俺もどこかで使ったなぁ、この言葉。

 と、大吉は思いながらダグラスに領地の事を学んでいると、執務室のドアをノックする者がいる。

 ドアを開いて現れたのはエルフィンの母ローザだ。


「さぁ大吉様、次はダンスの練習です。まずはおさらいからはじめましょう」

「くううっ! 私よりも先に大吉様とダンス! うらやましい……あいたっ!」

「エルフィン、貴方はその輝きを式までに何とかしなさい」


 ぺっか。

 母ローザ、別室で輝くエルフィンの輝き嫉妬を輝きエルボーでたしなめる。


「もう国王陛下や宰相閣下、主だった貴族の皆様とついでにグリード王子にも招待状を出してしまいましたから延期は絶対出来ません。無様に輝いて『てへぺろーっ!』とかやろうものなら……わかっていますね?」

「そうなったら黒の十四軍で世界征服あいたっ!」


 ぺっかー、べちこーん!


「わかっていますね?」

「ハ、ハイガンバリマス……」


 まあ、ルオ国王や皆は笑って許してくれるだろう……手が出せないから。

 世界のデタラメ頂点と夢のデタラメ頂点のタッグに手を出そうものなら国どころか星が滅びる。どんな粗相も笑って許すしかない。

 しかし当人達は許されても子孫が許されるとは限らない。輝きで末代まで続く禍根を残さない為にも普通の、輝かない式を挙げる必要がある。

 式。

 そう、二人の新たな門出の式だ。

 そして黒の十四軍の長たる大吉のお披露目の場でもある。

 その日までに大吉もそれなりの知識と振る舞いを身につけておかないと関わった皆が恥をかく。夢ではあれだけイキってたのにアレは何だと思われてはヤバいのだ……世界が。

 大吉はローザに頭を下げ、言った。


「今日もよろしくお願いします、お義母さん」

「まぁ!」


 ぺっか。

 エルフィンの母ローザ、輝き満面の笑顔。


「大吉様、もう一度、もう一度お願いします!」

「大吉様! 私の事もお義父さん、お義父さんと!」

「お義父さん、お義母さん」

「「素晴らしい!」」


 ぺっかぺっか。


「大吉様! 私も! 私の事もエルフィンではなくマイハニーとお呼び下さい!」

「……マイハニー?」

「ああーっ!」


 べべべべべべべっかーっ!


「ぬおっ眩しいっ!」

「「だから、輝くな!」」

「あいたっ! あいたっ! 父上も母上も輝いたではありませんか!」

「「はぁ?」」

「すっとぼけ! 輝きすっとぼけ!」


 べちこーん、べちこーん!

 輝き愛のムチをエルフィンに叩き込んだ両親は、やれやれと首を振る。 


「せっかく大吉様を我が子爵家にお迎えするというのに、うちの娘は……」

「これからはもっと深い仲となるのです。言葉で言えないあんな事やこんな事、そんな事までするというのにいちいち輝いていては皆が困ります。エルフィン、あなたは『今日の夜は眩しいな』『領主様があんな事してるぜ』『いや、こんな事かもしれないぞ』と言われたいのですか? 痴女ですか? 露出狂ですか?」

「あんな事いいな!」 


 ぺっか!

 しかしエルフィン、両親の心配を輝きポジティブシンキング。

 都合が悪い部分はまるっとスルーだ。


「……出来たら、いいですわね」

「ガンバリマス!」

「「輝くな!」」

「あいたっ! あいたっ!」


 ふんがふんがふんが、ぶふーっ……輝き鼻息に両親、また折檻。

 国民的人気アニメのオープニングかよ。

 と、思いながら大吉はダンスの練習をこなしてエルフィン達に会いに行けば衣装合わせをしていたのだろう、白いウェディングドレスを着たエルフィンが出迎える。

 陽光に輝く白いドレスとエルフィンの笑顔に大吉は呟いた。


「……眩しいな」

「ええっ? 今は輝いていないのにっ!」


 エルフィン、普段は漫画鎧にマンガ剣と完全武装。

 だからドレス姿がとても新鮮。そして華麗。目を細める大吉だ。


「どうですか大吉様? 似合いますか?」

「ああ……でも、黒いドレスにすると思ってた」

「大吉様お好みの黒に染め上げて頂くための白です!」

「そ、そうか……」

「クロマメの黒ですか? それともイカスミの黒ですか?」

「どっちも嫌だぞ。それ」

「ええっ!」


 ドレスが匂いそうな黒を大吉は拒否する。

 そしてエルフィンの隣には……ウェディングドレスに身を包んだフォルテだ。


「やっとこの日が……待ち望んでいたこの日がやってくるのですね!」

「その通りです師匠!」

「師匠ではありません! フォルテで結構!」

「ええっ!」

「そんな事よりも貴方は両親も頭を抱える無限ダメ力を何とかなさい!」

「す、すみません師匠!」

「フォルテで結構!」


 大吉アパートでエルフィンと出会ったその日にライバル宣言と勝利宣言をぶちかましたフォルテ、エルフィンと一緒に式を挙げる気満々。

 さらに……


「大吉様と毎日モフモフ! そして散歩です!」

「結婚でしゅ!」「幼妻です!」「妻を育てるですぅ!」

「ハネムーンは宇宙旅行ですね」『(;´Д`)ハァハァ 』

「晩酌はわての出番やでぇ」『『『サケーッ!』』』

「ふっふっふ、三年間の差し入れで大吉様の胃袋は掌握済みですいぇい!」


 そしてエリザベス、アイリーン、マリー、エミリ、セカンド、ミリア、あやめもウェディングドレス姿。


「「「「「「「「軍団間の軋轢防止!」」」」」」」」

「そ、そうか」

「「「「「「「「という建前です!」」」」」」」」

「お、おう……」


 大吉の妻の座、黒の十四軍の安全弁(建前)。

 まあ、ここまではまだいい……

 問題はここからだ。


「金剛妻でございます!」

「巨人妻!」

「要塞世界妻!」

「じつは、妻」

「屍妻! 屍妻ですぞ大吉様!」

「……なんでお前らが花嫁衣裳?」

「「「「「つまー、つまーっ」」」」」

「妻は馬じゃねえ。ひひーんとか言わんぞ」


 その後に続くのはウェディングドレスに身を包んだ竜、巨人、スライム、屍、そして白い花を咲かせまくった巨樹。

 ブリリアント、ガトラス、ボルンガ、ビルヒム、そしてバウルら怪獣組だ。

 大吉が王子と決闘した時そのまんまの馬主張に大吉がツッコミを入れる。


「いや、お前ら雄だろ。俺と同性だろ……」

「大吉様! 我らが妻となるのがご不満なのですか!?」

「フォルテ共も言ってただろ。これは軍団間の問題でもあるんだぜ」

「ここで俺らが妻にならねば『あら、おたくの軍団長、大吉様の妻ではありませんのねホホホ』と軍団長妻持ちの軍団に言われるに決まっている!」

「ひいき、ひいき」

「しかし軍団の女性を大吉様の妻とすれば軍団内に頂点が二つ出来てしまいます。それでは軍団の亀裂になる事間違い無し! ここは我ら軍団長が大吉様の妻となるしかないのでございます……ひゃっほい!」


 怪獣組、満面の笑顔で退く気なし。

 頭を抱える大吉だ。


「いやお前ら結婚してたよな? ブリリアント、奥さんのルビーレッドは何と言ってるんだよ? ピンキーは?」

「大吉様の家族になれると大喜びしております。我が大吉様の妻となればルビーレッドは大吉様の妻妻。ピンキーは大吉様の妻長女。素晴らしい!」

「そんな続柄はねぇよ!」

「「「「「ええっ!」」」」」


 妻妻って何だよ。わけわからん。

 と、呆れる大吉の前で怪獣組が駄々をこねはじめた。


「「「「「エルフィン達女性陣だけずるーい!」」」」」


 ごろーん! ごろーん!

 子爵領、怪獣駄々で揺れる。

 皆、配慮しているので被害は無いが領民阿鼻叫喚だ。


「その気持ち良くわかりますよブリリアント、ガトラス、バウル、ボルンガ、ビルヒム。このドサクサを逃したら大吉様の妻になる機会は二度とありませんからね」

「ブリリアント様、頑張って下さい!」

「妻アピール頑張れです!」

「ごろーんでしゅ」「ばたーんです」「駄々っ子ですぅ」

「大吉様、ここは度量を示す所では?」『(ノ´∀`*)ナカーマ』

「五妻増えたところで大して変わらんでぇ」『『『サケーッ!』』』

「いぇい!」


 しかし普段なら叱責する残りの皆、不思議とあたたかい。

 なんだその五妻ってのは。五徳みたいな呼び方しやがって。ガスコンロか。

 しかしこれも黒の十四軍の長の責務か……大吉はため息をつき、お手上げだと両手をあげた。


「あぁもうわかったわかった」

「「「「「やったーっ!」」」」」


 ひゃっほい!

 万歳な怪獣組だ。


「ついに我も金剛妻! ルビーレッドとピンキーも妻妻そして妻長女!」

「俺も巨人妻か……素晴らしいぜ」

「要塞世界妻! すごい!」

「すら、つま」

「今後も椅子の役目は屍妻ビルヒムにお任せ下さい大吉様!」


 人族(輝く)、人族(飲兵衛)、人族(いぇい)、ケモミミ、サキュバス、メカ女性、メカ幼女、メカ幼女、メカ幼女、竜(雄)、巨人(雄)、世界樹(雄)、スライム(雄)、そして屍(雄)。

 なんつーメンツだよ。これ……

 と、今から波乱に満ちた式を想像せずには居られない大吉だ。


「まあ、それでも一番厄介なのはエルフィンなんだけどな」

「ええっ!?」

「ぬあっ眩しい!」


 べっかーっ!

 やっぱりエルフィン、無限ダメ力であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割烹でも歌詞はアウトだったはずです。 本編で替え歌やって運営に禁止された作者さんが割烹や感想で替え歌語ってたらBANされた事例もあります。
[良い点] なんか一周回って、このどたばた騒ぎが逆に落ち着くわ~。 四六時中輝いてるんだもんな、そりゃあ明るいストーリーになりますよねぇー
[良い点] 相変わらず作者様の作品、一つ一つはこれ以上は無いくらい馬鹿馬鹿しい場面なのに皆が常に本気で一生懸命な所が感動(?)を呼びます、最高です。
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