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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-3.世界が二人を分かつまで
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13.大吉、輝く

「輝き、転送……」


 輝く黒島から離れつつある護衛艦こんごうの飛行甲板で、大吉は呆然と呟いた。

 つい先ほどまでいた黒島はすでに彼方。

 周囲を見れば自衛隊の輸送艦や船舶がこんごうと同じ方向に航行している。

 皆、黒島から避難しているのだ。

 黒島は存在そのものがデタラメなオカルト島。自衛隊がこの島に常駐した時から避難の手順は決められていたのだろう。

 そして谷崎の事、大吉が輝き異世界通話をした直後に避難を開始しただろう。

 黒の十四軍と秘密結社VOIDは世界のオカルト双璧。

 この二つの直接対決が行われる黒島から逃げないなど自殺行為。オカルト付き合いの長い谷崎ならすぐに動いたはずだ。

 しかし……今の大吉にとってそんな事はどうでも良い。


「お前ら、このまま世界を去る気なのか……」


 つい先ほどまで大吉もあの輝く黒島にいた。

 しかし今は蚊帳の外だ。


「「井出さん!」」

「「店長!」」


 甲板にいた自衛隊員が報告したのだろう。

 防衛省の谷崎、黒島支店店員の雄馬と竜二、そしてスーパーおかると労働組合の岡本が大吉に駆け寄ってきた。


「井出さん、戦いはどうなったのですか?」

「リリィは?」「ノエルは?」「アランは?」

「……Vは倒しました。黒の十四軍の皆は無事です。他のオカルトは黒の十四軍が保護しているはずです。俺は……追い出されました」


 矢継ぎ早に聞いてくる谷崎達。

 大吉は短く答え、谷崎に聞いた。


「外は、世界はどうなってますか?」

「現在、全世界で地震が多発しております」


 深刻な顔で谷崎が答える。


「わが国でも全国で震度四程度の地震が多発。緊急地震速報が連発です」

「……オカルト千回払いですね」

「はい。全世界の地震もそうでしょう。被害は報告されておりませんが世界中大騒ぎです」


 日本は地震大国だから震度四程度では『ちょっと大きかったな』で済む程度だが、地震が滅多に無い国では生きた心地がしないだろう。

 その元凶は間違いなく黒島。

 日本政府は今大変だろうなと大吉が思っていると、谷崎が聞いてくる。


「私も東京から原因を聞いてこいと矢の催促です。井出さん、何かご存知ありませんか?」

「オカルト達に頼まれたのでしょう……出来るだけの事をしてからこの世界を去ろうとしているんです」

「立つ鳥跡を濁さず、ですか」


 十年前から世界中のエクソダスに住んでいたグレムリンと最近現れたオカルト達が黒の十四軍に願ったのだろう。関わった者達の行く末を心配しているのだ。

 こんごうの航跡の先、輝く黒島。

 時々激しく輝き空に放たれる輝きは流星のごとく。

 あれが落ちる先でオカルト現象が地殻の歪みをわずかに正し、被害が出ない程度の地震を起こしている。

 災害は人々が忘れた頃にやってくるもの。

 今、歪みを無くしておけばオカルト達の思い人が大地震や津波に被災する事はないだろう。

 目的を達したのだろう、大吉達が見つめる先で黒島の輝きが止まる。

 世界にエルフィンの声が響いた。


『我々はこの星から去る!』


 黒島が、沈み始める。

 このまま行くのか? まともな別れもせずに行ってしまうのか?

 大吉が焦る中、エルフィンの言葉が再び響いた。




『我らは宇宙人!』




『我らはゲームのキャラクターに化けたカシオペア座の第二十八惑星系の存在! エクソダスもプレイヤー達も全く関係ありません!』




「……はぁ?」




 なんかどっかで聞いた事ある話を語りだしたぞ。

 と、大吉は首を傾げる。


「エルフィンさん、オカルト宇宙人だったんですか!?」


 エルフィンの言葉に慌てる谷崎。


「ずいぶんと懐かしいネタをぶっこんできたなぁ」

「オカルトから聞くとは思いませんでしたね艦長」

「聖戦士だ」「聖戦士だな」「海と陸の間にある世界の話か」


 しかし飯塚艦長、梶山副長、そして自衛隊の皆は余裕。

 ゲーム好きな雄馬も竜二も岡本も余裕。

 慌てているのは谷崎くらいだ。

 皆の反応に谷崎は首を傾げ、飯塚に聞く。


「か、艦長……ネタとは一体?」

「異世界で力を得て元の世界に戻った主人公が家族に迷惑がかからないようにと言い放った優しい嘘だ。自分達が去った後に俺らがつるし上げると思っているのだろうな」

「いえ艦長、これは『押すなよ? 絶対に押すなよ?』って奴でしょう」

「……ツッコミ待ちですか?」

「井出君のツッコミ待ちだろうな」

「ですね。そうでなければこんな大事な所でネタなんか仕込みませんよ」


 飯塚と梶山の答えに谷崎が唸る。

 こんな事をやらかしそうなオカルトは大吉が知る限りただ一人。

 全世界に叫ぶネタ振りに呆れる大吉だ。


「……あやめさん、エルフィンに何やらせてんだよ」

「あぁ、あの人ならやりそうですね。クロマメ神ですし」


 あやめの名に谷崎、納得。

 クロマメの陰で黒の十四軍を手玉に取り続けたあやめなら何やらかしてもおかしくない。大吉と谷崎のあやめ評価はデタラメだ。


「艦長、戻る事は……」


 大吉の言葉に飯塚と梶山が首を振る。


「井出君、彼らがツッコミ待ちでも我々は黒島に戻る事は出来ない」

「島の沈没に巻き込まれたらひとたまりもありません。ヘリも駄目ですね」


 こんごうは今も全力で黒島から離れていく。

 沈みつつある黒島に接近する事など出来る訳がない。

 それもツッコミの為に戻るなど論外だ。

 大吉一人で海を渡り、黒島まで行く事など不可能。

 しかし……大吉の拳が輝く。


「井出さん……その輝く拳は?」

「……そうか。まだ残っているんだな」


 大吉だけが持つ、エクソダス世界を食って得た輝き。

 この輝きは大吉の可能性、デタラメぺっかーだ。

 大吉は輝く拳を胸に抱き、谷崎に笑う。


「谷崎さん、両親に伝言をお願いします」

「ツッコミを入れに行くんですね?」


 大吉は谷崎に頷く。


「はい。両親には『盆と正月には帰る』と」

「盆と正月に帰省出来るなら、日本人的には問題ありませんね」


 谷崎が笑う。

 仕事や学業で家を出れば戻るのはまとまった休みが取れた時だけだ。

 大吉はそれが異世界になるだけの事。

 往来がちょっと特殊になるだけだ。


「まあ、戻れれば……ですけれど」

「黒の十四軍なら、出来ますよ」

「あいつらは来日オカルトの中でもデタラメ揃いだからな。砲弾を返却された時には俺も度肝を抜かれたぞ」

「破片までキャッチ&リリースですからね」

「あいつらが色々すみません」


 普通なら出来ないだろうが、黒の十四軍なら出来るだろう。

 なぜなら、あいつらデタラメだから。

 それがデタラメと日常的に接した皆の認識だ。

 大吉は谷崎らと笑うと、皆に深く頭を下げた。


「では、行ってきます」

「帰省の際はご連絡ください」

「その時は我ら一同、黒島歓迎音頭で迎えてやろう」

「こんごうは我が国のオカルト担当艦ですから」


 頭を上げた大吉は、次に雄馬と竜二に頭を下げる。


「すまん。お前達は連れて行けない」


 自分一人だけでも行けるかどうか分からないのに二人は連れて行けない。

 雄馬と竜二もその事はわかっていたのだろう。頭を下げる大吉に頷いた。


「ではリリィに伝言をお願いします『愛している』と」

「ノエルには『子供を頼む』と」

「……お前ら、進んでるなぁ」

「俺らは黒島に来る前からずっぽり相思相愛ですから」

「むしろ店長が慎重過ぎるんですよ」


 感心する大吉に二人が笑う。

 オカルト力では大吉と黒の十四軍が圧倒的だが、色恋では二人の方がはるかに先達。大吉がすったもんだしている間に世界の壁をあっさり飛び越えていたのだ。


「というかエルフィンさんがデタラメなのは、大体店長のせいだよな」

「輝きにダメ出しばっかだもんな。エルフィンさんを筆頭にメンツがデタラメだからその気持ちも理解しますが、今こそ店長が輝きを示す時です」

「そうか……そうだな」


 大吉が頷く。

 二人の次はスーパーおかると労働組合の岡本だ。


「俺もアランに伝言を『ありがとう。またな』と」

「……わかりました」

「お願いします」


 願う皆を前に、大吉は輝く拳を振り上げた。

 自らの中にどれだけの輝きが残されているか、大吉にはわからない。

 しかし行かねばならない。

 皆の想いを伝えるために。そして大吉自身の言葉を伝えるために。

 届くか? いや、届く! デタラメ届け!!

 大吉は輝きに皆への思いを託し、あらん限りの力で叫ぶ。


「輝き、転送ーっ!」


 ぺっかーっ!

 皆が見つめる中、大吉は海中に没した黒島に輝き転送した

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