8.最初の一人、V
「いやぁ、身一つでこの世界に放り出された時は途方に暮れましたよ」
Oの言葉にVが頷く。
Vは皆の道を作ったが、Vの道を用意する者はいない。
彼は最初の一人。エクソダス世界からこの世界に渡った先駆者だからだ。
「謎の現象に巻き込まれてたどり着いたのは見た事も無い世界。何の為に渡ったかも分からず、何をして良いかも分からず、そよ風にすら吹き飛ばされる。こちらに渡った時は強固な世界にただ翻弄されるだけの日々でした」
大吉はエクソダス世界を思い出す。
エクソダス世界は大吉の世界よりもはるかに脆弱であり、触れたそばから物質が崩壊して立つ事すらままならない世界だった。
大吉の世界はエクソダス世界よりもはるかに強固。
最初の一人であるVにはエクソダスで蓄積した力などは無い。
大吉が普通に出来る事すら一苦労だっただろう……力を得る手段が無ければ。
「しかし私は世界を食い、それを力に変える事が出来た」
Vは笑う。
「面白いもので世界を食べたとたん、この世界は脆弱なものに変わりました」
「そりゃそうだろ。物質そのものをエネルギーにしているんだからな」
大吉ら地球の生物がエネルギーを得るのは化学反応。
対してVらオカルト達がこの世界から得るエネルギーは核反応。
核反応は化学反応とは桁違いのエネルギーを得る事が出来る。それを思うがままに使えるのならばデタラメにもなろうってものだ。
「調べると食べた物質が私の血肉となる際、この世界の強固な物質が私の世界の脆弱な物質に変わって差分が自由に使える力に変わる。普段の食事で相当な力を得る事に成功した私はより多くの力を得る計画を立てました」
「それが、エクソダスか」
「はい。グレムリンを呼び、彼らの住居としてエクソダスを作り、使用者と我々の世界の者を夢で結ぶようにしました」
それがVRドリームインターフェース『エクソダス』。
「そして力を得ると共に使用者に長時間ご利用頂けるように邪魔な汗や呼吸、老廃物、排泄物などを疑問に思わない程度に食わせ、長期間ご愛用頂けるように使用者の健康を害する様々な要素を食わせて確固たる地位を築きました」
エクソダスは最先端のゲーム機の皮をかぶったグレムリン集合住宅であり、ゲームを餌に人を食う捕食機。
使用者は食われながら遊んでいる。
しかし寝ている間の寝汗や呼吸、老廃物や排泄物が一部消滅している事などわかる訳がない。体重を量る者はいても体外に出した諸々をすべて計測する者などいないからだ。
「ゲーム機需要は一段落したのでここらが潮時と収穫するつもりでしたが、オカルトを呼び寄せ宣伝に使うというあやめ君のアイデアで欲深い国家や企業から大規模受注を獲得。おかげでエクソダスは出荷台数七十億台突破! 世界は違えど考える事は私とまるで変わらない。黒の十四軍は素晴らしい宣伝になってくれました。ありがとう井出大吉君!」
そして、黒の十四軍。
圧倒的な力と大吉への崇拝と服従は、恐怖と羨望を世界にもたらした。
誰もが、力が欲しいのだ。
己の思うがままに生きていくための、力が。
そしてそれはVも同じだと言う。
「そうか……V、お前の原動力は世界を食いたいという欲望か」
「当たり前ではありませんか!」
大吉の言葉にVが叫ぶ。
「ただ食べるだけで破格の力が得られるのです。こんな美味しい話を逃す訳がありません!」
Vは管理者であり、使用者と直接の接点は無い。
エクソダスの使用者はエルフィンら夢の登場人物とグレムリンまかせ。
ゆえにエルフィン達やエクソダスのグレムリンのように長い付き合いから愛着が生まれる事も無い。
門を通りエクソダス世界に流れる力をかすめ取る存在。
それがV。
この世界に訪れた最初の一人は、世界を食う道を選んだのだ。
「まあ、同じ世界の者達が私に敵対するほど貴方に服従するとは思いませんでしたがね。あやめ君にはしてやられましたよ」
「いぇい!」
「そして黒の十四軍にもしてやられました。輝き異世界転送を会得してOと互角に戦い、エクソダスのグレムリンを迅速にへべれけにするとは、さすがはデタラメ揃いですな」
「「「「「「「「「「「「「当然!」」」」」」」」」」」」」
「そしてO、六年前に現れた貴方の使用者への愛着も誤算でした。貴方が現れる前に食わなかったせいでこのザマです」
「当たり前です。夢でも異世界でも楽しければ友、苦楽を共にすれば仲間、敬う所があれば主人、愛するならば思い人。尊き縁を食いあさるなどもっての他です」
Vの誤算は、Vの世界の者がVとは違う欲望を持った事。
Oは世界を食おうとするVを止め、黒の十四軍はVを追い詰め、エクソダスのグレムリン達はへべれけとなった。
世界との関わり方の違いが、Vと他の者の道を分けたのだ。
Vはやれやれと首をふり、ため息をつくと大吉に提案する。
「井出大吉君、ここは現状維持で手打ちといきませんか?」
「手打ち?」
「私達も急ぎ過ぎましたので、仕切り直しといきましょう。私達はエクソダスと公共事業でちまちまと世界を食い、貴方達は黒島でのんびり暮らす。私達も貴方達もこれまで通り。約束を違えたら私達を叩けば良い。それでどうでしょう?」
「論外だ」
Vの提案に大吉は首を横に振る。
「なぜでしょう?」
「全てを握っているのは、お前達VOIDだからだ」
VOIDはエクソダスという力の源を持ち、七十億の人間から力を獲得出来る仕組みを持っている。
今、黒の十四軍が互角に戦えているのは皆も自分と同じように世界を食うだろうと考えたVの誤算。
夢の出演者に力を与え過ぎたのなら与えなければ良いだけの事。そうすれば黒の十四軍もすぐに圧倒されるだろう。
ここで退けばVに勝つ機会は二度と無い。
相手がどれだけ譲歩しようが、退くことなど論外なのだ。
「俺達には今しかないが、お前達は今をやりすごせば好き放題出来るからな」
「私ある限り、Vら欲望を持つ者達の好きにはさせません」
Vの代わりに大吉に答えたのはOだ。
「O、お前の言葉をどうやって信じればいい?」
「……わかりました。証を見せましょう」
Oが兜に手をかけ、外す。
現れたOの素顔に、大吉達はどよめいた。
「……エルフィン?」
「はい」
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