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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
1-2.黒軍、太平洋に現る
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2.ひょうたんか? ひょうたんがひょっこりなのか?

 朝、大吉のアパート。

 大吉は美味しそうなご飯の香りに目を覚ました。


「……そうか。エルフィンが料理しているのか」


 寝転んだまま昨夜の事を思い出す。

 そう、大吉はじいさんから破いた肥料袋のわびとしてエルフィンを押しつけられたのだ。

 ゲームキャラが現実に押しかけて同居。まさにオカルト。

 昼休みにガチャしてただけなのに。

 大吉はスマホを取ろうとして枕元をまさぐり、無意味に布団を撫でた。

 販促音楽を録音したスマホはエルフィンに貸したままだからだ。


「ネットショップにあるかなぁ、あれ……」


 大吉は頭をかきながら起き上がる。

 スマホをいつまでも貸していると困る。寝坊防止のアラームや休憩時間や荷待ち時間の暇つぶしなど、スマホはあらゆる方面に非常に役立つ現代の必需品だ。

 そんな事を考えながら大吉は身だしなみを多少は整え、扉を開く。

 窓から差し込む朝の輝き。ジューッと気持ちの良い料理の音。

 そしてスマホから流れる販促音楽を口ずさむ可愛い彼女。

 エルフィンは振り返り、大吉に輝く笑顔を向けた。


「おはようございます。大吉様」


 ぺっか。

 比喩で無く本当に輝く所がオカルト。


「おはよう……鎧なんだ」


 そして料理なのに鎧。さらに帯剣。

 斬新な鎧エプロンにツッコむ大吉だ。


「着るものがありませんから」

「じいさんの所ではどうしてたんだ?」

「鎧でしたよ? お二方からは何も言われませんでしたけど」


 じいさん一家、すげえな。

 鎧と帯剣の少女にツッコミも入れずに仕事とご飯を与えるとか、大人物過ぎる。

 しかしこの格好では狭い場所の多い日本では生活に困るだろう。

 彼女の姿は漫画鎧に漫画剣。現実の鎧や剣よりはるかに大きくかさばるのだ。

 こんなもので過ごされてはそのうち大変な事になる……家が。


「今度、普段使いの服でも買いに行くか」

「大吉様がお選びになってくださるのですか!」

「あー、あやめさんにでも頼んでみよう」


 下着とかさっぱりわからんし。

 ぺっか……

 大吉のぶん投げ宣言にエルフィンはしょんぼり輝くと、がっくりと肩を落とした。


「大吉様はお選びになってくださらないのですか……」

「女性の服の機能性とか実用性は良くわからないしな」

「実用性! そ、それは夢の続きという事ですか?」

「そういうのは禁止です」


 フライパンを巧みに操りながら叫ぶエルフィンに釘を刺す大吉だ。

 親しき仲にも礼儀あり。

 まずは互いを知り合う事から。

 夢の続きをと求めるエルフィンに夢と現実は別と大吉は懇切丁寧に説明し、部屋をひとつ空けて彼女の部屋にした。

 夜這いが怖いので大吉の部屋は立ち入り禁止の聖域指定。許可無く入ったら実家のじいさん一家に戻す旨を宣言。

 じいさん一家、いつの間にか実家扱いだ。

 まあ、エルフィンは美人。

 そんな彼女が自分にぞっこんな状況は、オカルト展開でも悪い気はしない。

 しかし、彼女は感動で樹木をねじ切る木っ端屑女。

 命の危機に据え膳云々という言葉すら思い浮かばなかった大吉だ。

 大吉がそんな事を考えている間にもエルフィンは手際良く料理を作り、皆の分をテーブルに並べた。


「さあ大吉様、朝食が出来ました」

「ありがとう」


 起きたら朝食の香りがするのも久しぶりだ。

 腹を心地よく刺激する香りに誘われ、大吉は席についた。

 食卓に並ぶのはご飯、味噌汁、漬け物、ハム、目玉焼き、サラダ、そして黒豆。

 一人では作らない、何とも贅沢な朝食だ。


「「「いただきます」」」


 大吉はエルフィンと共に手を合わせ、何故かいる同席者にツッコミを入れた。


「で……なぜいるんです? あやめさん」

「普段から大吉さんの食生活に協力しているのですから、たまには私の食生活にも協力して下さい。ちなみに今日のぬか漬けは私の自信作です」

「ぬか漬けするんですね。あやめさん」


 相変わらず謎の人だな。

 箸を取りながら大吉は思う。

 神出鬼没、いつの間に現れたり消えたりする女性である。


「そしてこの黒豆もあやめさんです!」

「そ、そうか」

「黒い! 絶対に黒い! そしてうまいうますぎる! いい人!」


 ぺっかぺっか。

 輝きながら黒豆を頬張るエルフィン。


「ありがとうございます」


 あやめはエクソダス担当の第一開発部なのにエルフィンをスルー。

 漫画鎧と漫画剣と輝きもスルー。若くしてじいさん並の豪胆さだ。

 このくらいの豪胆さがなければ今をときめくエクソダスの開発は出来ないのかもしれないなと、大吉は苦笑しながら食べ始めた。


「……美味いな」

「ありがとうございます!」


 ぺっかーっ!

 今日一番のエルフィンの輝きに大吉の目がくらむ。


「本当に美味しいですよエルフィンさん」

「クロノ様、いえ大吉様のおかげです!」

「見えん! 食事が見えん!」

「あ、大吉さん目がくらみましたね? 今がチャンスです!」

「なぜ食べられるんですかあやめさん?」


 目潰しすらスルーするあやめに首を傾げながら、大吉は目の回復を待つ。 

 待っている間に目玉焼き消失。

 そして代わりのぬか漬け出現。

 やってくれたなあやめさん。

 ぬか漬けをポリポリ食べながらまるっとスルーなあやめを睨む大吉だ。


「ところで大吉様は料理なさらないのですか? クロノ様の料理は行列が出来るほどの絶品でしたのに」

「ゲームと違って色々面倒でな。掃除とか買い物とか生ゴミが」


 スーパーに行けば惣菜と弁当と調味料に溢れるこの世界、適当自炊でもそれなりに美味いご飯が食べられる。

 寝ゲーにはハマったが料理にはハマらなかった大吉だ。


「あ、テレビつけますね」

「どうぞ」


 あやめがリモコンを取り、テレビのスイッチを入れる。

 ニュースが世界情勢を簡単に紹介している。

 色々な国の首脳や著名人が目まぐるしく画面に映り、そして切り替わる。

 皆、肌の色は違う。

 しかしエルフィンはスルーだ。


「エルフィンは肌の色にはこだわらないんだな」

「『心の通じる相手は心の色で見ろ』。クロノ様の言葉です」

「……そうだな」


 こっ恥ずかしい事を言ったもんだ。

 大吉は朝食を食べながら赤面する。

 輝きすらスルーしたあやめはクロノのセリフがツボったらしい。バンバンとテーブルを叩きながら突っ伏し震えている。

 大吉は仕返しだとばかりにあやめの皿からハムを奪い取り、サラダに入っていたニンジンをちょろっと置く。ざまぁ。

 睨むあやめを今度は大吉がスルーした。


「ですから私、腹黒い女を目指しております」

「腹黒い人は自分を腹黒いなんて言わんぞ」

「ええっ! 大吉様、今の発言はノーカン、ノーカンで!」


 言動から滲み出る黒さこそが腹黒さなのに、露骨に宣言したら腹黒も何もない。

 慌てるエルフィンに呆れる大吉だ。

 三人は食事を続け、テレビの映像は変わり続ける。

 誰かと誰かが熱愛だの何だのいった内容に、再びあやめがリモコンを手にとった。


「大吉さん、芸能コーナーには興味がありませんのでチャンネル変えますね」

「いいですよ」


 大吉も芸能コーナーにはそれほど興味は無い。

 あやめがチャンネルボタンを押すと、今度は日本地図をバックにデカデカと『新島か?』の文字だ。


『海上保安庁によりますと本日未明、付近を航行中の船舶から巨大な新島が出現したと通報があったとの事です』


 おそらくそのあたりにあるのだろう、日本地図にバッテンが記されている。


『通報された海域は日本のEEZ、排他的経済水域の穴となる部分です。前兆も無く突然現れた新島に専門家も唖然としており、またEEZの外でもある事から各国の動向が気になる所です』

「また、妙な位置に新島が出来たなぁ」


 テレビを見ながら大吉は呟いた。

 どこかの国が領有に動き出したら面倒な場所だ。

 EEZの境界で揉め、空港でも作れる広さなら安全保障の問題に発展する。

 海から岩が出ているだけで強力な権利を主張できる。それが領土なのだ。


「ま、俺の仕事には関係無いか。ごちそうさま」


 しかしトラックでは行けない場所の事を心配しても仕方が無い。

 まあ、日本の誰かが何とかするだろう。

 大吉は味噌汁を飲み終え、出勤の準備を始めた。

 準備を終えると片付けを終えたエルフィンが玄関で準備万端。

 しかし部外者を店に連れて行く訳にもいかない。大吉は告げた。


「エルフィンは留守番な」

「ええっ! 大吉様にまたぶるるんが突撃したらどうするのですか!」

「トラックな。あんな滅多に無い事を気にしてたら仕事も出来ません」

「では昨日のようにぶるるんの三歩後ろを……」

「回りが驚くからやめなさい」


 そんな大吉にあやめが助け船を出す。


「あ、私は今日休みですからエルフィンさんに付き合ってもいいですよ?」


 さすが謎の女性。オカルトタイムリーだ。

 大吉はその助け船に乗る事にした。


「という訳だエルフィン。今日はあやめさんに服とか色々選んでもらえ」

「ですが大吉様が……」

「口ずさんでいた販促音楽の売り場、私知ってますよ?」

「あの曲が!」

「さらに黒豆の美味しい作り方も伝授しましょう」

「クロマメ!」

「そして男心をくすぐる服の売り場も知ってます」

「黒! 黒ですね!」

「違います。身につける黒はここぞの時に見せるのがポイント。日常とのギャップに男心ガッチリです」

「ここぞ! 黒は勝負の色!」

「ネタバレしたら効果激減だけどな」

「ええっ! 大吉様、今の発言はノーカン、ノーカンで! そして渾身の防御魔法をかけたスマホをお持ち下さい!」

「……スマホのスイッチが防御されて押せないから別のにかけてくれ」

「大吉様、島が出来たからと言って見に行こうなんて思ってはいけません。今日の大吉様の海運はきっと大凶! 大凶様!」

「大凶様じゃねえよ! 行けねえよ!」


 帰らないならオカルトにも日常に慣れてもらわねば。

 大吉は財布から数万をあやめに渡し、エルフィンを頼んで仕事に出かける。

 そして次の日。


『昨日報道した新島が、移動を開始しました』

「……へ?」


 いや、もうそれ島じゃないだろ。

 朝のニュースに大吉は心でツッコミを入れた。

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