3.愛も恩も枯れるもの
「ついにやりました! ついに私、光の黒騎士エルフィン・グランティーナは輝き異世界転送を会得しました! 異世界反復横跳びの成果です!」
「やったなエルフィン!」
「これでOが業務中でも安心。バレずにこっそり行けます!」
グランティーナ領、エルフィン実家。
すっかり出戻りになってしまったエルフィンが、えっへんと胸を張った。
「クロノ様、お茶でもどうですか?」
「バウル殿から頂いた果物を使った焼き菓子もお食べ下さい」
「ありがとうございます」
エルフィンが異世界転送を会得するまで、大吉すっかり居候。
もはや婿養子扱いである。
「ですが大吉様、この際業務中のOを後ろからこてんぱんにした方が話が早かったのではないでしょうか」
「いや、Oが俺らに対応している間にステーションが落下したら困るし」
「後で輝き復元すれば「落ちないに越した事はないから」ええっ!」
アニメみたいになったら困るじゃん。
ゲームマンガアニメ全盛の子供時代を送った大吉、オカルトずっぽりなのにその手の展開に弱い。
未遂を何十回もやらかしたのに今さらではあるが、それはエルフィンが異世界転送を会得するための必要経費と大吉は割り切る事にした。
人生、割り切りと開き直りはとても重要。
どうしようも無い事は悩んでも仕方ないのである。
「それで大吉様、この後はどうしましょうか?」
「俺がこの世界にいる間に色々変わっているようだし、まずは情報収集だな。谷崎さんに電話しようと思う」
「異世界電話ですね。おまかせください」
ぺぺぷぱぽぺぱぷぺぺっか……。
異世界転送出来るのだから通話も可能だろう。
大吉はすっかり使わなくなったスマホを取り出し谷崎に電話をかける。
電話はワンコールであっさり繋がった。
『井出さん? まさか井出さんですか!?』
「お久しぶりです。谷崎さん」
『いきなりいなくなったので心配していたんですよ。今どこにいるんですか?』
「えーと……そっち世界にはいません」
『あの世! まさかの冥界電話! 成仏して下さいなんまんだぶなんまんだぶ!』
「ちゃんと生きてますから。黒の十四軍の皆も一緒ですから」
スマホの向こうで半狂乱な谷崎をなだめ、大吉は今の世界を聞いてみる。
世界は大吉の予想以上に変わっていた。
『黒島は秘密結社VOIDの本拠地になりました』
「ええーっ?」
マジかと唖然な大吉だ。
『黒の十四軍がいなくなれば誰かが使うのは当然ではないですか。そして世界はオカルト全盛、宇宙ステーションもバンバン打ち上げてますし月面に基地も出来ました。そして金星と火星のテラフォーミングも始まりました。もはやオカルト制限条約なんてどこも守っていませんよ』
「うわぁ……ちょっと居なかっただけなのに」
『井出さんが居なくなってからVOIDの売り込みが半端ありませんでしたから』
大吉、浦島太郎状態。
まるで夢を見ている気分だ。オカルトだから似たり寄ったりだが。
『日本は最後まで条約を律儀に守ってオカルト後進国になってしまい、国民の突き上げが半端無く安住内閣は総辞職。その反動で現政権はオカルト積極利用の法整備を進めてまして、黒島がVOIDの本拠地になったのもその一環です』
「雄馬や竜二やノエル、新町の皆さんは元気でしょうか?」
『三人は黒島支店で今も頑張ってますよ。新町の皆さんも元気です。あと、スーパーおかると労働組合はVOIDとの協力関係を解消しました』
「え? 解消したんですか?」
『はい。岡本さんは「こんなはずではなかった」と言ってましたね。今はスーパーの仕事に専念しています』
「そうですか」
オカルトの有効利用を主張していた岡本らスーパーおかると労働組合の者達は普通に生活しているらしい。
何があったんだろう……スマホ片手に大吉が首を傾げると、谷崎が聞いてくる。
『それで井出さん、この異世界電話の用件は何でしょう?』
「実は……」
大吉は話した。
オカルトのデタラメ力の源は物質を取り込みエネルギーに変えている事、エクソダスは人体の不要物を食って動いて居る事。そういう世界の関係である事を。
ただ、世界を渡った大吉が同じように世界を食って力を使った事は言わなかった。それを知らせればとんでもない事になると思ったからだ。
しかし、大吉の話を聞いた谷崎の反応は平坦だ。
『それの何が問題なのですか?』
「え?」
『だいたい地球の質量がどれだけあると思っているんですか。一日数万トンでカタが付くなら皆喜んで支払いますよ。それで困ったら木星や太陽から支払えばいいし、他の恒星や銀河などから支払ってもいいでしょう。気にする事ではありません』
個人の感覚では数万トンは膨大だが、地球規模ではそこまで大した量ではない。
太陽系や銀河ならば塵に等しい。だだっ広いから手間なだけだ。
「でもエクソダスは人の身体を食っているんですよ?」
『医療行為と考えれば良いでしょう。エクソダス発売以来そのような被害は出ておりませんし、手術や健康食品よりもずっと安全で確実ではないですか』
「えーっ……」
大吉がスマホを手に唖然としていると、谷崎のため息がスマホから漏れる。
『と、今の世界なら言うでしょうねぇ……オカルトずっぽりですから』
「え?」
『井出さんの話を知った世界がどのように反応するかを想像して、岡本さんの言葉の理由がやっとわかりましたよ。我々はオカルト達に甘え過ぎている、そして利用するのが当たり前だと思っている。岡本さんはオカルト達ばかりに奉仕させる世界の姿に幻滅したのでしょうね』
谷崎は続けた。
『今の状態が成立するのは力を与えた世界に対するオカルト達の愛や恩ですが、それに頼ってばかりでは愛も恩も枯れるもの。やがては呆れられ、見捨てられる事でしょう。黒島にもそんな者がいましたよね?』
「……いましたね」
オカルトに頼り過ぎて見捨てられた者がいた。
あの時は一人だけの事だったが、今度は世界全体の事になる。
愛も恩も使えば減る。いつまでも頼っていては見捨てられるのだ。
『地球の物質を与えている内はまだ良いでしょう。しかし地球の外の物質は人類には手も足も出せない高嶺の花、与えると言っても呆れられるだけです。そして人類が邪魔だとオカルト達が見捨てた時、人類に破滅が訪れる事でしょう。物質を失う事は大した事ではありません。オカルト達に見捨てられる事こそが問題なのです』
「それをVOIDが狙っている……のでしょうか?」
『VOIDの狙いは知りませんが、今のように人々のワガママを聞いていればそうなります。岡本さん達スーパーおかると労働組合が協力関係を解消したのはその始まり。破滅はもうすぐ訪れるかもしれません……井出さん。この流れ、止めていただけませんか?』
「……わかりました」
オカルトに対抗出来るのはオカルトだけ。
VOIDに対抗出来るオカルトは黒の十四軍をおいて他に無い。
大吉は頷き、もう一つ聞きたかった事を聞いた。
「ところで谷崎さん、あやめさんには会いましたか?」
『あやめさん? 大吉さんと一緒ではないのですか……?』
谷崎はあやめの動向を知らなかった。
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