2.異世界、反復横跳び
「あー、間が悪かったなぁ……」
黒島、メインストリート。
久しぶりの黒島で、大吉は皆と共に宇宙ステーションの落下する空をのんびりと見上げていた。
宇宙ステーションは直径六キロ、長さ四十キロ。
大きさだけなら大昔に恐竜を滅ぼした隕石の推定サイズである十キロをはるかに超える。こんなものが地球に衝突したら人類もただではすまない。
しかし大吉、もはやこの程度のオカルトは日常。
バウルやクーゲルシュライバー、空を埋め尽くす『大吉様!』に遭遇した今となっては落下する宇宙ステーションなぞ驚くほどの事ではない。
大吉はエルフィンに言った。
「エルフィン、打ち返せ」
「はい」
「待ちなさい!」
しかし打ち返そうと身構えたエルフィンを止める者がいる。
秘密結社VOIDの幹部、黒曜の騎士Oだ。
顔は見えないが声を聞く限り女性らしい。
そして当たり前だが怒っている。Oはエルフィンに詰め寄り叫ぶ。
「せっかく作ったのにぶち壊す気ですか!」
「落ちて来るものは打ち返せ。これで問題解決です」
「どこが問題解決なのですか!」
「もしかして人が乗ってます? それは大変!」
「乗ってません。ですがこれはオカルト業界の信用の問題なのです! 私がもう一度打ち上げますから何もせずじっとしてなさい!」
「「「「「「「「「「「「「「「す、すみません」」」」」」」」」」」」」」」
Oの剣幕に大吉と黒の十四軍、謝罪する。
なんだろう、オカルト業界って……と、頭を下げつつ首を傾げる大吉だ。
「まったく、なんてデタラメな連中なのでしょうか。脳筋はこれだから困ります」
Oが宇宙ステーションの落下を静かに受け止める。
宇宙ステーションは生卵のようなもの。ソフトキャッチが基本だ。
「どこも損傷していませんね。それでは打ち上げ再開です」
有り余るオカルトハイパワーでごり押す黒の十四軍と違って丁寧な仕事だ。
妙な事で大吉が感心していると世界がいきなり輝き、そして暗転する。
「わっ……あれ?」
ぺっかーっ!
光が消えると、エルフィンの両親輝くグランティーナ子爵領だ。
「エルフィン、輝きチョップだな」
「まったく、この子は本当に……」
「待ってください! 今回はしっかり大吉様の世界にたどり着いたのです!」
「知らん」「知りません」
「あいたっ!」
ぺっかー、ぺっかー、べちん! ずごごん!
両親の輝きチョップと輝きダブルキックがエルフィンに炸裂する。
大吉一行、あっという間にエクソダス世界に追放される。
黒の十四軍の皆、ぽかーんだ。
「これがVの能力か」
「黒曜の騎士Oは、女性の方だったのですか……大吉様といえば女性ですが、まさか敵にも当てはまるとは!」
「あっさり追放だったな。輝いただけだったぞ」
「そういやエルフィンの時も輝いただけだったな」
「これが秘密結社VOIDの代表V。あなどれませんわ」
「図体のでかい俺は隠れる事も出来ん。強敵だな」
「とも、では、ない」
「ここまであっさり追放となると私達は盾にすらなれないかもしれませんな」
「追放されれば戦力外です!」
「すぐ追放でしゅ」「ぽーいです」「困ったですぅ」
「確かにこれは困った。クーゲルシュライバーなど的にしかならない」
「これ、何とかなるんか?」『『『コマッター!』』』
「潜伏する間すらありませんでしたな。というかあんなだだっ広い場所で潜伏は難しいですな」
しかしここで諦めたらそれで終わり。
そして何より、今はチャンスだ。
大吉はエルフィンに言った。
「エルフィン、もう一度いけるか?」
「当然です。掴みはオッケー! 輝き、異世界転送!」
べっかー!
皆が輝き、大吉一行は再び黒島メインストリートへ。
「再打ち上げは順調だったのに、また足を引っ張るのですか!」
「すみません、なんかすみません」
どうやらエルフィン、Oを掴んで異世界転送しているらしい。
再び落下する宇宙ステーションを見上げ、大吉謝罪。
そしてまたぺっかーと輝き、グランティーナ子爵領に追放。
「もう一度だエルフィン!」「はい!」
べっかー!
大吉の言葉にエルフィンは再び輝き異世界転送。
「またですか!」「すみません。何度もすみません」
そしてOが怒り、大吉が謝り、ぺっかと輝き追放される。
「もう一度だエルフィン!」「はい!」べっかー!「またですか!」「すみません」ぺっかー「もう一度だエルフィン!」「はい!」……
Oが宇宙ステーションを打ち上げようとするとエルフィンが足を引っ張り輝き異世界転送。そしてVが大吉一行をエクソダス世界に追放する。以下ループ。
黒の十四軍、異世界反復横跳び。
大吉と黒の十四軍、ぶっちゃけ世界の迷惑者だ。
「あなた達は人類を滅ぼす気なのですか! 宇宙ステーション落下をVOIDになすり付ける気なのですか! それともバカなのですか!」
「すみません。本当に何度もすみません」
しかし何事も経験。
最初から上手に出来る者など滅多にいない。誰もが経験を積み重ねて上手になっていくものだ。
それは輝き異世界転送でも変わらない。
間違いや迷惑を極度に気する者は何も出来やしないと、開き直った大吉だ。
「よぅし今がチャンスだエルフィン! Oが宇宙ステーションにかまけている内に異世界転送をマスターするんだ!」
「Oが作業中なのを良い事にやりたい放題! クロノ様の頃のようです!」
「……いや、本当に宇宙ステーションが落ちそうだったら手伝ってやれよ?」
そこはバランスだからな?
世界を食われない為の異世界転送なのに世界を滅ぼしては元も子もない。
我ながらひどい事をしてるなぁと、皆と共に異世界反復横跳びしなから大吉は思うのであった。
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