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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-3.世界が二人を分かつまで
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1.黒の十四軍、世界を渡る

「ロープは……ないな」

「無いですね」


 大吉が世界に訪れて初めて五体投地した地。

 皆と共に輝き転送で王都に寄ってルオ王にグリード王子を返却し、さらに輝き転送でこの地に戻った大吉は、やっぱりダメかとため息をついた。

 ロープは、無い。

 というか入り口自体が無い。

 この世界を混乱させない為に慎重にエルフィンを迎えに行っていた大吉一行だがさすがに時間をかけ過ぎたらしく、ロープも入り口も回収されてしまっている。

 輝きスルーにも限界はあったかと、あやめを心配する大吉だ。


「あやめさん、大丈夫かなぁ」

「大吉様、あやめが何かしたのですか?」

「実は諜報軍の軍団長だったんだよ」

「ええっ! クロマメは囮だったのですか!」

「黒豆の話はもういいから」


 それは他の皆が呆れるほどやりました。

 大吉とエルフィンがそんな会話をしているとAが言う。


「大吉様がお心を痛める事はございません。我らの軍団長は強運で謎の人。『ロープを使う敗北者なぞいらぬ!』くらい平然とおっしゃるお方です」

「あー……ありそうだなそれ」


 あやめ、いやIことアイリス・メイはドジッ子だが強運の持ち主でもある。

 大吉が苦労して突破した監視網をいつの間にかしれっと突破。

 そして目的のブツを手に入れた直後にドジ踏んで監視網にひっかかって敵を大吉になすりつけ、命からがら大吉が逃げて拠点に戻ると優雅に紅茶を飲みながら『遅かったですね』とのたまう謎でムカつく相棒だった。

 ゲームだから仕方無いとその頃の大吉は思ったものだが、それがこの世界でも発揮されるなら心配する事は無いだろう。

 ムカつくかもしれないが。


「Aの言う通りです大吉様。あやめがどういう意図であろうとロープを使わないと戻れぬならば我らの敗北は必至」

「戻されたら勝負にもならねぇしな」

「仮にロープがあったとしても罠の可能性もございます。敵の用意した通路で世界を渡るより自ら移動した方が安全確実ですぞ」

「ロープ、ダメ、絶対」

「その通りでございます。これは力を得るまで戻ってくるなというあやめの激励と考えるべきでございましょう」


 怪獣組も今はまとも。

 大吉も今は世界を渡る事だと頭を切り替える。

 あやめはエルフィンならば出来ると言っていたが大吉も同感。

 逆に言えばエルフィンに出来なければ黒の十四軍の誰にも出来ないだろう。エルフィンはデタラメ揃いの黒の十四軍の中でもずば抜けたデタラメなのだ。

 大吉はエルフィンに言った。


「エルフィン、俺を俺の世界に戻してくれ」

「わかりました。大吉様の家へ、輝き異世界転送!」


 ぺっかーっ!

 エルフィンが輝く。

 そして大吉一行、要塞世界樹バウルの大吉宅に輝き転送した。


「こ、ここはバウルではありませんか!」

「あー、もうバウルに一ヶ月以上住んでいるからなぁ」

「俺、大吉様の自宅! なんと素晴らしい事だ!」


 バウル、大吉様の自宅判定に大喜び。

 しかしバウルに渡っても意味は無い。エルフィンが叫んだ。


「ちゃんと『異世界』を付けたのに!」

「いや、掛け声だけでどうにかなったら苦労しないし」

「ええっ!」


 それで出来たら黒の十四軍の皆も出来る。

 呆れる大吉だ。


「家がダメでも他に色々あります! 大吉様のぶるるんへ、輝き異世界転送!」

「ぬぅおお! 我、大吉様のぶるるん!」

「大吉様のぶるるんの、ハンドル!」

「え? 運転手の俺大吉様のぶるるんハンドル?」

「大吉様の、えーと……カーテン!」

「しあ、わせ」

「大吉様の、えーとえーと……椅子!」

「ぬぅおお! 大吉様のぬくもりが汚される! どけエルフィン!」


 ぺっかぺっかぺっかぺっか。

 輝きと共に大吉一行が様々な場所に輝き転送するが、どれもこれもエクソダス世界の身近な存在へと転送するばかり。

 エルフィン、世界を渡るのに苦労する。


「どうして大吉様と世界の繋がりを皆でぶち壊しているのですか!」

「「「「「こっちのセリフだ!」」」」」

「くううっさすが異世界! 一筋縄ではいきません!」

「じ、じゃあ俺の家族はどうだ? 親父には会った事あるだろ?」

「そうでした! 大吉様の父上の所へ、輝き転送!」


 ぺっかーっ。

 皆が輝き転移する。


「……エルフィン、もう出戻りか? 出戻りなのか? ん?」

「これは輝きエルボーでしょうか?」

「あれぇ?」

「「「「「「「「「「「「「先走り過ぎ!」」」」」」」」」」」」」


 義父上かよ。

 エルフィン、大吉一行をグランティーナ子爵領へ連れ戻す。


「じゃあ輝き返却だ。俺を輝き返却でどうだ!」

「そうですね。大吉様を輝き返却!」


 ぺっかー。

 返却された大吉、エルフィンの隣に現れる。


「だ、大吉様が私の隣に!」

「「「「「「「「「「「「「願望ダダ漏れ!」」」」」」」」」」」」」


 輝き返却もダメなありさまに、エルフィンが膝をつく。


「大吉様がすっかりこの世界のお方に! 異世界なんてどうやって輝き転送すればいいのかさっぱりなのに手がかり全滅! これでは世界を渡れません!」

「いやいや、向こうにだって色々あるだろ」

「家、ぶるるん、カーテン、椅子、お父様! 色々試したではありませんか!」

「え、えーと……洗濯物とかは?」

「何ヶ月も放置していたらすでに別物! 『老廃物が発酵した肌着』ではありませんか! 大吉様の肌着といえども賞味期限があるのです!」

「賞味期限とかやめれ。黒島は?」

「大吉様がいない黒島なんて、ただの陸地です」

「じゃあ、じいさんの実家はどうだ?」

「実家、おじいさん宅ですか?」


 エルフィン、ちらりと両親を見る。


「実家か。ここに戻ったら輝きチョップな」

「では私は輝きダブルキックで」

「すみません。別の手がかりでお願いします」


 輝く両親にチェンジを求めるエルフィン。

 大吉は考え、次の案を出した。


「そうだ。あやめはどうだ?」

「あやめ! それならば確かにイケるかもしれません! 黒豆最高!」


 エルフィンが気合いを入れる。


「目標はあやめ。輝き、異世界、転送!」


 ぺっかーっ!

 エルフィンが輝く。

 しかし皆、輝いても転送されない。

 大吉がエルフィンに聞く。


「エルフィン、輝くが転送されないぞ?」

「目標を特定出来ないのです。さすが異世界! 輝き出力を上げます!」


 べっかーっ!

 エルフィンの輝きが増す。

 しかし皆、激しく輝いても転送されない。

 あやめもだめか……大吉がそう思った時、エルフィンが叫んだ。


「待って下さい! 何かを掴みました!」

「やったか?」

「あやめではなさそうですがあやめを求めてこのヒット! 関係ありに違いありません! これは大物、きっと大物ですぬぅおお逃がしませんこの千載一遇のチャンス! 皆さん、さあご一緒に! せーのっ!」


 エルフィンの音頭に皆が叫ぶ。


「「「「「「「「「「「「「「輝き、異世界転送!」」」」」」」」」」」」」」


 べべべべべべべべべべべべべべっかーっ!

 皆が輝き、世界を超える。


「やりました! 輝き異世界転送成功です!」

「……これで別の異世界に着くとかないよな?」

「あやめ関連ですからきっと大丈夫!」


 大吉一行が輝き現れたのは、はるか向こうまで真っ平らな舗装された道路。

 バウルでもゆったりな黒島メインストリートだ。


「ここは……黒島?」

「ですが大吉様、あんな黒いお方が黒島にいましたか?」

「いや、いないだろ……VOIDの幹部だし」


 しかしエルフィンの指さす先、黒島なのにいるはずのない者がいる。

 黒の鎧に身を包んだVOIDの幹部、黒曜の騎士O、オブシディアンだ。


「……とんでも無い時に邪魔をしてくれましたね! 空を見なさい!」


 Oの叫びに大吉一行が空を見る。

 空に青空は無く、巨大な人工建造物が浮いて……いや、落ちてきている。

 大吉は呟いた。


「……クーゲルシュライバー?」

「いえ、サイズから考えると宇宙ステーションの同型船ですね。新たなステーションを打ち上げている最中だったのでは?」


 大吉が久しぶりに見上げた世界の空が、落ちてきていた。

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