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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-2.愛とは、心を受けるもの
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幕間.それを大吉様がお望みならば

「雨か」


 深夜、要塞世界樹バウル、大吉宅。

 ザァアアアアアア……寝室へと伝わる低い音に、大吉は目覚めた。

 大吉宅は巨大な要塞世界樹バウルの中心。

 しかしバウルの配慮で外の景色や風雨、香りや音もしっかりと伝わってくる。

 おかげで大吉はこの旅で異世界の様々な事を実感出来た。

 大吉にとってゲームの世界であるエクソダス世界は、世界を渡ったオカルト達だけのものではない。

 ゲームではエキストラのような者にも生活があり、地を耕し、物を作り、協力したり反発したりしながら生きている。

 ここは大吉達の世界とは違う、独立した別の世界なのだ。


「トイレにでも、行くか」


 しばらく雨音を聞いていた大吉だが眠気は訪れそうにない。

 大吉はベッドから起き上がり、寝室から外に出た。

 秘密結社VOIDを潰す。

 大吉が皆に号令したのが昼。そして明朝には世界を渡る。

 あやめのロープはあくまで非常手段。アテには出来ない。

 世界の移動を可能にするVがいる限り、誰かがVと同じ力を獲得しなければ負けは見えている。世界から追放されたら戦線復帰が不可能では話にならないのだ。

 Vだけが驚異ならば今のエルフィンでも、勝てるだろう。

 でなければVはエルフィンの父ダグラスを切り札として用意しなかっただろう。

 エルフィンはデタラメの頂点。Vが力を使う前にこてんぱんだ。

 しかしダグラスが離脱しても、VOIDには黒曜の騎士Oがいる。

 ダグラスがデタラメと評したOと対峙している間に追放されてしまうだろう。たとえ天と地ほどの力の差があろうがスキを作るだけで戦力外なのだ。

 まったく、ズルい力だ……

 大吉がそんな事を考えながら廊下を歩いていると、広間から声がする。

 エルフィンやブリリアントら、軍団長達の声だ。

 こんな夜遅くに、何をしているんだ? 

 大吉は首をかしげ、閉じた扉へと近付き聞き耳を立てた。


「バウル、大吉様はお休みになられていますか?」

「この世界では気を張っておられたからな。よくお眠りになられている。ちょっとやそっとの事では起きないだろう」

「そうですか。念のために音の遮断をお願いします」

「……わかった」


 エルフィンとバウルの会話の後、ブォンと扉が輝く。

 輝き音の遮断だ。

 しかしバウルの仕業だろう、音が遮断されるどころか扉が透ける。

 大吉からは中がまる見えだ。


「それでは黒の十四軍、作戦会議をはじめます」


 大吉が見つめる扉の向こうで、エルフィンが皆に宣言した。


「敵は秘密結社VOID、フラットウェスト社、そして彼らに協力するオカルト達。驚異は世界を渡る能力を持つVとデタラメな力を持つOだけではありません。全世界に普及したエクソダスに住むグレムリン達は多くの人々を人質としているようなもの。グレムリンを速やかに無力化し、VOIDを潰し、世界からオカルトを一掃する……それを大吉様がお望みならば、私達は叶えるだけの事」

「そうだな。大吉様がはじめて我らに命じて下さった、我らの力を存分に振るう機会……そして、最後の機会だ」


 続くブリリアントの言葉に皆がうなだれる。

 ガトラスがぽつりと呟いた。


「まさか、俺らが大吉様の世界を食っているとはなぁ……」

「存在自体が害悪では、どうしようもありませんわ」

「俺らもオカルト。一掃されねばならぬ」

「めい、わく、せん、ばん」

「そうですな。でなければ大吉様の世界はいずれ食い尽くされてしまいます」

「切ないです」

「ショックでしゅ」「でも仕方無いです」「ですぅ」

「大吉様の世界に私達は邪魔。速やかに目標を遂行し撤退しなければ」

「せっかくあっちの酒にも詳しくなったのになぁ」『『『サケー……』』』

「もし神がいるのなら、きっと残酷なお方に違いありません」


 どれほど相手を思っても、互いに世界を食う者同士。

 今は仲良くてもやがては敵同士となる、相容れぬ相手だ。


「エルフィン、貴方は今から大吉様の所に行きなさい。そして思いを遂げなさい」


 フォルテの言葉に、エルフィンは首を振る。


「私が機会を失ったのはこんな日々が永遠に続くと思っていた私の愚かさ。輝きを自由に出来ない私が大吉様の所に行ったところで、思いは何も遂げられません」

「それでいいのですか? 大吉様はあなたを追ってここまで来たのです。戦いが始まればすぐに別れ。チャンスは今しかありません」

「……それを大吉様がお望みならば、良い夢を見たと思わなければなりません」

「ですが……」

「良い夢を見たのです!」


 エルフィンが叫ぶ。

 しばらくの静寂の後、ブリリアントが呟いた。


「そうだな。我らは良い夢を、素晴らしい夢を見たのだ」

「見たくても見られない奴らもたくさんいるのにな」

「……そうですわね。大吉様との出会いこそが最高の奇跡」

「俺も童心に返って遊びまくった。この図体で駄々をこねるのは楽しかったぞ」

「あそんだ、あそんだ」

「椅子最高!」

「最高の休暇でした」

「休みもそろそろ終わりでしゅ」「リハビリです」「カンを取り戻すですぅ」

「そうですね。私も宇宙を耕す仕事に戻らねば」

「朝から酒びたりの日々は最高だったでぇ」『『『サケーッ!』』』

「この日々を胸に、私も静かな戦いに戻ります」


 皆、それぞれに役目を持つ者達。多くの同胞を率いて戦う者達。

 いつまでも子供のように無邪気に遊んではいられない。

 皆はしばらく笑うと、戦う覚悟に気を引き締めた。


「それでは作戦会議を続けます。戦場は地球全体、そして宇宙、さらにフラットウェスト社のVOID。私はVOIDを叩きます」

「我ら黒軍は黒曜の騎士Oだ。いくらデタラメでもエルフィンほどではあるまい」

「まあ、こいつ程のデタラメがゴロゴロ居たらオカルト過ぎるわな」

「精神攻撃は惑軍の得意技。足止めはお任せください」

「樹軍はいつものように盾役と兵站だな」

「獣軍、近接、攻撃」

「屍軍は魔法で遠距離支援を」

「その他オカルトは私がやるです!」

「私達もやるでしゅ」「ぐぉんです」「ガツンですぅ」

「黒の艦隊はエクソダスとその他オカルトを」

「わてはエクソダスやな。グレムリンは専門やで」『『『マカセローッ!』』』

「それでは諜報軍は皆のサポートを務めさせていただきます」


 担当が決まり、作戦が組み立てられていく。

 頼むぞ、みんな。

 大吉は扉から離れ、そして言った。


「バウル……見せてくれてありがとうな。だからもう泣くな」


 大吉への返事だろう、雨音が強くなる。

 大吉はベッドに戻り、皆に感謝して目を閉じた。

 そして思う。



 ひとりくらいは、いいよな……?

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