7.大吉、決断する
「秘密結社VOIDの事、ですか?」
「はい」
聞き返すダグラスに大吉は頷いた。
「私が幹部Dである事は、Iから聞いたのですか?」
「いや、聞いてない。でも子爵はV代表に世界を渡る事を頼んでいただろ? だいたいの事はあやめさんから聞いたけど、子爵にも聞いておこうと思って」
「そうですか。ですが私は娘より後に世界を渡ったIよりずっと新参者。たいした情報はお教え出来ないと思います。幹部扱いも娘に対する切り札としてですから」
「切り札?」
「はい。Iに言われて貴方の娘を世界に呼んだらデタラメやばい。あれに世界をぶっ壊されたら私の事業が水の泡なので困った時は頼む、と」
「ええっ!」
「なんだそりゃ……どっちもどっちかよ」
ダグラスの言葉にエルフィンが叫び、大吉が呆れた声を出す。
あやめはVOIDに対抗する為にエルフィンを推し、VOIDはエルフィンに対抗する為にダグラスを呼んだ。
いたちごっこだなと思う大吉だ。
「それでしばらくVOIDのD、ダディとして娘の様子を見ていたのですがいつまでもクロノ様とつかず離れずの関係でやきもきしていたのです」
「父上、見ていたのですか!」
「Iに頼んでな。まったく、何度お前のデタラメに落胆した事か……」
「ええっ!」
ダグラス、結構見ていたらしい。
黒の十四軍、誰も気付かず。さすが輝きスルー。
「そんな折、Vから大々的にオカルト事業を拡大するから忙しくなる。娘を連れ戻すなら今のうちだと言われ、荒療治だと娘を連れ戻したのでございます。いやぁ、うまく行って良かった」
「さすが父上! そしてさすが大吉様!」
ダグラス、大吉の知らない所でいろいろ見ていたらしい。
エルフィンは正座喝采だ。
「オカルト事業の拡大? 俺達がこっちに来る前に米国が宇宙ステーションを打ち上げていたけど、あれ以上の事をするのか?」
「はい。軌道エレベータ計画、月面基地計画、惑星有人探査計画、火星と金星のテラフォーミング計画、太陽系外探査などなど、様々な計画が進行中です」
「うわぁ……火星とか金星とか、領有権どうなるんだよ」
「さぁ? それは私達の世界が考える事ではございませんから」
出来ると分かればやったもん勝ち。最初に名前書けば俺のもん。
南極みたいな扱いになればいいなぁ……と、そんな事を思う大吉だ。
「VOIDは代表の名であると同時に幹部の頭文字でもあります。世界を渡る能力を持つ代表V、ボイド。デタラメな力を持つ黒曜の騎士O、オブシディアン。情報収集、情報操作、隠蔽の能力を持つI、アイリス。そして娘のはっちゃけ切り札たる私D、ダディ。今は私と……おそらくIも抜けているでしょうからVOIDも実質VO、ボですな」
「VOか」
「ボか」
「秘密結社、ボ!」
「ボか、ボか」
「ボですか……なんか一気に格好悪い名になりましたなぁ」
「いや、今そこどうでもいいから」
騒ぎ出す怪獣組に同感だと思いつつ大吉はツッコミを入れ、ダグラスに聞く。
「で、その事業の採算などは聞いているか?」
「何も聞いておりません。経理はV代表がすべて行っておりましたので。私がV代表から聞いていたのはエクソダスの成功を足がかりにさらなるオカルト事業の拡大を目指す事くらい……そういえば、そろそろエクソダスで健康事業に参入するとも言っていましたな。メタボをダイエットだとか」
「……子爵、親心を利用されたな。いや、子爵にとっては別の世界の話か」
「は?」
このタイミングでエルフィンを連れ戻させたのは、それが理由か。
納得する大吉だ。
ボ、じゃなかったVOIDは派手に拡大するつもりなのだろう。
そのため黒の十四軍が、エルフィンが業務拡大の障害と認識されたのだ。
正しくは世界の人間である大吉が邪魔をすると見なされた。
黒の十四軍は大吉が望めば何でもする大吉の私軍。邪魔をしても黒曜の騎士Oで対応出来るように弱体化させる必要があったのだ。
「子爵、エクソダスが何で動いているか、知ってるか?」
「……いえ」
「おそらく使用者の汗や排泄物、老廃物だ。使用者を食って力に変え、この世界に送っているんだよ。それがお前らがデタラメな理由。力の源なんだ」
そりゃ寝起きもスッキリな訳である。
不要なものを全てオカルトで食っているからだ。
そして物質のエネルギーは半端無い。一グラムの物質のエネルギーでも原爆並、マグニチュード6の地震以上のエネルギーを持つのだ。
「俺がこの世界に穴ボコ作って力を使っているように、お前らも俺らの世界を食って力に変えているんだよ」
「つ、つまり私達黒の十四軍の力の源は大吉様の……」
「エルフィン……そしておまえら露骨に嬉しそうな顔すんな。気持ち悪い」
「「「「「「「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」」」」」」」
俺にそんな趣味はありません。
正座歓喜なエルフィンと皆に大吉はツッコミを入れる。
エルフィンが大吉に聞いた。
「ですが大吉様、不要物ならば別に悪い事ではないのでは?」
「そうだな……使っている当人にとっては良い事だろうな」
寝汗、排泄物、老廃物、その他不要物。
それらを採集して異世界に送り込み、夢に出ている者の力に変える。
しかし、本来それらは異世界に渡るものではない。世界で循環する物質だ。
よその世界に渡してしまったら循環しない。減っていく一方なのだ。
個人では大した量ではない。
しかし集団ならば話は別。
エクソダスの利用者は少なくとも数億人。一人一日数百グラムの不要物を食われていれば千人で数百キロ、百万人で数百トン、一億人で数万トンだ。毎日これ以上の物質がこっそり奪われ、身の回りから消えていく。
これに不要な脂肪が加われば失われる物質はさらに増える。
太っている者も、太りたくないから食べないという者も多い。そういった者はこぞってエクソダスを使うだろう。
そしてVOIDが事業を拡大するたびに世界はより大量に食われていくだろう。
人々はそれを知るまで、取り返しが付かなくなるまで止まらない。
VOIDが示すのは人々の幸福であり、理想の世界だから。
もたらす全てが人々の夢であり、欲望だから。
大吉はしばし考え、決断する。
「エルフィン、そして皆」
「はい」
黒の十四軍の皆が大吉を見つめる。
大吉は号令した。
「VOIDを、潰す」
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