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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-2.愛とは、心を受けるもの
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5.大吉、輝きの中で理解する

「井出大吉、あの山を越えればグランティーナ子爵領だ」

「……です。すみません。なんにも知らなくてすみません」


 要塞世界樹バウル、大吉宅。

 グリード王子が偉そうに、リリィが恐縮して指さす峠を大吉は見上げた。


「相変わらず眩しいな……エルフィンが」


 山の向こう、エルフィンの輝き半端無い。

 大吉が近付くほどに輝きを増すグランティーナ子爵領は今や昼も夜も超眩しい。

 超、つまりウルトラ。まさに光の国だ。


「本当にすごく眩しい事になっております。俺の光合成も半端ありません」

「そうだねにーちゃん」

「まったくもって超、眩しい」


 峠よりも高い場所から領内を見下ろすバウル、パウロ、そしてクーゲルシュライバーの報告に領民は大丈夫なのかと首を傾げる大吉だが、この眩しさは悪い事ばかりではない。

 バウルの足下を通る旅人が口々に『輝きで疲れが取れた』だの『輝きで寝なくても平気だ』とか言いながら元気に歩いている。


『まるで疲労がポンと飛んでいくようです! 略してヒロポ……』

「やめい」


 旅人の一人が口走る物騒なセリフに思わずツッコむ大吉だ。


『これも大吉様のおかげです』

「それもやめい」


 空に描かれる大吉様、輝き、疲れが取れた、大吉様、輝き、疲れが以下略。

 謎のポジティブループに組み込まれる事で旅人や住民に拝まれる大吉だ。

 今やエイブラム王国一、いや惑星一番の有名人なのではないだろうか。

 あの光の黒騎士エルフィン・グランティーナが空に名を描きまくるほどの井出大吉、さぞすさまじい奴なのだろう。と、デタラメスーパーマンと化していた。


「井出大吉よ。私と違って大人気だなうらやましい」

「俺は何もしてないから。そしてグリード王子は自業自得だから」

「ぐっ……」


 グリード王子の羨望の眼差しに大吉はツッコミを入れ、今日の鍛錬中に拾ってきた石を軽く握った。

 ボロリ……大吉が込めたわずかな力で、簡単に石は砕け散る。

 相変わらず、もろい。


「もろいでしゅ」「ぼろりです」「ぺしゃんこですぅ」

「物質の消滅を確認。大吉様の世界よりもろいとは言えこれは異常」

「大吉様が砕いたモンがどこに行ってるのか、まだまださっぱりやなぁ」『『『ワカンネーッ』』』


 アイリーン、マリー、メアリの幼女組もセカンド、ミリアら宇宙組も首を傾げる謎現象。


「諜報軍にもわかりませんな」

「そりゃ、諜報だからなぁ」


 知っている者から情報を仕入れる。それが諜報。

 だから知っている者がいなければわからない。物質に寄生するグレムリンがお手上げなのだから知る術は無いだろう。


「大吉様の素晴らしさに世界が身を捧げているのでございます」

「世界すら身を捧げる。さすが大吉様だぜ」

「全くでございます」「そうだねにーちゃん」

「大吉、様、さすが」

「私どもと同じく世界も大吉様を崇拝しているのですな。納得でございます」

「さすが大吉様です!」

「いや、直感派のお前らに理屈は求めてないから」

「「「「「「「ひどい!」」」」」」」


 もちろん怪獣組とエリザベスにもわからない。

 まあ、世界がもろくても大吉は困らない。

 どうせエルフィンと会えば元の世界に戻るのだ。あまり考えても仕方ない。

 エルフィンは……まあ、付いてくるだろうな。

 ここまで歓喜されたんだ。聞くまでもないだろう。

 そんな事を大吉が思う中、バウルが峠をしゅぱたんと越える。

 脅威はいきなりやってきた。


『大、吉、様!』

「ぬあっ!」


 べかーっ! 

 エルフィン、歓喜の大吉様水平射撃。

 峠を越えたとたんにこれかと、迫る大吉様の文字に戦慄する大吉だ。


「やめんかこのバカ者が!」


 ブリリアントがブレスを吐き、迫る大吉様を破壊する。

 輝きの中で粉々に砕ける大吉様を前に、ブリリアントは号令した。


「黒の十四軍、全軍輝きエルフィン防御!」

「奴の大吉様に吹き飛ばされるぞ! 気を抜くなよてめぇら!」

「まったく、どれだけダメ無限力なのですか」

「どれだけデタラメなのだ。あいつめ」「まったくだねにーちゃん」

「めい、わく、せん、ばん」

「ホホホ、しかし大吉様に殴られるのです。こてんぱんも幸福かもしれません」

「さすがデタラメ一号です!」

「喜びすぎでしゅ」「めんどいです」「壊すですぅ」

「舞い上がり過ぎです」『私の舞い上がりの静かな事(*゜∀゜)アヒャヒャ 』

「ほんま、困ったもんやなぁ」『『『メンドイーッ!』』』』

「わ、私は一般オカルトですから、皆様お願いします!」


 大吉様! ずごん! 大吉様! ばごん! 大吉様! ぐぉん!

 乱舞する大吉様を迎撃する黒の十四軍。

 破片が岩を砕き、地を削り、木々や草花に活を入れる。

 輝きに満ちた子爵領に大吉歓迎の花が咲き乱れた。


「キリがないな。これは」


 あまりの大吉様に大吉は呆れ、フワリとバウルの外へ飛ぶ。


「ちょっと、止めに行ってくる」

「井出大吉! 前に出たら大吉様で死ぬぞ!」


 グリード王子が叫ぶ先、大吉直撃コースの大吉様が砕け散る。


「へっ!?」

「「「「「「「「「「「「「まあ、エルフィンだし」」」」」」」」」」」」」

「エルフィンは大吉様に対してはいつもこんな感じです。超ひいきです」

「……!」


 黒の十四軍もリリィも慣れたもの。

 グリード王子は驚愕し、ヘナヘナとその場に崩れ落ちる。


「ハ、ハハハ……無理だ。超ひいきでもあんな輝きの中に入れる訳がない。やっぱりトンズラが正解だったんだ」

「それは、違いますわ」


 光に埋まる大吉を見送りフォルテが言う。


「王子にも機会はありましたが、会わずに逃げてその機会を失ったのでございます。覚悟を決めて会えば信頼が生まれたかもしれません。その信頼が好意となったかもしれません。好意を育てれば愛に変わったかもしれません。エルフィンは覚悟を決めていたのに王子は逃げた。それだけの事でございます」

「厳しいな」

「エルフィンが光の黒騎士だからでもデタラメ一号だからでもありません。デタラメでも光の黒騎士でもダメ無限力でも一人の女性。覚悟の無い王子がトンズラした事を覚悟を決めた女性のせいにするなど言語道断。そんな方がいずれはトンズラ王なんて、わたくし心から王国民に同情いたしますわ」

「厳しいなぁ!」

「愛は何よりも尊い。それがサキュバスの生き様ですから」


 王子、リリィ、そして大吉様を砕く皆が見つめる輝きの中、大吉は飛ぶ。

 大吉様が勝手に砕け、大吉に道を譲る。

 さすがエルフィン、リリィの言う通りブリリアントやバウルに大吉様をぶちかましても大吉には絶対当てない。超ひいきである。

 大吉様が飛び交い花が咲き誇る輝く世界を大吉はエルフィンを求めて飛び、やがて笑顔で駆けてくるエルフィンを見つけた。


「大吉様ーっ!」

「エルフィン! だからその輝きを何とかしろ!」

「ああもうこの子ったら、なんてデタラメなんでしょう!」

「……うわぁ」


 両親が大吉様に邪魔されながら娘を止める様にため息が出る大吉だ。

 さすが親よりずっと強い超デタラメハイパワー。親の輝きチョップと輝きエルボーを受けまくってもノーダメージだ。


「クロノ様! お逃げ下さ……『大吉様ー!』ぬおっ!『大吉様ー!』」

「早くお逃げ……『大吉様ー!』あああっ!『大吉様ー!』」


 両親、エルフィンの大吉様サンドイッチで行動不能に追い込まれる。

 ジャマが無くなったエルフィン、大吉に猛ダッシュ。

 瞬く間に距離を詰め、両手を広げて飛んでくる。


「……そういえば初めて抱きつかれた時は、避けたなぁ」


 と、飛んでくるエルフィンに昔の事を思い出す大吉だ。

 元の世界では無理だった。

 しかしこの世界ならば受け止められるだろう。

 大吉は両手を広げ、全身に力を込める。

 クロノは受け止められたのだ。今の俺なら……できる!


「大吉様ーっ!」

「ぐおっ……!」


 重い、超重い。

 ズシンと腹に響く衝撃にうめく大吉。

 しかしその重さはエルフィンの体重ではない。輝き歓喜のエネルギーだ。

 大吉は鍛錬した力でエルフィンの輝きを止め、勢いを止め、全身でしっかりとエルフィンの身体を受け止めた。

 大吉とエルフィン、二人は静かに空を舞う。


「エルフィン、迎えに来たぞ」

「はい!」


 しかし……大吉とエルフィンの足元には、抱き止めるまでは無かった巨大な穴。

 大吉は消えた物質がどうなったかを理解し、心で呟く。

 直感はバカに出来ないな。E=Mc^2か。

 俺が世界を食って、力に変えているのか……と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物質をエネルギーに変えているのか… そりゃ爆大なエネルギーになるわけだ
[良い点] そこでいきなり熱いべーぜを しないところがまた [一言] 真の黒幕がどこぞにいそうですな
[一言] ハローワールド的には普通に他世界侵攻してるよな。 カウンター来ないのは同じ管理者でマッチポンプあたりかね。
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