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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-2.愛とは、心を受けるもの
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3.東方の呆れる眩しさに、大吉は鍛える事にする

「国王直々の通行証だ。領内を通らせてもらうぞ」

「お、王都からの通達は伺っております。お通り下さい」


 エイブラム王国、貴族領境の関所。

 王家の証と共にルオ国王直々の通行証を示したグリード王子は関所の長に通過を認めさせると、バウルの枝葉に飛び乗った。


「関所の門は開かずとも良い。跨ぐからな」

「は、はひっ!」


 王子の後ろにそびえるのは要塞世界樹バウル、パウロ。

 さらに上空にはクーゲルシュライバー。

 何ともすさまじいメンツである。

 しゅぱたん、しゅぱたん。

 グリード王子を回収したバウルが、そしてパウロが関所を跨いで超えていく。

 一番の通行証、グリード王子。

 大吉一行だけではここまでスムーズには行かなかっただろう。国王直々の通行証があっても所詮は怪物集団。通達は聞いているが通行証が本物かどうか審査するだの補償だのと色々面倒だったに違いない。

 しかしグリード王子なら楽々クリア。

 なにしろグリード王子、トンズラ王子として王国王子の中でも超有名。

 人族のみならず怪物にも轟く恥辱の二つ名は伊達ではない。

 顔パス、王家の証、そしてトンズラ。

 おかげで通行の為の交渉もスムーズ。黒の十四軍も色々と楽ちんだ。


「大吉様、通行がとても楽になりましたわ」

「グリード王子は面倒臭いだけだと思っていたが、やっぱ王子なんだなぁ」

「ひどい!」


 大吉、ひどい感心の仕方である。

 グリード王子は大吉の言葉に叫ぶと、気を取り直して前を見た。


「あと五つほど関所を通過すればグランティーナ子爵領だ。この速度なら十日程度といったところだな」

「え? 王子は王国に詳しいの?」


 大吉が素っ頓狂な声を上げるとグリード王子、お前は何を言っているんだという顔をする。


「当然だろう。エイブラム王国は怪物の支配地と接しているのだ。いざとなれば軍を率いて戦わねばならない王族が国を知らんなど、地の利を捨てる事に他ならないではないか」

「……」

「すみません。地の利に疎くてすみません」


 そしてひたすら謝る光の白騎士リリィ。

 まあ、このあたりは立場の違いだろう。

 全軍を指揮する王族と部隊を率いる程度のリリィでは知るべき情報が違う。

 グリード王子は続けた。


「それに平時でも知らんと貴族間の不仲も理解できん。金、領地、水、人、物流といった不仲の原因を地の利を知らずに理解できるものか」

「すみません! 旬の魚とか世間話にばかり詳しくてすみません!」

「王子が、まともだ!」

「ひどい!」

「こんなまともなのになぜトンズラした!?」

「ひどい!!」

「すまんすまん」


 大吉の中でグリード王子の株、急上昇。

 叫ぶグリード王子に大吉は謝罪し、前を見る。

 街道はなだらかな丘を縫うように続き、集落を通り、町を通り、やがて山へと続いている。

 その山をいくつか越えた先に、大吉が目指すグランティーナ子爵領がある。

 大吉は呟いた。


「もうすぐ、会えるんだな……」


 仲が良い友人関係とは、訳が違う。

 グリードが先日言った言葉の答えはまだ出ていない。

 エルフィンは明確な好意を示しているのに大吉の心はあやふやだ。

 ここまで追いかけてきたというのになぁ……

 と、大吉が考えていると顔に出ていたのだろう、フォルテが言った。


「大吉様、心が動くままにされるのが一番ですわ」

「……そうか?」

「理屈は後からついてくるものでございます」

「じゃ、今は会いたいから会うでいいんだな」

「はい。その時になれば心は定まる。そういうものですわ」


 べっかーっ!


 そんな会話をしていると大吉達が目指す東方、山の向こうが激しく輝いた。

 大吉、久々に目がくらむ。


「……エルフィンだな」

「ですな」「相変わらず眩しい奴だぜ」「まったくですわ」「さしずめ輝き歓喜でしょうか」「眩しいよにーちゃん」「まぶ、しい」「眩し過ぎます!」「さすがデタラメ一号です!」「ぺっかーでしゅ」「まぶしーです」「目がくらむですぅ」「クーゲルシュライバーで光源を特定。エルフィンですね」「地獄耳やなぁ」『『『サケーッ!』』』「さすがでございます」

「待て! ここからグランティーナ子爵領まで十日ほどの距離があるんだぞ! 光の黒騎士はそんな距離の言葉を聞き取れるのか?」

「「「「「「「「「「「「「大吉様だし」」」」」」」」」」」」」


 黒の十四軍の答えにグリード王子、唖然。

 会話の中で特定の者の言葉だけが明瞭だったり自分の名だけは聞こえたりする奴の超絶オカルト版。

 大吉含めて黒の十四軍はこの程度にしか考えていない。

 デタラメ慣れであった。


「大吉様、少し語りかけてみてはいかがですか?」

「そうだな……エルフィン、元気か?」


『元気、です!』


 べっかべっかべべっかーっ!

 フォルテの言うままに大吉が語りかければ大空に文字が描かれ、やがて砕けて落ちていく。

 これが世界の違いか。これが『壁の花にもなれない女!』か。

 あの下に住む者達は今、阿鼻叫喚だろう。

 これまでエルフィンが見せたデタラメの中でも桁違いなデタラメっぷりにめまいを禁じ得ない大吉だ。


「……セカンド」

「クーゲルシュライバーで完全消滅させます」

「なんと迷惑な」「だよな」「以下略ですわ」


 ぺぺぺっかぺっかぺぺぺぺっかー。

 クーゲルシュライバーが『元気、です!』を消滅させていく中、大吉は決意した。


 とりあえず、鍛えよう。

 クロノのカンを取り戻さねば、俺が危ない。


 と。

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