1.大吉、王子の決闘を受ける……?
グリード・エイブラム王子。
いずれは国王になるだろうと言われる王国の第一王子である。
王国軍本陣で、大吉はグリード王子からの挑戦を受けていた。
「英雄クロノや黒軍王ネーロの恐ろしさ、お前はなぜわからんのだ!」
「グリード王子はなぜか夢の印象が薄いのでございます」
「……あー、効率が悪かったからな」
「「効率?」」
「いや、こっちの話」
首を傾げるルオ国王とレギム宰相に大吉は言葉を濁す。
グリード王子絡みのイベントは『エルフィンメイカー』でも『ストラテジ』でも『フロンティア』でも時間がかかる割に成果がいまいちだったので避けてました……なんて事を国王や宰相に言っても仕方の無い事だ。
しかしゲームの中でも面倒臭い奴だったが、本物はそれ以上だなぁ……こんな事になるなら、もっとゲームでこてんぱんにしておくんだった。
と、大吉はグリード王子を見つめてため息をつく。
「井出大吉、勝負!」
「お前が英雄クロノに勝てる訳がない!」
「頭髪を引っこ抜かれますぞ! お年を召したら後悔しますぞ!」
国王と宰相、グリード王子にひどい言いよう。
「勝てると思うか?」「いやー、俺は英雄クロノが勝つと思う」「グリード王子、トンズラだしな」「トンズラだもんなぁ」「これグランティーナ子爵、仕組んだだろ」「やっぱりお前もそう思うか!」「再縁談とか、ないわーと俺も思ったもん」「間接こてんぱんか」「だな」……
そして周囲の国王軍もひどい言いよう。
圧倒的不利な戦から逃げたとかなら仕方無いかもしれないが逃げたのは縁談。
それも王国の未来を左右する光の黒騎士との縁談をトンズラ。
王族として逃げてはいけない縁談だったのに逃げたからトンズラ王子とバカにされているのだ。
そんな彼らの中ではグランティーナ子爵の陰謀説、すでに確定。
再縁談なんて子爵がよく受けてくれたもんだと、思っていたからだ。
人気ないなぁ、グリード王子……
さんざんな評価に大吉が呆れる中、グリード王子は用意した馬に颯爽と飛び乗りどえらく長いランスを構えた。
「さあ馬に乗れ! お互い一人の騎士として戦おうではないか!」
「いや俺は騎士じゃないし、馬なんて……」
「「「「「ひひーん!」」」」」
持ってないよ、と言おうとした大吉の言葉を馬のいななきのセリフが止める。
大吉呆れ、グリード仰天。
いつもの怪獣組のアレだ。
「大吉様、今まで隠しておりましたが実は私、金剛馬なのでございます」
「巨人のように見えるけど実は巨馬なんだぜ」
「実は要塞世界馬! 枝葉あるけど馬でございます! ひひーんっ!」
「じつは、うま」
「屍馬でございます! 座り慣れた私にお乗りください大吉様!」
ひひーん、ひひーん……
怪獣組、相変わらずのバカアピール。
大吉がグリード王子に聞いてみる。
「……いいか?」
「ダメに決まっているだろ!」
グリード王子、ランスを捨てて馬から飛び降りる。
まあどんな名馬であろうが黒軍の軍団長が相手では近付く前にこてんぱん。馬で勝負が決まってしまうのだから当然だ。
「これでいいだろう、さあ正々堂々と勝負しようではないか!」
地に立ったグリード王子は剣を抜く。
「何が正々堂々だ。お前が身につけているそれは王家の聖武具ではないか!」
「装備すれば王家の誰もが強者となれる導きの聖鎧ですな! 鎧が勝手に動いて装備した者を守り、ダメ出しまでしてくれる優れものと聞いております!」
国王に宰相、どっちの味方かわからない。
だんだんグリード王子が不憫になってきた大吉だ。
「それならグランでもいいでしゅ」「アクアもです」「ウィンザーもですぅ」
そして今度はアイリーン、マリー、エミリの三幼女がロボアピール。
ぐぉん! とロボが動き出す。
自動判断で装着者を守る鎧がアリなら、ロボだってありだろう。
ちょっとサイズが違うだけだ。うん。
と、大吉はグリード王子に聞いてみる。
「……いいか?」
「ダ、ダメに決まってるだろ! 解除!」
聖鎧がグリード王子の言葉で外れ、傍らにコンパクトにまとまる。
言葉ひとつで持ち運び形態に変わるのはさすが導きの聖鎧。
いたれりつくせりだ。
「さあ、勝負!」
グリード王子が大吉に剣を構える。
「しかし鎧を捨ててもまだ剣が! 王家の聖剣が残っている!」
「聖鎧との連携がなくなっても聖剣は侮れません! あれもまた持つ者を導き救う聖なる剣。自動攻撃にダメ出し以下略!」
国王に宰相、ちょっとは王子に肩入れしてやれ。
と、思いっきり不憫に思う大吉だが王子よりも王国の方が大事なのは当たり前。
今が王国存亡の危機だという事を分かっていないのは王子だけなのだ。
「なるほど。それならばクーゲルシュライバーでも良いでしょう」
「……いいのか?」
セカンドが散歩に使うリードを大吉が握ると、上空のクーゲルシュライバーがぐぉんぐぉんと旋回する。
国王も宰相も王国軍も阿鼻叫喚だ。
「さあ大吉様、このリードを使い鉄球ハンマーの如くお使い下さい。いつもの散歩のように!」『首輪プレイ・カモーン(;´Д`)ハァハァ』
クーゲルシュライバーの黒い球体に歓迎の文字がおどる。
鉄球どころではない。小惑星ハンマーだ。
サイズが桁違いだけど何かしらの能力が付与されている武器がアリなら、これもありかな……?
大吉はグリード王子に聞いてみる。
「……いいか?」
「ダ、ダ、ダメに決まってる!」
ただの取っ組み合いになったな……
馬を捨て、鎧を脱ぎ、剣を捨てて普段着となりファイティングポーズを取るグリード王子にしみじみ思う大吉だ。
一人の女性を巡って夢の英雄と王子が争う。痴話喧嘩の頂上決戦であった。
大吉は王子に言う。
「グリード王子、少し肩慣らしさせてくれないか?」
「黒軍頼みか! 自分では何もできんのかお前は!」
「いやぁ、こっちの世界はまだ日が浅いんでな……手加減できないと悪いし」
大吉、王子の罵倒をスルーして軽く拳を輝かせて振ってみる。
ぼごん! 触れてもいないのに近くの樹木が木っ端微塵。
大吉が歓声を上げる。
「おお! 攻撃もゲームと同じ感覚か!」
「「「「「「「「「「「「「大吉様、すごい!」」」」」」」」」」」」」
「はぁ!?」
黒の十四軍の皆、大喝采。
そしてグリード王子、驚愕。
「このバカ者め! 英雄クロノは光の黒騎士の夢師匠だぞ! 黒軍だろうが何だろうがその身ひとつでぶちのめす人の形をしたバケモノなのだ! 弟子でしかない光の黒騎士の縁談すらもトンズラしたお前が夢師匠に勝てる訳がなかろう!」
「英雄クロノがやって来ると知っていたら私も再縁談の為に奔走などしませんでした! 実在すると知っていたら縁談も持ちかけませんでした!」
国王と宰相が騒ぐ中、大吉は拳を軽く輝かせてグリード王子に笑う。
「……いいな?」
「ダ……」
「いや、一応俺の能力だから」
べぇちこぉぉぉぉぉんっ!
ダメという言葉を遮り放った大吉の輝きパンチが、グリード王子に炸裂する。
一撃輝きこてんぱんであった。
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