幕間.グランティーナ子爵家はとても眩しい
「大吉様がもうすぐいらっしゃいます!」
ぺっかー!
エイブラム王国東部、グランティーナ子爵領。
大吉が国王と会っている頃、子爵家領館ではエルフィンが輝いていた。
「輝くなバカ者!」
「あいたっ!」
ぺっかー、べちん!
たちまちエルフィンの父、ダグラス・グランティーナ子爵がチョップを入れる。
輝きで相手を叩く、手を使う必要の無い輝きチョップだ。
「そんな事だからクロノ様の父上に『眩しい』『眩しい』としか言われなかったのだお前は! 少しは我慢せんか!」
「輝き我慢ですね!」
「だから、輝くな!」
ぺっかー、べちん!
再びダグラスの輝きチョップが炸裂する。
エルフィンが頭をおさえた。
「あいたっ! ち、父上だってよく輝いているではありませんか!」
「私はいいのだ! 母さんは納得しているからな!」
「それなら大吉様だって慣れてくださいました!」
「慣れてくださっただけで納得はしていないだろ! ほれ、納得していますと言ってみろ。この父に向かって胸を張って宣言してみせろ、ほれ、ほれっ」
「納得……納得……断言できません!」
「それ見たことか! クロノ様が我慢してくださっているのだ愚か者が!」
「くううっ!」
エルフィンががくりと膝をつく。
ちなみにエルフィン、大吉がこの世界に渡った瞬間から気付いていた。
グランティーナ子爵領はエイブラム王国の東。
大吉一行が現れた怪物との境界近くはエイブラム王国の西の端。すごく遠い。
が、そこはさすがのデタラメ一号。国の端っこくらいではエルフィンの輝き直感を邪魔する事など出来ないのだ……眩しいけれど。
「お前はクロノ様の実家に行く度に『眩しい』『眩しい』と言われ続けるのか? クロノ様も両親から言われ続けるだろうし両親も親戚から言われ続けるだろう。お前は親戚一同から『クロノ様の嫁は眩しいな』と言われ続けたいのか!」
「『眩しい人』は誉め言葉ではありませんか!」
「それは本当に輝かなければの話だ!」
眩しい人、本当に眩しかったらダメな人。
なんでもかんでも出来るのに『眩しい』としか言われない娘にダグラスのため息半端無い。
例えるなら太陽のようなもの。全てが眩しさで塗り潰されてしまい、本質をまるで見てもらえないのだ。
「そうだ! 輝きと同時に逆波長輝きで相殺すればマブシクナーイ!」
「失敗したら二倍眩しいだろうが!」
「あいたっ!」
ぺっかー、べちん!
そしてエルフィン、デタラメをデタラメで封じようとするフシがある。
だがこれは嘘をより大きな嘘で誤魔化すようなものであり、いつかは破綻する。
破綻した時の眩しさ、どれほどのものだろうか……娘より長い人生を生きてきたダグラスは娘の輝き破綻を心配しているのだ。
「まったくエルフィンは、いつもいつも眩しい子ねぇ」
「母上!」
そして心配しているのは母も同じ。
二人の前に現れたのは散歩帰りのエルフィンの母、ローザ・グランティーナ子爵夫人だ。
「今日も黒い月が元気に跳ねておりましたわ。あれ、エルフィンの仲間なのでしょう? 王都はすごく遠いのにここから見えるなんて大きいわねぇ」
ちなみに地球だと高さ六百キロの物体は三千キロくらい遠くから見えるらしい。
クーゲルシュライバー、さすがの巨体だ。
そしてクーゲルシュライバー、暇なのかボールのように良く跳ねる。
もはや王国のみならず大陸のどこからも見える脅威と化していた。
「母上、父上の厳しい輝きチョップを止めてください!」
「では母の輝きキックはどうでしょう? 輝きエルボーでもいいですよ?」
「……輝き、チョップで!」
そして母ローザ、父ダグラス以上に遠慮無し。
「輝き結構、眩しい結構。ですが貴方の内に秘められた真の輝きを潰すようではいけません。クロノ様が貴方を追ってこの世界に渡ったのですから、貴方もクロノ様に受け入れらるように努力なさい」
「つまり輝き努力!」
「違います」
「あいたっ!」
ぺっかー、ずごん!
母の輝きキックが炸裂する。
なおローザの輝きキックは足と輝きで相手を蹴るダブルキック。超痛い。
さすがは親子、母も娘も武闘派だ。
蹴りを受けて派手にエルフィンが転がる。
母が叫んだ。
「私とお父様のキックとチョップは愛のムチ! さあエルフィン、見事乗り越えてみせなさい!」
「はい!」
ぺっか!
そんな特訓の最中、エルフィンが輝いた。
輝き直感だ。
「私の為に大吉様が決闘するようです!」
「何?」「何ですって!」
両親、エルフィンの叫びにソファーに陣取る。
「それは見過ごせん! エルフィン、そこの壁に輝き画像だ!」
「お茶とお菓子を用意させましょう。エルフィン早く、ほら早く輝いて!」
「父上それに母上、輝くなと言ったり輝けと言ったり酷いです!」
「わかっていませんね、エルフィン」
「無意味に輝くなと言っているのだ!」
「あいたっ!」
ぺっかー、ぺっかー、べちん! ずごん!
両親の輝きチョップと輝きキックが炸裂する中、エルフィンが輝き画像で王都の様子を映し出す。
『黒軍王ネーロ、いやクロノ、いや井出大吉! 貴様に決闘を申し込む!』
部屋はあっという間に輝き劇場。
「大吉様! エルフィンは勝利を確信しております!」
「やっちまえクロノ様!」
「そんな輝きに目がくらんだ愚か者、こてんぱんにしてくださいませ!」
レッツ観戦!
エルフィン一家、大吉応援。
そしてお茶とお菓子を持ってきた使用人も観戦だ。
「こんなトンズラ野郎、お嬢様には似合わん!」
「都合良く利用したいだけの愚か者からお嬢様を守って!」
「クロノ様! お嬢様の為にガツンと、ガツンと一発お願いします!」
子爵家の使用人も大吉応援。
王子、子爵家では完全に嫌われ者。
再縁談したのに立つ瀬無しであった。
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