7.大吉、号令する
「大吉様、あれが、王都ラドニアスです」
「そうか」
エクソダス世界、朝。
リリィの言葉にビルヒム椅子に座る大吉が頷いた。
通行許可を得る為に堤防を修繕し、街道を修繕し、池を修繕し、さがし物をしまくって……思い返すも面倒な道中も一段落。
大吉一行は今、エイブラム王都ラドニアスを前に人族連合軍と対峙している。
そして背後には様々な旗を掲げた軍がいる。
遠回りだからと大吉一行が寄らなかった貴族達の軍である。
スルーされたのでメンツが立たないのだろう。兵を集めて大吉一行を追ってきたのだ……たぶん。
「大吉様、背後の者達が我が領の堤防もお願いしますと言ってます」
「いやいや、それはお前らの仕事なんだから自分でやれよ」
やっぱり安請け合いしちゃダメなんだなぁ……と、しみじみ思う大吉だ。
出来るからと言って何でもかんでもやってしまうと後輩が自立しない。
そして出来る者が抜けると会社が傾く。中小企業あるあるだ。
声を拾ったバウルの報告に大吉が呆れ、リリィが大吉に頭を下げる。
「許認可権を笠に着る貴族が図々しくてすみません。あれダメモトでやってますから気にしないで頂いて結構です」
「手続きとは関係無いが、ふっかけて援助が得られればラッキーみたいな感じか」
「そんな感じです。すみません。本当にすみません」
既得権益があると図々しくなるもんだと思う大吉だが会社や組合もそんなもん。
権利や待遇改善は言わなければ始まらない。それが妥当か不当かで受け入れられるか突っぱねられるかが決まるものだ。
貴族のリリィがダメモトと言ったのだから、これは不当の方だろう。
と、大吉が無視すれば後ろから軍を率いて付いてきて大吉一行を挟撃する格好になっている。
大吉一行、布陣だけを見れば四面楚歌状態だ。布陣だけを見れば。
「大吉様、ここはクーゲルシュライバーをゴロンで一撃こてんぱんです」
「やめれ」
しかし大吉一行の上空には直径六百キロのクーゲルシュライバーが浮いている。
すでに王都も傘の下。クーゲルシュライバーを着陸させれば終わりだ。
地上に配置された軍がどれだけいようが関係無い。
そしてリリィのような一般オカルトがどれだけいても関係無い。
黒の十四軍の軍団長達に対抗できるデタラメオカルトがいなければ勝負にもならないのだ。
「A、俺らに対抗できそうなオカルトは?」
「束になってかかれば我らの一軍と良い勝負をする程度には存在していますが、所属する軍がバラバラなので烏合の衆と言ったところでしょう」
「バラバラなら各個撃破できるな……というか、まともに戦う気が無いな?」
まあ、国も貴族も囲い込んだオカルトを他人に委ねたくはないだろう。
布陣がクーゲルシュライバーの傘の下な現状ではオカルトは命綱に等しい。
旗色が悪くなれば即トンズラする算段なのだ。
大吉の予想通りだったのだろう、Aが頷いた。
「その通りでございます。エイブラム王国以外の国家は主力オカルトを出してきてはおりません。黒軍だけなら全力で対応したでしょうがクーゲルシュライバーの能力は彼らにとって未知数。まずは通常軍とリリィのような一般オカルトで実力をはかり、主力オカルト軍を編成し決戦を挑む戦略と思われます」
「ええっ! 私、様子見ですり潰される係ですか!?」
「はい」
「ぎゃーっ!」
Aの言葉にリリィが悲鳴を上げる。
一般オカルト、ここでも不憫であった。
「大吉様、ここはガツンと行きましょう!」
「……やるの?」
ブリリアントら軍団長、おつかい疲れでやる気満々。
「我らそろそろおつかいは嫌でございます」
「そうだぜ。あいつら面の皮厚すぎだ」
「惑軍もあまりの愛の無さに不平連発でございます」
「俺も街道を注意して歩くのに疲れた」「そうだねにーちゃん」
「もう、めん、どい」
「ここは大吉様に是非ともガツンをお願いいたします!」
「そろそろのんびり散歩したいです!」
「疲れたでしゅ」「めんどいです」「ガツンですぅ」
「私も賛成。大吉様の真の偉大さを有象無象に知らしめる時」
「そして美味い酒を貢いでもらうんや」『『『サケーッ!』』』
「彼らの中にはナめている者も多くおりますので」
「わかったわかった」
ここまで赤の他人な彼らに譲ってあげたのだ。
そろそろ皆の不満も解消してやらないとな。
と、大吉はビルヒム椅子に座り直す。
少々こっ恥ずかしいが旅の恥はかき捨てだ。
さらに言うならここはエクソダス世界。
かつて大吉がイキりまくった夢の世界だ。姿形が違うとはいえそんな大吉を夢で見ていた者も多いに違い無い。気にするのも今さらなのだ。
大吉はAに聞く。
「A、本陣はどれかわかるか?」
「あれでございます。ルオ国王も出陣しておりますからちょうど良いでしょう」
「そうか」
大吉は頷き、皆に号令した。
「では、奴らの魂に黒の十四軍の勇姿を刻み込んでやろう」
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