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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
3-1.黒の十四軍、異世界遠足
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5.大吉、コツを掴む

「ほい、これでええでー」

「ありがとうミリア」


 しゅぱたん、しゅぱたん。

 住民を刺激しないように街道をのんびり歩く要塞世界樹バウルの中、大吉は新たな靴の感覚を確かめた。


「どや? サイズぴったりやろ」

「ああ。で、大丈夫なんだろうな?」

「空も飛べるさかい、地面を貫く事は無いはずやでぇ。ま、酒は必要だけどなぁ」

『『『サケーッ!』』』

「ハハハ。燃費は気にしないでおくよ」


 大吉がミリアに作ってもらったのは、大地を貫かない靴である。

 今まではビルヒム椅子で外に出ていた大吉だがいつまでも頼っていてはビルヒムに悪いと思い、ミリアに頼んで大吉一人で自由に行動出来る道具を作ってもらったのだ。

 まあ、グレムリンが靴に住んでいるので大吉一人では無いのだが。


「わ、私の至福の時間が……くぅうう靴が憎い! グレムリンが憎い!」

「靴に嫉妬すんな」

「それは靴の形をしたグレムリンではありませんか! 大吉様はビルヒム椅子がお嫌なのでごさいますか!」

「わかったわかった。普段はちゃんと座るから。な?」


 役目を奪われたビルヒム、嫉妬の嵐。


「ミリアよ、我はぶるるん役を決して譲らぬぞ!」

「俺もだぜ。自動運転は断固として拒否する!」

「内装、ボルンガ、やる!」

「大吉様の家は絶対に作らせんからな! 絶対にだ!」

「にーちゃん必死だね!」


 危機を感じたほかの怪獣組も嫉妬の嵐。


「大吉様と普通にお外を散歩出来るです!」

「こちらに戻ってからはビルヒム様がリードを引っ張っていた感じでしたもの。やはりリードを引くのは大吉様でなくては嫌ですわ」

「さんぽでしゅ」「歩くです」「てくてくですぅ」

「ニヤケ屍から散歩を取り戻した。ミリアえらい」


 世界を渡る前と同じように散歩がしたい組、歓迎。


「私は執事ですので、大吉様のやりたい事を手助けするのが仕事でございます」


 Aは大吉にぶん投げスルー。


「そいつら酒飲ませておけば満足やから。ついでにわての酒もよろしく頼むでぇ」

『『『サケーッ!』』』


 ついでにミリア、タカる。

 皆のさまざまな反応に苦笑いな大吉だ。

 まあ靴はグレムリン。ミリアが言う通りへべれけ好きな奴等なので酒を飲ませておけば満足。

 普段は大人しく皆を頼っておこう。

 と、大吉は空気椅子で待ち受けるビルヒムに座ってバウルの外に出た。


「ビルヒム、地面を貫いたら助けてくれよ?」

「当たり前でございます。貫け! 貫くのだグレムリン!」

「いや、失敗を願うんじゃない」


 大吉はミリアに用意してもらった酒を靴に少し注ぎ、おっかなびっくりビルヒム椅子から降りる。

 スタッ……確かな地面の感触が大吉の足の裏に伝わる。

 大吉は歓声を上げた。


「おお! 立てるぞ!」

「おのれグレムリーーーーンッ!」

「やかましい!」


 呪うが如き叫びを上げるビルヒム椅子にツッコミを入れ、大吉は歩き出した。

 貫かない。落ちない。マンガ穴も出来ない。

 確かな地面の感触って素晴らしいと思いながら大吉は歩き、跳ね、駆ける。


「大吉様、どうやー?」

「すごくいいぞーっ。空を飛ぶのはどうするんだー?」

「念じればええでー」


 ミリアの言う通りに大吉が念じると、フワリと身体が宙に浮く。


「おお!」


 大吉、空を飛ぶ。

 はじめはビルヒムのようにフワフワ浮いていただけだがコツを掴むと移動もスムーズ、スピーディー。


「大吉様ーっ、大丈夫ですかーっ?」

「落ちたら助けてくれよーっ」


 心配そうに追ってくるビルヒムに笑い、空を飛びながら考える。

 このコツ、どこかで掴んだ事があるような……そうか、エクソダスか。

 大吉は昔を思い出す。

 そう、これはエクソダスのゲーム感覚だ。

 寝ゲーは現実に出来ない事は意思が行動となり、ゲームに反映される。

 身体は寝ているのでボタンなどは押せない。このあたりの感覚が今とそっくりなのだ。

 それが分かれば昔取った杵柄。伊達に起きる間を惜しんで寝てはいない。

 大吉は華麗に空を舞い、クーゲルシュライバーの黒い船体に逆立ちに着地する。

 見上げる大地にはバウルにパウロ、落ちて来た大吉をキャッチする為に待ち構えるガトラスとボルンガ。空には慌てて追いかけてくるビルヒムにブリリアント。

 以前エルフィンと共に空を飛んだ時は怖いだけだったが、自分の意思で飛べるとなれば気分爽快。流れる雲も心地良い。

 ん? 寝ゲーと同じなら、もしかして靴いらなくね?

 追ってきたビルヒムに着地した大吉は靴を脱ぎ、ひょいと空に舞う。


「大吉様!」


 ビルヒムが慌てるが、大吉あっさり空に立つ。


「やっぱりか!」


 エクソダスのゲーム感覚、驚きのエクソダス世界にそのまま適用。

 どういう理屈なのかは分からないが寝ゲーと同じ。

 十四軍の誰の手も借りずに大吉は空を舞う。


「うう、大吉様が、大吉様が独り立ちしてしまわれたああああ!」

「ざまぁげふんげふん悲しむなビルヒムよ。大吉様は我らに縛られるようなお方では無いのだ」

「ブリリアント殿、今『ざまぁ』と言いましたよね?」

「いやぁそんな事は思ってないぞビルヒムよ。お前がいなければ我が椅子だったのに恨めしいなんてこれっぽっちも思ってないから安心しろ」

「思ってます! 絶対思ってます!」

「お前ら、喧嘩すんな」


 大吉は二人の言い争いにツッコミを入れてビルヒムに着地。

 そして靴を履き直し、お疲れさんと酒を注いでビルヒム椅子に座り直した。


「だ、大吉様? まだ私にお座りになってくださるのですか?」

「当たり前だろ。こんな事ずっとやってたら面倒臭いからな」

「するとぶるるんもまだ必要!」

「運転手も当然必要!」

「内装、必要!」

「家は当然必要ですな」「やったねにーちゃん」

「そうだな。気を抜いたら貫通生活は嫌だから、お前らこれまで通り頼むぞ」

「「「「「やったー!」」」」」


 エクソダスの寝ゲーとは違い、世界は違えど今は現実。

 気を抜いたら地を貫くなんて生活はゴメンな大吉だ。

 あからさまに喜ぶ怪獣組に、大吉は笑って言った。


「……まったく、可愛い奴らだ」

「「「「「可愛い!」」」」」


 怪獣組、大吉の言葉に悶え転がる。


「可愛い! 我カワイイ!」

「ネーロ様の頃もそんな事言ってた! さすが大吉様だぜ!」

「かわ、いい!」

「ぬぅおおお俺達可愛い!」「可愛いねにーちゃん!」

「さすがネーロ様いえ大吉様! このビルヒム、可愛い屍を目指しますぞ!」

「ぬぅおお目が回る! ビルヒム転がるな! そしてバウルにパウロ、迷惑だから転がるならクーゲルシュライバーの上で転がれ!」


 そして他の者も騒ぎ出す。


「大吉様! このフォルテにも可愛いのお言葉を!」

「エリザベスにもくださいです!」

「可愛いでしゅ」「可愛いです」「可愛いですぅ」

「黒の艦隊とクーゲルシュライバーにも可愛いを要求する」

「わては可愛いより酒がええなぁ」『『『サケーッ!』』』

「元の世界にお戻りになられた際は、ぜひ我らの軍団長にも可愛いのお言葉をお願いいたします」


 たった一言で大騒ぎ。

 そんな皆に笑いながら、大吉は思うのだ。

 エルフィンがこの場にいたら、とても眩しかっただろうなぁ……と。

 そして、この有様を聞いた王と宰相と将軍達は王都で狂乱するのである。


『おおお! 魔王の言葉で黒軍の軍団長達が喜び悶え転がっております!』

「何だと? 魔王井出大吉は何を言ったんだ?」

『「可愛い奴らだ」と!』

「可愛い!? あのデタラメ怪物達のどこが可愛いのだ!」

「魔王だ。まさしく魔王だ!」

「黒軍の王都到達までどのくらいだ?」

『我が領地を進む速度から考えると、あと二週間程かと……』

「防衛線の構築を急げ!」

「どんな事をしても構わん。宴会でも土下座でもとにかく時間を稼ぐのだ!」

「夢の中の者達がよく言っていた『おつかいイベント』ですな!」

「そうだ! 『プレイ時間引き延ばし』だ!」

「王国の興廃この引き延ばしにあり! 皆の者、かかれーっ!」


 王も宰相も将軍達も、何かしらのゲームには出演している。

 だからエクソダスの夢も見るし影響も受ける。

 まったくもって罪作りなゲーム機であった。

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