プロローグ.闇の渦を抜けると、そこは夢の世界
「大吉様、点呼完了いたしましたわ」
「そうか」
闇の渦の中を歩きながら、大吉はフォルテの言葉にうなずいた。
なにせ謎空間。
こんな場所ではぐれたら大変とフォルテに点呼を頼んでいたのだ。
世界の枠を飛び出そうが何だろうが戻るまでが遠足。
大吉は徒歩組を見回し、フォルテに聞く。
「バウルとパウロと黒の艦隊は?」
「大吉様、バウルとパウロはここです」「大吉様ー」
『我ら黒の艦隊も問題ありません』『大吉様ー』『やっほー』
「ちゃんとついて来いよ?」
バウルとパウロの声が闇に響き、大吉のスマホから艦長達の声が響く。
ミリアの仕業だろう、いつの間にか大吉のスマホは黒の艦隊と連絡出来るように改造されていた。
しかし声はすれども姿は見えず。
クーゲルシュライバーやバウルは見えないが存在はするらしい。
さすが世界と世界を結ぶ渡り廊下。世界の法則に囚われない謎仕様だ。
まあ、そんな事を考えても仕方ない。
大吉は闇の渦を再び奥へと歩きはじめた。
闇の渦はずっと先まで続いている。
大吉は呟いた。
「いよいよお前らの世界……えーと、なんて名前なんだ?」
歩きながら首を傾げる大吉に、皆も首を傾げる。
「黒の艦隊では普通に世界とか宇宙と言う」
「我ら黒軍も世界や宇宙ですな。大吉様の世界に名はあるのですか?」
「うーん……知らんな」
セカンドとブリリアントの答えに大吉も唸る。
地球や銀河系などの名はあるが、世界そのものの名は大吉も聞いた事が無い。
大吉が知らないだけで名があるかもしれないが、知らない時点で当たり前の名では無いだろう。
大吉の認識では世界、もしくは宇宙。
唯一無二ならばそれで良い。特別な名など必要ないのだ。
それでいいじゃんと納得した大吉だが、怪獣組が騒ぎ出す。
「では、この際ですから素晴らしい名を付けましょう」
「するってーと、あの名しかねぇなぁ」
「当然だな」「そうだねにーちゃん」
「それ、しか、ない」
「当然でございましょう。あの名をおいて他にはございません」
「「「「「「偉大なる黒島オカルト労働組合の長であり黒の十四軍の長たる我らが黒、井出大吉様が君臨なさる大吉黒世界」」」」」」
「君臨するつもり無いから」
「「「「「「ええっ!」」」」」」
俺は世界の主か? 神か?
というか長くなってるぞ? 前は労働組合無かったよな?
大吉はそんな事を思いながら闇の渦を進んでいく。
しばらく歩いていると、大吉一行の脇をシュルルンと何かが抜いていく。
ロープだ。
どうやらあやめが投げ込んだらしい。さすがオカルト、パワフルだ。
しかし……細い。細すぎる。
「え? これでどうやってバウルとか引き上げるの?」
ラベルのはがし忘れを見てみると『耐荷重200キロ』とある。
大吉を引き上げる強さは十分あるがブリリアント達は無理。ロボも無理。バウルやパウロやクーゲルシュライバーは論外だ。
首を傾げた大吉にフォルテが答えた。
「辿って戻れ、という事ではないでしょうか?」
「童話のあれか。道しるべにパンくずを置いていくようなもんか……大丈夫か?」
「さあ?」
え? 異世界ってそんなの可能なの?
そう思う大吉だがあやめが投げ込んだのだ。きっと可能に違い無い。
「もしくは強化やな。わてが『象が踏んでも壊れない』くらいにしたろか?」
「いや、象よりもバウルの方がはるかに重いだろ」
「さらにクーゲルシュライバーはもっと重い。絶対無理」
メートル存在とキロメートル存在の体積差は十億倍。
質量も同様の倍率だと象がトン、バウルはギガトン、百キロメートル存在のクーゲルシュライバーはギガトンのさらに百万倍のペタトン。
もはやスマホ検索の領域だ。
偉大な外部知識万歳と検索した大吉だが、スマホもそろそろ電波の限界。
ありがとうスマホ検索。向こうでは皆との通信機として活躍してくれ。
大吉はスマホをポケットにしまう。
「大吉様いかがなさいますか? このロープを守る人員を配置なさいますか?」
「こんな得体の知れない空間に誰かを置いていく気はない。皆で行こう」
本来ならば配置しておくべきだがここは謎空間。はぐれたら後で悔やむ事になる。
それに渦の先には大吉が頼りにするデタラメ存在がいる。
ロープはあくまで非常手段。デタラメこそが本命なのだ。
大吉はフォルテに笑う。
「エルフィンなら世界くらいサクッと渡るだろ」
「そうですわね」
信頼のデタラメクオリティ。
六年前に泣いて宇宙を切り裂いたダメ無限力だ。世界を渡るくらい楽勝。
大吉一行はそう信じて闇の渦をひたすら進み、渦の先に光を見た。
どうやら出口らしい。
エルフィン、待ってろよ。
大吉は光に足を踏み入れた。
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