9.大吉、休職届けを出す
「大事な事なので二度言いましょう。この私こそVOID幹部I、そして黒の十四軍諜報軍団長アイリス・メイなのです!」
「……A、いるか?」「はい」「ホント?」「はい」「ええーっ……」
どうせいるだろうと思って呼べはやはりいるAに大吉は問う。
アイリスはあやめ、メイは五月。だから五月あやめ。
なるほどなと納得する大吉だ。
「あの輝き直感、間違ってなかったのか」
「クロマメの人じゃねえのかよ!」
「黒よりも優先されるとは!」
「びっ、くり」
「黒を囮に直感を退けさせるとは。偉大な黒を囮に! なんと恐ろしい所業!」
「……お前ら、いい加減黒の絶対視をやめろ」
そして黒軍怪獣組、相変わらず黒で騒ぐ。
赤面する大吉だ。
そしてあやめ、なぜか皆に勝ち誇る。
「私がこちらに転移したのは三年前! 大吉さんが寝ゲーで両親からこてんぱんにされてぶるるんの前でひーこら言っていた頃なのです! 黒豆を煮込んで三年! まだ一年にも満たない皆様など赤子の手をひねるようなもの! いぇい!」
「ぐうっ……さすがクロマメ」
「勝てねえ。クロマメには勝てねえぜ」
「しかも煮込んで三年だ。この差、さすがに覆せない」
「まけ、まし、た」
「クロマメには勝てませぬなぁ」
「……お前ら、黒豆絶対視もいい加減やめろ」
というか納得ポイントがおかしい。
大吉は相変わらずな怪獣組にため息をついた。
黒の十四軍諜報軍団長アイリス・メイ、そしてVOIDの幹部I。
しかしそこはどうでも良い。一番大事なのは向こうに行けるか行けないか、だ。
大吉は聞いた。
「で、出来るのか?」
「もちろんです。フラットウェスト社の地下にゲートがありますので」
「ゲート?」
「はい。VOID幹部以外誰も知らない地下に存在する世界と世界を繋ぐ門。VOIDのV代表、フラットウェスト社の平西影社長が貫いた世界の穴。エクソダスはそこを通じて世界間を夢で繋いでいるのです」
「うわぁ……エクソダス、オカルトなのかよ」
「当たり前じゃないですか。世界と世界を夢で繋ぐ機械なんてオカルトに決まってます。そこを通れば向こうに行けますよ」
「なるほど」
「ちなみにエクソダスとオカルトの関係を誰もツッコまないのは、私の輝きスルーの力です」
「……なるほど」
フラットウェスト社、がっつりオカルト。
エルフィンが来てから何となくそうかなと思っていた大吉だが、あやめの輝きでスルーしていたらしい。
そのスルー力、地球規模。これまたデタラメだ。
ブリリアントが首を傾げる。
「しかしあやめが輝いていた事なぞ、あったか?」
「輝きすらもスルーする。それが輝きスルーの真骨頂!」
「おいおい、俺らずっと輝きに晒されてたのかよ」
「そういえば、心なしか俺の葉の光合成が増えた気が」
「まじ、かー」
「赤外線とかの不可視光ではなく輝きを無視させる。なんとすさまじい!」
そしてあやめがまた胸を張る。
「ちなみにエルフィンをこの世界に導いたのも向こうに返したのもVです!」
「「「「「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」」」」」
「皆さんをこの世界に導いたのもVです!」
「「「「「「「「「「「「えええっ!」」」」」」」」」」」」
「そしてVに入れ知恵したのは私です!」
「「「「「「「「「「「「えらいっ!」」」」」」」」」」」」
「いぇい!」
黒の十四軍、あやめを絶賛。
胸を張るあやめだ。
「そして私は夢の世界から輝きスルーでやって来ました!」
「……もう何でもアリですね。あやめさん」
「神出鬼没、壁に耳あり障子に目あり、おまえの秘密を知っている。それがスパイの真骨頂! いぇい!」
つまりエクソダスから出て来たらしい。デタラメだ。
まあ、あやめは昔から何でもアリ。輝きスルーでは無いが大吉もそこはまるっとスルーした。オカルトにマジレスするのは無意味だと良く知っているからだ。
「しかし、VOIDはなぜオカルトをこの世界に?」
「それは業務拡大のためですよ」
「業務拡大?」
「オカルトの活用ですよ。エクソダスのような夢ではなく現実で使う。その為に最初に導いたのがエルフィンです。今行われているVOIDの事業は私がこの世界に現れるもっと前、エクソダスが世に出る前から計画されていた事なのです」
「ブリリアントらを呼んだのも、その業務拡大の都合か」
「はい。まあ黒の十四軍は大吉さんの方針でまったく活用出来ませんでしたので、他のオカルトをちょくちょく導く事になったのですが」
「……すべてVOIDの掌の上か」
「はい。ですから私は最初のオカルトとして、Vにエルフィンを推しました」
「?」
首を傾げる大吉に、あやめは語る。
「私がエルフィンを推したのは大吉さんとの縁だけではありません。VOIDに対抗出来る勢力を世界に持ち込む為です」
「対抗?」
「今は良いとして、VOIDが世界に害をなす存在になるとしたら? 世界が違うなら都合が違うのも当たり前。敵対すれば黒の十四軍がいない大吉さんなんて一発でこてんぱんですよ? 私が皆を推したのはその時に大吉さんを守るため。黒の十四軍ならば何があろうと大吉さんと共に歩むと思ったからです」
「「「「「「「「「「「「当然!」」」」」」」」」」」」
オカルトにはオカルトでしか対抗できない。デタラメだからだ。
今はオカルトと世界は共に歩んでいるから良い。
しかし世界もオカルトも、それぞれに進む道がある。
それが相容れない道なら争うしかない。そのときの為の黒の十四軍とあやめは言っているのだ。
「『黒曜の騎士』Oの力はデタラメです。エルフィンも底がしれませんがOもまだまだ底が知れません。聞いた所によるとOが世界に来たのは六年前、私と同じくVに頼らず現れたそうです。Oに対抗出来るのはエルフィンをおいて他にはいないでしょう」
あやめのOへの評価半端無い。
ブリリアントがうなった。
「するとOとやらはエルフィンと互角、つまり我ら黒軍と互角という事か」
あやめが首を傾げた。
「え? 互角? エルフィンは常に片手間だったと思いますが」
「「「「「ひどい!」」」」」
「大体エルフィンが本気を出した事があるのですか? 宇宙を切り裂いた時だって号泣していただけなんですよ? それを必死こいて直してた黒軍はその程度だという事ですよ」
「「「「「うわぁん!」」」」」
怪獣組、号泣。
しかしあやめの指摘は事実。エルフィンは本気の力を一度も見せてはいない。
すげえ眩しそうだなぁ……と、本気のエルフィンを想像する大吉だ。
「しかしエルフィンがOと互角であったとしてもまだ黒の十四軍の方が不利。Vは世界間の移動という、皆さんにも出来ない能力がありますから」
「気に入らなければ追放すればいいって事か」
「どれだけ力があっても世界が違えば手も足も出せませんから。ですがエルフィンの本気ならばVの切り札である世界間の移動を会得できるかもしれません。そして大吉さんを戻す為ならエルフィンも本気を出す事でしょう。ですから私は大吉さんの決意を歓迎いたします」
「……本気出したら世界、壊れないか?」
「さぁ?」
まあ、今はどうでも良い事だ。
首を傾げるあやめに大吉は苦笑し、頭を下げた。
「じゃ、頼む」
「わかりました。決行は明日でよろしいですね?」
「ああ。会社に休職届けくらい出しておかないとな」
それと黒島支店の仕事を雄馬と竜二に頼まねば。
そんな事を考えながら、ふと思いついて大吉はあやめに聞く。
「それにしてもエルフィン、なんでそんなに強いんだ?」
「大吉さんがプレイしたゲーム全てに何かしらの形で登場していたからでは?」
「あー、そういう事になるなぁ。いや、ロボの頃には宇宙は切り裂かれて無かったような……?」
「でしゅ」「です」「ですぅ」
「そんなの細かい事ですよ」
エルフィンメイカーでは主役。
黒軍が出るストラテジではラスボス。
そしてエリザベスが出るフロンティアでは災厄。
さらに切り裂かれた宇宙はスターフリート、ファクトリー、スパイの世界設定として存在する。
主役、ラスボス、世界設定。
大吉は育成したりこてんぱんにしたり探ったりと大忙し。
エルフィンも鍛えられる訳である。
「つまり、Oにも俺みたいな奴がいるって事か」
「そういう事でしょうね」
次の日。
大吉は会社に休職届けを出し、黒島支店を雄馬と竜二とノエルにまかせて東京へと出発した。
目指すはフラットウェスト本社、地下。
向かうのは大吉、黒の十四軍、そして光の白騎士リリィ・カーマイン。
なにせ行くのは大吉だけではない。黒の十四軍全軍だ。
エルフィンと同じ王国の者はおろか人族もいないような状況では完全な侵略だ。
「私におまかせ下さい!」
「頼むよ」
リリィはエルフィンと同じ王国の伯爵令嬢。
一行と王国の間を取り持ってくれるだろうと期待しての同行であった。
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