7.デタラメも、親には弱い
「おおーっ」
「すごいですね谷崎さん!」
「まあ、条約違反ですけど」
「「「「「「「「「「「「たまやー」」」」」」」」」」」」
夜、黒の艦隊クーゲルシュライバー艦橋。
大吉と皆は米国から持ち上がっていく宇宙ステーションを宇宙から見物していた。
心配だからというのもあるが、基本的には野次馬だ。
ピロシキら暁の艦隊が補助をしているのだから大丈夫だろう。
しかしそのピロシキ、クーゲルシュライバーの隣でプカプカしている。
大吉は首を傾げた。
「ピロシキ、お前ら補助するんじゃないのか?」
『いやー、それがVOIDのOに「一人で十分」と言われてしまいまして』
「O?」
『黒曜の騎士O、オブシディアンです』
「オブシディアン、黒曜石。つまり黒いのですね」
『まあ、黒光りしてましたね』
「「「「「「「「「「「「出来る!」」」」」」」」」」」」
「お前ら、いい加減黒から離れろよ……」
ぺっかぺっかと輝く相変わらずな皆に呆れる大吉だ。
まあ、輝く皆はとにかくVOIDにも一般オカルトを超えた存在はいるらしい。
デタラメが黒の十四軍だけに集中するのも妙な話。そういった存在がそのうち現れるだろうと大吉も予想はしていた。
秘密結社VOIDが遵法精神に溢れた友好的な会社で良かったと大吉は思い、次第に地球から離れつつある宇宙ステーションを見つめた。
セカンドが巨大な宇宙ステーションの下で輝く黒い誰かを拡大する。
「なかなかの黒さ。これがOですね」
「やはり黒「それもういいから」ええっ!」
なるほど。確かに黒曜石、なかなかの黒光りだ。
大吉は映し出された黒曜の騎士Oを見て思う。
身につけた鎧と腰に差す剣はどちらも黒光り、ついでに派手。
そして宇宙ステーションを持ち上げるのに苦労している感じもない。
まあ、仮面の下では必死こいてるかもしれないが。
「くううっ! 私の装備一式と交換して欲しいくらいです!」
「もう、一式黒く塗ったら?」
「返せと言われた時に面倒ではありませんか!」
「レンタルなの?」
「国宝です。まあ、装備しても能力向上は誤差の範囲内ですが」
「……デスヨネー」
エルフィンの装備、まさかの国宝レンタル品。
強い者に強い装備を渡せば最強という事だろう。王国の黒軍や怪物達への恐怖は相当なものなんだなと思う大吉だ。
大吉達がそんな会話をしている内に宇宙ステーションはどんどん持ち上がり、ついに静止軌道に到達する。
ロケットなどの打ち上げの場合は静止軌道に持っていく為の軌道にまず乗せてから時間をかけて静止軌道に乗せるものだがさすがはオカルト。三万六千キロを見ている間に持ち上げて、いきなりの静止軌道だ。
その後、速度や軌道などの微調整をしたOが地球へと戻っていく。
打ち上げ開始からわずか二時間。あっという間の打ち上げであった。
「VOIDもすげえなぁ」
大吉が感心すると、たちまち張り合う皆である。
「私にも出来ますよ」
「「「「「「「「「「「「出来る」」」」」」」」」」」」
「それは分かってるから……って、あれ? エリザベスも出来るの?」
「組み立てと打ち上げが出来ても空気が漏れるから全部は無理です」
「あー、そういう事ね」
「力仕事だけなら聖軍でポーイです。あの程度のぶん投げ楽勝です」
「いやいや、ポイするな」
組み立てと打ち上げはどうやら全員出来るらしい。
エリザベスが出来ないと言っていたのは宇宙で運用出来る程きっちり作れないという意味であって、力仕事ならおまかせだ。
そんなエリザベスにセカンドが言う。
「重要なのは対処能力。その程度の適当さは内側から粘土詰めれば無問題」
「なるほど! それなら出来るです!」
「えーっ、そんな適当でいいの?」
「悩んでいる間に資源漏れたらもっと面倒臭い。スピードと大胆さが最も重要。クーゲルシュライバーも空気漏れ部分にゴミをのり付けとかよくやっていた」
「……なるほど」
宇宙住まい、応急処置が超重要。
いい加減でも成果が早く出せる方が優先される。根本的な改善は後でやればいいやという感覚だ。
先程打ち上げた宇宙ステーションも同じようなものかもしれない。
これから空気漏れとかを調べて何かを詰めたりするのだろう。人類にとって宇宙は未知のフロンティア。これからあの中で様々なトラブルに見舞われ、対処していく中で経験を積んでいくに違い無い。
オカルト補助がある今のうちに色々やっておけという感覚なのだろう。
大吉は呟いた。
「考えるよりやってみろか。オカルトも使いようだな」
「そうです実体験です! 大吉様、私の為にスキンシップ体験を!」
「……やだ」
「ええっ!」
べっかべっか、べべっかべっかべー……溢れる輝きを見れば無理と分かる。
目を細めてエルフィンの申し出を断る大吉。
その時、何者かが叫んだ。
『まだそんなザマなのか!』
叫びと共に大吉とエルフィンの側に現れたのは仮面の男。
大吉も、皆も、デタラメ一号たるエルフィンすらも知らない内に男は忍び寄っていた。
「……いつから、そこに」
「お久しぶりですなクロノ様。いや、こちらでは大吉様でしたな」
恭しく頭を下げたDが仮面を取れば、大吉も知る初老の男。
「……グランティーナ子爵」
「父上!?」
ダグラス・グランティーナ子爵。
エルフィンメイカーで大吉も良く世話になった王国子爵。
そしてエルフィンの父だ。
ダグラスは大吉に一礼し、険しい顔でエルフィンを睨んだ。
「お前がうまくやっている様ならそのまま帰ろうと思っていたが、このザマでは国王に断りを入れるのは無理というもの。戻るぞ! 戻って縁談を受けよ!」
「ええっ!?」
ダグラスがエルフィンの腕をむんずと掴む。
ブリリアントらをこてんぱんにするエルフィンも肉親にはそこまで出来ない。
ダグラスが叫んだ。
「V代表!」
「大吉さ……」
大吉様、と言う前にエルフィンらを闇の渦が包み込み、二人と共に消える。
カラン……仮面が床に落ちる。
「エルフィン?」
「「「「「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」」」」」
エルフィン、いなくなる。
艦橋には、唖然とした大吉と皆、そして仮面が残されるのみであった。
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