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輝け! 黒の十四軍  作者: ぷぺんぱぷ
2-5.エルフィン、いなくなる
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5.それは『愛』の違いです

「親心?」

「はい。娘が一人おりまして」


 Dは仮面越しに茶を飲み、続けた。


「とても器量の良い頑張る可愛い娘なのですが、頑張り過ぎて縁談も決まらず、決まった縁談も相手に逃げられてしまい、舞踏会に出ればお帰り下さいと言われ……娘の行く末が親としてはもう心配で心配で」

「そ、それは……大変ですね」


 岡本は妻子持ちでは無いが、親からは黒島流しになった現状を心配されている。

 親心はどっちも同じなんだなと思いながら、岡本は聞いてみた。


「娘さんはいくつですか?」

「十八です」

「まだまだこれからじゃないですか」

「こちらではこの歳での結婚は早い方でも、私の国ではいき遅れでございます」

「あ……すみません。知らずに偉そうな事を言って」

「いえ、世界が違うのですから仕方がありません」


 頭を下げる岡本に、Dの仮面が笑う。

 そして茶を飲みながら話を続けた。


「こちらの世界に渡ったうちの娘はしっかりやっているだろうかとやきもきしていたところ、逃げた縁談の相手が親共々頭を下げて参りましてね。『すまんかった! バカ息子はしかるべき者に頼んで鍛えに鍛えてもらったから、もう一度縁談を組んでくれんか?』と」

「相手が一度逃げた縁談を、もう一度組むんですか?」

「元々とても良い縁談です。娘次第ですがそれもまた良いかな……と」

「娘さんが嫌だと言ったら?」

「当然、お断りいたします……というか、娘はデタラメ過ぎますので」

「は?」

「いえ、こっちの事です」


 岡本とは違う、高貴な雰囲気を持つDだ。

 向こうの世界では貴族か王族なのだろう。

 それらの縁談は家や国の都合で決まるもの。それでも娘の意思を尊重してくれるのだから良い親だなと思う岡本だ。


「それでまあ、こちらでうまくやっているようでしたら相手にお断りをしようと思っていたところV代表にスカウトされ、世界を渡りここで仕事をしているのです」

「そうでしたか」

「……まあ、遊び呆けているようですが」

「は?」

「いえ、こっちの事です」


 ボソボソと話すDの言葉を聞き返した岡本を、Dはまたもやはぐらかす。

 聞き返したのに答えないという事は岡本に話したくない事なのだろう。

 岡本はそんな風に考え、Dの呟きをスルーした。

 今度はVが語り出す。


「Dもそろそろ娘さんに会いに行ったらどうですか?」

「そうですね。先方をあまり待たせるのも失礼ですし……しかしうちの娘、うまく行ってなかったとして素直に言う事を聞いてくれますでしょうか?」

「嫌われても幸せを考えるのは親の愛。損な役回りでもあえて演じねばならない時があるものです」

「それは負けると分かっていても戦わねばならない時ですな」

「そう、それです。愛とは戦いなのです」

「そうですね。こっそり様子を見に行きましょうか……」


 ばぁりぼぉり、ずずーっ。

 茶菓子を食べながら熱弁するVに何とも説得力に欠けるなぁと思う岡本だ。

 そういえば……Vが愛を連呼する事で先日の黒島での一件を思い出す。

 大吉と岡本の違いを黒の十四軍の皆が愛と語っていた件だ。


「あの、そちらの世界の方々はエクソダスの夢を介してこちらの世界と繋がっていたんですよね?」

「そうですね。私も私の娘も多くの夢を見ました」

「そして力を得た」

「はい。私はそれなりに、娘はとても強くなりましたね」

「その強さの違いを黒の十四軍に聞いたら『愛』と言われたんですが、起きる間も惜しんで寝ゲーしていた私と井出大吉で、どうしてここまで差が出来たんでしょうか?」


 岡本の問いにVが答えた。


「それは岡本君の愛と井出大吉の愛が違うからですよ」

「愛が、違う……?」

「はい。岡本君はエクソダスのゲーム全般に執着し、井出大吉は一つのゲームに執着した。同じ時間をかけていても貴方は広く浅く遊び、井出大吉は狭く深く遊んだ。その違いです」

「全てしっかりクリアしたんだけどなぁ」

「ただのゲームであれば多くクリアした岡本君の方がずっと優れていたでしょう。しかし夢の先の相手が実際にいれば話は別。すぐにいなくなった岡本君と一年間ずっと夢に現れ続けた井出大吉、どちらに愛を感じますか?」

「それは、井出大吉ですね」

「でしょう。時間を注ぐ事は愛の形の一つ。意図したものでは無いでしょうが井出大吉と黒の十四軍の愛はがっちりかみ合い、岡本君の愛はすれ違ったのですよ」

「そうかぁ……」


 納得した岡本はがっくりと肩を落とした。

 エクソダスの世界から見れば岡本は現れてはすぐに消える多くのプレイヤーの一人に過ぎない。一年ぎっちり現れ続けた大吉と差が出来るのは当然だ。

 そして黒の十四軍の愛と信頼を得て、彼らを強く育て上げた。

 彼らの強さは大吉のたゆまぬ導きの結果。

 関係が終わっても黒の十四軍が自らを鍛え続けたのは、育んだ愛の結果だ。

 昼を知らせる鐘が鳴り、アラン達が事務所に戻ってくる。

 岡本はアランに頭を下げた。


「すまんなアラン。俺が遊んでたせいで」

「は? 何か良くわかりませんがお気になさらず。それよりもお腹がすきました。ご飯は力の源。今日も大盛りでお願いします」

「そうだな。煮込みもそろそろ良い頃だろう」


 岡本が席から立ち上がる。

 昼の厨房は岡本の出番だ。

 そしてふと気付き、Vに聞く。


「ところで、なぜV代表は井出大吉のゲームプレイにそんなに詳しいんですか?」

「フラットウェスト社の社長とは懇意にしておりますので」


 Vはニヤリと笑った。

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