プロローグ.その世界で、僕は彼女と結ばれ……なかった。
00:01:59
視界端のカウンターが二分を切った。
大丈夫。まだ……まだ間に合う。
僕は彼女と並び、式の進行を待つ。
苦難を共に乗り越えた彼女と決めた最期の時。
僕と彼女の、結婚式だ。
「病める時も健やかなる時も、互いを思い、互いに寄り添う事を誓いますか?」
「「誓います」」
神官の言葉に僕が誓い、彼女も誓う。
僕と彼女の誓いを聞いた神官は笑顔で頷き、僕と彼女を祝福した。
「神の祝福が二人の道を明るく照らしますように。世界が二人を分かつまで」
「「世界が二人を分かつまで」」
00:00:29
カウンターが時を刻む。
「クロノ様。わたくしは、エルフィンは幸せでした。もし願いが叶うのならばもう一度巡り会い、共に歩みたく思います」
「ありがとう。僕もだよ」
僕は頷くが、その時が二度と来ない事を知っている。
だってこれは、ゲームの世界なのだから。
サービスを終了したゲームが復活する事は非常にまれだ。
だから彼女と僕は二度と会う事は無いだろう。
これは僕と彼女の別れの儀式。二人で決めた夢の終わりだ。
00:00:09
カウンターが十秒を切り、世界が色あせ始める。
夢の、終わり。
世界が終わる時が来た。
あらかじめ告知されていた事。僕も彼女も分かっていた事だ。
「それでは、誓いの口づけを」
神官の言葉に僕と彼女は頷き、唇を近づけて……
触れる前に、世界が闇に包まれた。
00:00:00
「あぁ……」
僕はベッドの上、途切れた夢に力無く呻く。
僕と彼女の世界は、こうして分かたれたのだ。
この時は。
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