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会場一位をとりたいなぁとネタを考えていたら締め切り三日前になってしまった(笑)

 ――アイドル


 それすなわち偶像。

 人々のおもいに応え、おもいを届ける。

 そしていつしかそれは希望となる。







 アイドルに休日はない。24時間365日、いつでもどこでもアイドルは小さなその身に希望を宿している。だからこそ、アイドルは人々の希望たり得る。


 今日も今日とて彼女たちは希望を届ける。



「ゆきちゃん、もう少し明るくできる?」

「わかったのです」


 ゆきと呼ばれた少女は元気よくそう返事する。

 彼女は15歳の中学生であると同時に、生ける伝説とまで言われるトップアイドルグループ『Drei(ドライ) Stern(シュテルン)』のリーダーだ。

 Drei Sternはドイツ語で三つの星という意味。ファンの間ではDSと呼ばれている。彼女たちの素性が知れないことも、生ける伝説と言われる一助となっていることだろう。中学生の素性が知れないのは当たり前といえば当たり前だが、世の中そんなもんである。


「ひらり、そこのステップ、もう少し勢いが欲しいぞ」

「……! なるほど、勢いが足りなかったのか。ありがと、みく」

「じゃあ、ひらり、みく、もう一回やるですよ」


 彼女たちは現在浜辺にいる。海の蒼の向こうの水平線をバックに、夏に発売される彼女たちの5thシングル『凪いだ海とホライズン』のMVを撮影しているのだ。

 三月の終わりということもあってまだ肌寒い上に、水着での撮影ということで最初はとても寒がっていたが、激しいダンスを何度も踊っているうちに寒さは消え、今となっては彼女たちは若干汗を掻いている。

 メイクが落ちないように小まめに休憩を取りながら撮影すること、既に5時間。10時から始めて、お昼を挟んで今は15時を少し回ったところ。


 そして、ようやく――


「はい。OKです。今ので行きましょう。本日の撮影、これを以て終了です。皆さんお疲れ様でした」


 撮影監督がそう言って、撮影は終了した。


「はぁーおわったー。お疲れ様でしたー」

「お疲れ様、なのだぞ」

「お疲れ様です」


 更衣室に行って着替えを始める。


「くたくただぞう」

「ですです」

「あはは、確かにあのポーズはきつかったね」


 水着を脱ぎ、シャワーを浴びて服を着る。三人で仲良くしゃべりながら。今はまだまだ小さな輝きしか身に宿していなくとも、いつか夜空に輝く一等星になるために、笑いあった。


 16時半ごろ、3人は帰路に着く。しかし彼女たちは疲れを感じさせず、歩調を合わせて歩みを進める。疲れを感じさせないその姿はやはりアイドルというべきだろう。


「今日は疲れたなぁ。ごめんね。ボクのせいで今日はいっぱい足引っ張っちゃった。ゆきもみくも凄いなぁ」

「ひらりは歌が上手いから、気にすることないぞ」

「そうです。ひらりは歌。みくは踊り。わたしが一番何もない……です」


 ゆきの言葉に、ひらりとみくは顔を見合わせ、くつくつと笑った。


「――なっ、なんで笑うです?」

「だって、ボクたちがこうして3人でいられるのはゆきのおかげだよ」

「ひらりの言うとおりだぞ、リーダー」

「……でも、舞台で役に立つわけじゃないです」

「何言ってんのさ。ゆきがいないと、歌も踊りもバラバラになっちゃうよ。ゆきはボクたちの(しるべ)なんだよ」


 ゆきは視線を逸らし俯いてしまう。それは明らかに照れ隠しであった。ひらりとみくはそれを見て微笑み合う。

 心地いい静寂が三人を包み込む。そんな状態がしばらく続いたところでひらりが口を開く。


「ねえ、ボクの家に来ない?」

「お泊りです?」

「うん。だめ……かな?」

「わたしはいいですよ」

「みくもいいぞ」


 ひらりはゆきとみくからOKをもらえて顔をほころばせる。

 肩を寄せ合いながら、三人は並んで歩く。まるで仲のいい姉妹のようだ。


 ゆきとみくは一度家に帰り、親に一言告げて、着替えなどの必要なものを持ってひらりの家に再集合した。ひらりのお母さんが「まずはお風呂に入ってらっしゃい」と言ったため、三人は一緒にお風呂に入ることになった。


「ひらりのお家はお風呂おおきいですね」

「広いのだぞ」

「そんなことないと思うけどなぁ。まあ、少しは広いかもしれないけど」


 脱衣所で服を脱ぎながら、もう何度目ともわからない会話をする。わりと頻繁に三人はお泊り会をする。ゆきの家でやることもあれば、みくの家でやることもある。もちろん今日みたいにひらりの家でやることだってある。

 ゆきとみくの家のお風呂は、三人で入るには少々小さく、それでも三人で入るために窮屈な思いをするのだが、ひらりの家のお風呂は三人で入っても余裕があり、おそらくあと2くらいは普通に入れる。

 下着も脱いで一糸纏わぬ姿になったJC三人は順に中に入る。


「ボクが先に洗っちゃうよ」

「わかったのです」


 ひらりが頭を洗うのをゆきとみくはお湯に浸かりながら眺める。


「髪が短いと洗うの楽そうですね」

「ボクよりみくのほうが短いじゃないか」

「みくのはわたしが洗うことが多いです」

「家でもお姉ちゃんに洗ってもらってるぞ」

「ということです。みくは自分で洗わないから髪の長さは関係ないのです」

「みくももう中学生なんだから自分で洗えるようにならないとね」

「めんどくさいのだぞ。それにどうせお姉ちゃんが洗ってくれるのだぞ」


 ゆきとひらりは苦笑する。みくのお姉ちゃんのシスコンっぷりはDSのファンまで知れ渡っている。みくの身の回りのことはほとんど彼女がやってしまうせいで、みくは年齢よりはるかに幼い。とはいえ、そのおかげでDSの妹キャラとしてファンにも人気があるのだから困りものである。


「ゆきの髪は長すぎると思うぞ」

「わたしもそう思うです。でも、マネージャーがこの長さを保てって言うですから」

「確かに、そこまで綺麗な黒髪ストレートはめったに見れるもんじゃないしね。ゆきの性格とも合ってるし。マネージャーの言うことはあってるね」


 この中で唯一、ゆきだけはアイドルとしてデビューする前にモデルをやっていた。リアルの中学生ということもあって、モデル時代からゆきのファンは多かった。とくに、中高生の女性ファンの多さはかつてないほどだった。

 アイドルになってからもファンを続けてくれる方は多く、DSで一番人気は伊達ではない。


 そんな感じの会話を続けながら、交代で頭と体を洗い、三人は身を寄せ合うようにお湯に浸かる。


「5thシングルの後は、いよいよ1stライブです」

「うん」

「緊張するのだ」


 5thシングル『凪いだ海とホライズン』は7月17日――海の日に発売される。そしてその一か月後、8月17日土曜日にDrei Stern初の単独ライブが開催される。

 ライブ自体は今まで何十回と経験している。しかし、単独ライブとなると、懸ける想いの丈は遥かに大きくなる。

 ライブに向けて、毎日歌やダンスの練習をしながら、5thシングルのMVや特典の撮影、ライブパンフレットやグッズの撮影などもしなければならず、多忙な、けれど充実した日々を送っている。


「でも、流石にMVを水着で撮影するって言われたときはびっくりしたなぁ」

「ええ、わたしもびっくりしたのです」

「……?」

「みくは何も感じなくてうらやましいよ……。ほとんど露出のない衣装だったからよかったけど」

「ひらりはビキニに短パンとラッシュガードの組み合わせ。みくはワンピース型。うらやましいです」

「あはは。ゆきはフリルの付いたビキニだもんね。モデル時代にビキニを着ちゃってるんだし、今さらだよ」

「かわいかったのだぞ」


 顔を赤くして恥ずかしがるゆきをいじったり、他愛無い会話をしたりして、三人はお風呂を後にする。

 その後、ひらりのお母さんが腕によりをかけて作ったご飯を食べて、一緒に遊んだ。途中、みくが茶碗をひっくり返したり、遊ぶのに夢中になり過ぎて宿題をせず、ひらりお母さんに怒られたりなどのアクシデントはあったものの、ゆきたちはとても楽しそうだった。

 三人で教え合いながら宿題をやった後、ひらりの部屋で川の字になって寝た。




 多忙な日々は続き、いよいよ5thシングル『凪いだ海とホライズン』の発売まで一週間を切った。

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