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第2世界線都市『オオサカ』から来た魔法姫 ~姫様、やりすぎです!~


(わたる)よ。わらわは半熟たまごを付けて欲しいぞよ」

「姫さま~、渉さまはお給料前(きゅりょ~まえ)やぁ、言うてはりましたよってに、そないな無理を言うてはあきまへんよ~」


 真夜中近くの牛丼屋の入り口。食券販売機の前で財布を開く俺の背後で、そんな情けなくも恥ずかしい事を言う和装姿の二人。


 今の俺の生活を激変させている元凶だ。


 一人はさらさらの長い髪を背中まで伸ばした、小学生くらいの女の子。本人曰く、高貴なオーラあふれる麗しい姫君だそうだが、俺にとってはこまっしゃくれた暴走チビにしか見えない。

 もう一人は、ゆったりと髪を結い上げた物腰やわらかな妙齢の女性だ。にこにこした微笑みが印象的な癒し系。俺より若いらしいが、おっとりと落ち着いているせいもあってなんだか年齢不詳だ。


「ふむ。新商品の味玉80円とやらも美味しそうじゃな」

「姫さま~、味玉の方がお高いですやろ~。わがまま言うたらあかしまへんよ~、うちらは貧乏(びんぼ)ですよってに~」


 お前らが転がり込んできたからだろ……。


(あや)は厳しいのぉ。しかし、もう少し甲斐性(かいしょ)ある男が連携者ブリッジじゃったらよかったのぉ」

「こぉら。姫さまや言うても怒りますよ~」

 綾と呼ばれた女性の声に、少し迫力がこもる。表情は癒し系の微笑みのままだ。


「ええですか~。お外で食べますのんがひさしぶりやわぁってはしゃぐんもわかります~。せやけど、ここは第5世界線の『大阪』。第2世界線の頃のようにはいきまへん~。そもそも渉さまにごやっかいになってますやろ」

 表情が変わらない綾さん。

「じょ、冗談じゃ! 戯れじゃ! 貧乏も冒険のうちじゃ。わらわは姫として恥ずかしゅうないような貧乏生活を――」

「出すよ! いいよ味玉! 80円入れたからボタン押して!」

 頼む。これ以上、大声で貧乏貧乏と言わないでくれ……。


「おお!」

 シュンとした姫様の表情がパッと晴れやかに変わった。

「そちが押すがよい。わらわたちはキカイやらデンキとやらが苦手なのは、知っておるじゃろ」

「はいはい」

「それと渉よ。やはり味玉は好みではない。わらわは半熟たまごがよいぞ」




 日本第2位の巨大都市、『大阪』。

 人情的ロマンと現実的シビアさを天秤にかける街――らしい。


 俺はそんな街に憧れるわけでもなく、とりあえず受かった大学とそのまま就職できた会社が大阪だったというだけで7年ほどこの街に住んでいる。


 大阪でも名だたるカオスな駅前――ここ京橋(きょうばし)という歓楽街でも、真夜中に近い時間帯で晩飯を食べるには牛丼屋くらいしかない。

 京阪電車の駅と、ホテルやファッション店舗が一つになった商業ビル――『京阪モール』の裏手にある牛丼チェーン店『松家(まつや)』は、駅前の賑やかさから少し離れており人通りが少ない。奇妙な二人を連れて食べに行くには目立たない店だった。


 目の前に牛丼並盛が並べられたところで――


「なあ、これ、釘やろ?」

 甲高い割れたような声が店内に響いた。


 声の主は、牛丼屋の象徴的なU字状カウンターに座っていた。

 奥まった調理場近く、紫と黄色の派手なシャツを着たチンピラみたいなヤツが頬杖をついて、留学生らしい店員の女の子にデカイ釘をプラプラさせながら喚いている。


「あ? お前んとこは牛丼にこんなもんトッピングすんのかい!」

 上手い事を言った風なドヤ顔の男に「ゴメナサイ……スミマセ……」

 小さな声でペコペコ謝る女の子店員。


 完全な言いがかりだ。あんなデカイ異物、盛る時にわからないわけがない。

「なんやこら、ツイッターで炎上させたろか!」


 店内にはまだ数人の客はいたが巻き込まれたくないのだろう、次々と出て行ってしまった。


 正直、飯がマズイ。


「早く出ようか」

 隣に座る姫様に声をかける。

 すまし顔で半熟たまごを二つに分けている姫様は気にもしていない。床に届いていない足を自然とぶらぶらさせているのを見ると機嫌がよいようだ。

「かまわん。すておけ。まずは牛丼じゃ」


「大丈夫ですかね」

 姫様越しに綾さんに話しかける。


「せやねえ。うちらは、第5世界線(こっち)の人が起こすもめ事には基本的に関わらんようにしてますよって……あ、よろしいんですのん? 嬉しいわぁ! おおきに~」

 はんぶんこされた半熟たまごを受け取った綾さんものんびりと答える。

「うちらの世界のもんが悪さしてるんなら、きっつぅにお仕置きしやんといけまへんけどな~」


 彼女たちは異世界人だ。俺たちとは違う発展をしたオオサカから来たらしい。


「そうじゃな。トンダバヤシから脱獄した男も、スイタの衛兵の武器を奪って逃走したヤツも、そち達の世界の人間じゃった。となると、あの噂は本当なんじゃろうか」

 そろーっと半熟たまごを牛丼に載せる姫様。



 姫様が居た世界で、ある研究の結果、時空間を跳躍できるゲートを造りだしたのだそうだ。そして俺たちの住むこの世界が発見された。

 新天地だ!

 調査隊が結成され、異世界に派遣された。何度も失敗したが、おぼろげながらその異世界の姿がわかってきた。


 その世界は、別の発展を遂げた「オオサカ」だった。

 魔法の代わりに、電気と機械というもの(・・・・・・・・・・)で発展した世界線のオオサカだったのだ。



「だけど第2世界線(そっち)の調査隊が、第5世界線(こっち)の世界の人間になりすまして好き放題やっている……って言ってたよね?」

「そうじゃ。勇ましき調査派遣隊とは名ばかりで、実は一攫千金を夢見る冒険者や、荒くれ者、奴隷、犯罪者……色々な者たちの寄せ集めで……という話があってのぅ」

 こちらの世界に紛れ込んで、ゲスなことをしている……ということらしい。


「もしも、この新天地で狼藉を働いておったら、全力で成敗せんといかんじゃろうとやってきたのじゃ」

 目をキラキラさせる姫様。


「せやけど、こっちの世界の人らぁそっくりに化けてしもて、うちらには見分けがつかん~て困っていたところに~」

「俺と出会った……と」

 姫様と俺のサラダにドレッシングをかける綾さん。


「しかし、なぜ、そちにわらわ達の世界に干渉できる力があったんじゃろうな」

「そうですなあ。連携者(ブリッジ)って言う存在がある~とは聞いてましたけど~」

 俺は奥の騒ぎに気が気でないが、一人で逃げるわけにもいかない。


「渉さんに触れていると、この世界でも魔法が使えるし、なりすました第2世界人の正体が見えるようになるんも、なんや不思議なもんやねえ」


 騒ぎに気を取られていた俺は、綾さんの差し出すサラダを取り損ねた。

「あ。かんにんね~」

 とっさに支えようとした綾さんの白くて細い指が触れた。


「あら~?」

 綾さんが声をあげる。

「コボルドやわ~」

 なんとものんびりした声で……って、コボルド?


 ひんやり冷たい綾さんの指が、今度は俺の指をしっかり握る。


 今度は俺もしっかりと見えた!

 牛丼屋の奥で騒いでいたチンピラの横顔が、小汚い犬人間のそれに変わっていた!


 綾さんの声に気が付いたチンピラ――いや、コボルド。

 ファンタジー世界では雑魚として有名な犬人間がこちらを見て、驚愕していた。怯える店員の女の子はそのままの人間の姿だ。


「なんじゃと!」

 俺の頭を押さえつけて椅子の上に立ち上がる姫様。

「おぉ、まことじゃな」

「姫さま~、はしたないですよ~」


「おまえら! 第2世界線の――」

 コボルトの大きな口から汚いツバが飛ぶ。


「綾! 時空回復点(タイムラインポイント)を打て!」

「おまかせください~」


 綾さんは俺の手を握ると、いつの間にか取り出した杖を天にかかげた。

「こーりん!」

 ピシっという、音の無い音が聞こえた。それ以外は周囲に何も変わった様子がない。


「降臨?」

「Call Inですわ~。この世界線に分岐を作ったんです~。ここから先、次のポイントを打つまでに起きた事は渉さまの世界では『無かったこと』に――あ、姫さま、あぶない~」

 コボルドが投げつけた小さい壺を綾さんが杖で弾いた。と、同時に俺の目の前がピンク色の花吹雪に覆われ――って、ゲホッ! ゲホッ!

 すっぱい! からい! 目にシみる!! なんだ? 紅ショウガかっ!


「かんにんな~。手を離したら魔法が使えんよってに~」


 紅ショウガのシャワーをカウンターの下に隠れてやりすごした姫様が、牛丼を抱えたまま呟く。

「まったく。食べ物を粗末にするとは言語道断じゃ」


 チンピラ・コボルドがカウンターの上のドレッシングや味噌汁のお椀を投げつけてくる。

 綾さんは両手で握った杖でそれらをことごとく叩き落とし、ことごとく俺にぶっかけてくる。

 

「ほんに、かんにんな~。渉さまに触れてんと魔法が使われへんから~」


「お前らなにもんや!」

 チンピラ・コボルドはカウンターに跳び乗り、こちらに向かって駆けてきた!

 途中の味噌汁の入ったお椀や冷たいお茶の入った透明ポットを蹴散らして突進してくる。


「そこのゲスよ。選ぶがよい」

 凛とした声が響いた。


 横手の椅子の上に、よっこらせと立ち上がった姫様。手には姫様の身長ほどの白く輝く巨大な扇子。

 あれは……。


「ハリセンか?」思わず呟く。


「あほ者! 『聖なる扇子(ホーリーセンス)』じゃ、発音に気を付けい」


 チンピラ・コボルドの動きが止まった。


「選ぶがよい。自主帰還か――」

 姫様が巨大な扇子を振り上げ、そして構えた。


「死刑のち、強制送還か」

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