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人工少女は崩壊世界を魔女と生きる

『おぉ!ついに、ついに!成功したぞ!人工少女の完成だ!』


 初めて聞いた声は、若い男性の歓喜の声だった。


『研究から実に20年ほどだ。この時をどれほど待ちわびたか!』


 白衣をまとったその男性が私の元へと駆け寄り、思い切り抱きしめる。目の下にはクマができていて、まともに食事すらとっていなかったのか酷くやせ細っていた。それでも彼は満面の笑みで、涙を浮かべながらずーっと抱き続けていた。その時の温もりが今でも忘れられない。


「機械で出来た体。心臓部の魔力炉。うん、全て問題なく稼働しているな!おぉ!まるで娘ができたような気分だ!」


 続いて体を持ち上げて、くるくると回すと満足したように私を下ろす。


「お前は紛れもなく『人間』だ!今はまだ難しいかもしれないが、いずれは多くの人と出会い、たくさんの経験をして、人と同じ『心』を持つようになるんだ!」


 あの頃は、貴方の言葉の意味が理解できなかった。でも、今ならわかる。

 なぜなら、数百年経った今でも、私は貴方と過ごした記憶をふと思い返して。


「そうだ、名前を付けなきゃな!……うーん、そうだなぁ」


 貴方の顔を思い出して。


「お前の名前はルーテだ!よろしくな、ルーテ!」


『心』が温かくなるのだから。


  ☆☆☆


「どうしたんだい、ルーテちゃん?」


 空を飛ぶ船から世界を見渡し、思いふけていた私の元へ、箒を手にした女性が船首の方からやってきた。


「ラングレーさん。……少し、記憶を振り返っていました。私が生まれた時の記憶を」


「ルーテちゃんを創った『マスター』さん、かぁ。ぜひとも会って見たいねぇ」


 彼女はラングレーさん。私が今行動を共にしている方で、悪魔と契約することで魔法の力を手にした『魔女』と呼ばれる存在だ。

 私の大事なお友達。そして、彼女と私はこの世界で唯一の……。


「……そうですね。会えるのであればすぐにでも会いたいです」


 改めて船の外へと目を向ける。

 黄金色に輝く空。大地は青白い炎に包まれ、空には鮮やかなオーロラが姿を現していた。


 この異様な光景には、今でも慣れない。どこか不気味に感じてはいても、それ以上に私はこの景色を綺麗だと感じてしまう。


「でも、どうやっても会えないんです」


 世界は変わった。長い年月の果てにこの世界は異質なものに変貌を遂げ、ついには……崩壊を始めている。

 そして、今では私とラングレーさんが、唯一の生存者なのだから。


 ☆☆☆


 ラングレーさんから聞いた話になるのだが、全ての始まりは今からおよそ300年ほど前の話のようだった。

 ラングレーさんは魔女になった際に不死の力を手にしたそうなのだが、その代償として不定期であるものの、長期的な睡眠が必要になる体になってしまったそうだった。

 そして、彼女が眠りにつき、次に目を覚ました時にはなんと300年の時が過ぎ、人類はとっくに滅んでいたそうだ。にわかには信じられないが、彼女から聞いた300年前の世界は私が知っているものとほとんど差がなかった。

 つまりは、私が生まれた時代に彼女は眠りにつき、その間に世界で『何か』が起こったのだろう。

 ではいつ、何が起きたのか。失われた300年は謎のままだ。


 ☆☆☆


「ルーテちゃんの記憶が、失われた300年を解き明かす鍵になると思ってるんだよねぇ」


 ラングレーさんは唐突にそう言うと、私の体をじーっと見つめてきた。


「ルーテちゃんの体は全身機械でできてるんでしょ?」


「はい。マスターは私が人間として生きていく上で必要な機能が全て備わっている、と」


「ふむふむ、ではこの豊満な胸も可愛らしいお尻も、凛々しい顔もそのマスターさんの趣味という事だね!」


「変な事を言わないでください」


 彼女は時折、いやらしい目で私を見てきている気がする。基本的にはいい人ではあるのだけど。たしか、初めてあった時も今と同じことを言われた気がする。


「ところで、私が鍵になるとは?」


 話が逸れかけていたので、私は咄嗟に軌道を修正することにした。


「うーん、私が300年の間眠っていたことは教えたよね?眠っていたってことは、つまり私はこの300年を経験してないんだよ。だからいくら思い出そうとしても、訳のわかんないおかしな夢しか思い出せないんだよねぇ。巨大な手に永遠と追いかけられる夢とかね」


「ラングレーさんの夢になんて興味はないです。それより続きを」


「えー、聞いてよー。他にもね?裸になった女の人に囲まれてすごい幸せそうにしている夢とかも見たんだよ?」


「だから興味は……ちょっと待ってください。いや、やっぱりなんでもないです」


 この人が私の体をちょくちょく見てくるのはもしかして?と考えたところでこれ以上は無意味だと気づいた。これ以上掘り起こしてはいけないと本能が告げている気がする。

 それに、ニヤついてほっぺたを触ってくるラングレーさんがすごく鬱陶しい。別にそれほど嫌ではないんだけれども。


「ふふふ、可愛いなールーテちゃん。」


「いいから話を戻してください!怒りますよ!?」


「ごめんねー?だってさぁ、ルーテちゃんってば全身機械でできてるはずなのにすごい可愛いんだもん!」


そこまで言うと、ほとんど脱線していた話を無理やり元に戻そうとラングレーさんは言葉を続けた。


「流石に話を戻そうか!私はこの300年を寝て過ごしたわけだけど、ルーテちゃんは違うでしょう?機械の体だとそもそも睡眠は必要が無い。実際、私はルーテちゃんが寝ているところを見たことがないわけだけども」


「はい、そうですね。人間らしく生きるというオーダーがされてるものの、流石に食事や睡眠の機能は付与されていませんからね。それが?」


「つまり!ルーテちゃん自身は覚えてないものの、300年の記録は、ルーテちゃんの中に残ってるはずなんだよねー、ってことさ!」


 ……!考えたこともなかった。

 たしかに、私は今ほとんど何も覚えていない状態だ。でも、私はちゃんと300年を生きてきた。その記録は、今も私の体の中に……。


「ですが、現に私は思い出せないのですが。何とか思い出そうともしましたけど、なーんにも思い出せないです」


「そ、こ、で!この私、魔女ラングレーさんの出番というわけ!」


 ババーン!と派手な演出と共に決めポーズをとるラングレーさん。それは別にいいのだが、魔法。こんなことに使わないで欲しい。


「ところでルーテちゃん、魔術と魔法の違いってわかる?」


 と、唐突にそんな質問をしてきた。


「いえ、そのような知識はないです。そもそも、魔女という存在すら知りませんでしたから」


「簡単に言えばね?魔術はあくまで人間の生みだした力なのさ。こうやって手から炎を出したり」


 パン!と手を叩き、ラングレーさんが手から小さな火球を生み出す。ほんのり暖かくて、本物の炎なんだなと直ぐにわかった。


「これ自体は普通の人間にもできる。魔術も極めればルーテちゃんのような人口少女を生み出すことも出来ちゃうんだけど、それが限界なのさ」


「限界?」


 魔術は万能ではないってことさ、とラングレーさんは何故か小声で囁くように呟いた。


「一方で魔法はとても万能。空飛ぶ船を一瞬で作り上げたり、不死の肉体に変えたり━━━━━あるいは、世界を崩壊させたり、ね?」


 そして彼女はニヤリと笑って私の顔に限界まで近づいてきた。この時初めて少しだけ、少しだけ彼女が怖いと思ってしまった。まるで、私にはなんでも出来るんだと言われてる気がして。


「なんて、冗談だよ?流石にここまで世界を変えることは出来ないよ〜」


「お、驚かせないでくださいよ……まるで」


「……まるで?」


 言葉を出しかけて、少し迷った。まるで彼女が世界を崩壊へ導いたような言い方だったから。

 そんな訳が無い。だってラングレーさんは私にいつも優しくしてくれて、妹のように可愛がってくれてるのに……。


「なんでもないです。ごめんなさい、ちょっとだけ疑っちゃいました。もしかしたら、ラングレーさんがこの世界を……」


 ふと、外を見た。青白い炎に燃える大地を超え、火山地帯へと変わっていた。本当に世界は崩壊している。もしこれを、ラングレーさんが行ったのであれば、なんて考えた自分が恥ずかしい。


「疑うのも無理はないさ。私ってばミステリアスな女だからね!少しばかり秘密があるくらいがいいんだよ!」


 よかった、ラングレーさんはいつもの調子だった。ちょっとふざけてて、面白い。相手をするのは少し疲れるけど。


「長くなっちゃってごめんね?ようするに、魔法を使えばルーテちゃんの中の記録を思い出させることが出来るかもしれない、ってことさ。とはいっても、私は機械に疎くてね。ルーテちゃんを直すこともできないんだよ。魔法の力もこればかりはね?」


「それじゃあ、どうするんです?」


「答えは、至って単純なものさ」


 ラングレーさんはそこまで言うと、コツン、と箒で床を叩いた。すると、そこにはいつの間にか、巨大な羊皮紙が現れていた。


 よく見てみると、何か不思議な……大きな円状の図形に、細かな線や文字が刻まれていた。


「……これは?」


「これは、時間逆行の魔法式さ」


「えっ!?」


 流石の私も同様が隠せなかった。なぜなら、彼女がやろうとしている事がとんでもないものだということに気がついたからだ。


「つまり、過去に遡ってルーテちゃんのマスターさんに会おうってこと!そうすれば、ルーテちゃんの記録を呼び戻して、失われた300年の秘密が明らかになるかもしれない、でしょ?」

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