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三日ヶ野兄妹は異世界と通信なんて出来ませんっ!

 20**年、人類はついにギガを遥かに上回るテラbpsの通信を成功させた!


 そのあまりにも膨大な量のデータは物質の構成にすら影響を与え、なんの変哲もない「ただの物」を「ある程度」制御することを可能にしたのだ!


 とはいえ、出来ることといえば精々新聞をめくったり、鞄を浮かせたりする程度だがね。世の中に影響を与えるには実にスパイシーだった。


 それは、例えばこの愛通高校だって変わらない。


 愛知県の中でも平均的な学力をもち、就職率94%の工業高校だ。


 なんで6%が就職できてないかって?そりゃ、1%は問題児、残りの5%は進学するからさ。


 これを聞いたみんななら、わかるだろうけれど、就職率なんて大概宛にはならないのさ、天才がご入学するような高校の就職率は低いからね。


 そんなこととは露知らず。


「やった! ここに入れば将来安泰、エスカレーター就職間違いなしだね!」


 だなんて、あまーい幻想を抱いて入学した兄妹がいた。


「アズマにぃ! ちょっと! 早くしてよ!」


「アキ、いいかい? 急がば回れって言葉があるだろ、まずは落ち着いて、薄っぺらい朝のバターサンドを食べ……」


 「それ、あたしが作ったやつなんだけど? 文句があるなら走りながら食べないで後でとっときなさいよ! そ、れ、よ、り、も! なーんで、おにぃの方が準備が遅いの? 普通、逆じゃない! 女の支度は時間がかかるって知らないの? もし、おにぃが後5分を繰り返さなきゃ、今頃あたしは教壇に立って自己紹介していたはずなのに!」


「知ってる。たぶん立てるよ、廊下にだけど」


「あぁーもう! 最っっっ悪な気分!」


 二人は通学路を走っていた。くたびれたサラリーマンが、通学路を走る制服を着た少年少女の姿を見て活力を得たことを、二人は知りはしないだろう。


 え、気持ち悪いって? それはすまない。住宅路って言うのは大抵、朝、外に出る時間が被るものだし、横目で見るくらい……ダメ? しょうがないなー。


 ともかく、二人の兄妹は曲がりくねった道を急いだ。ほんのちょっと信号が点滅している間に渡りだしたり、ブロックに蹴躓いたりしたけれど、それよりも重要なのは入学式に遅刻したってこと。


 キーンコーン、カーンコーン。


「まずいよ、アキ! ベルは始業の合図だ」


「わかってる! でも見ておにぃ、ほら、そこに校門が見えるわ! やっと学校についたのよ!」


「ははは、やったなアキ! 今、チャイムが鳴ったってことはギリギリセーフってことだ。これで僕らも高校生だ!」


「素敵! ハグして!」


 むぎゅう、と音がするような抱擁だね。兄妹愛って尊いとは思わないかい?


 それに比べて……なんだあの鬼の形相をした教師は。あぁそうか、入学式に遅刻するような生徒に怒らない教師はいないだろうな。


 今なら頭で餅が焼けそうな様子の教師が二人に話しかける。


「なぁ、二人の仲を咎める気はないんだが……君達はもう少し時間を気にした方がいい」


 声をかけられた二人は素早く、身を離し、起立の姿勢を取った。あぁ……もう少しそのままでもよかったのに。


 比較的賢いアキは、こういう時の対処法を128通り程知っていた。


「はぁい、先生。気分はどう?」


「たった今、最悪になった。君達のせいでね」


 できるとは言っていない。


 アキは、助けを乞う様に兄を見つめた。


 とうの兄は息をまだぜーはーしているけれど、なんとか答える。


「すみません、僕ら、新入生なんです。少し道に慣れてなくて、迷ってしまって」


 嘘だ! 事前に、入念に、調べていたじゃないか。さっきだってここまで、迷いなく真っ直ぐ走ってきているじゃないか!


 しかし、とても残念なことに、初対面の教師がそんなことを知るよしもない。それをアズマはわかっていた。なんて、たちの悪いガキなんだ!


「そうかそうか、それは大変だっただろう」


「えぇ、そうなんです。なのでどうか遅刻は見逃してくれませんか?」


「それなら君達には残念なお知らせがある。一つ、君達はこの学校には入学できない」


 えぇ!? 待って、待ってそれは困る。物語が終わっちゃうじゃないか! 二人のニート生活の話なんて聞きたくないぞ!


 驚いた兄妹はお互いを見つめ、目をパチクリさせたのち、教師に向き直った。


 兄の方が口を開く。


「そんな!? どうして?」


「おまけにもう一つ、さっきのチャイムは始業の合図ではない」


「じゃぁなんなの?」


「決まってる。入学式が終わった合図さ」


「「うっそ!?」」


 兄妹の息はいつもぴったり、だがそこでコンビネーションを見せても事態は好転しないぞ!


「でも、ほら入学証明書もちゃんとここにある! 学生証だってほら! この前ポストに入ってたやつ」


 アズマは、鞄の中に大切に入れていた証明書を取り出して見せびらかした。首にはしっかりとカードがかけられているのもわかる。


 あぁ、カード型の学生証なのか。最近は手帳型のやつ、なくなったのかな?


「まぁ、落ち着きなさい。今さら慌てられても困るよ。ここの決まりでね、この時間になったら一旦校門を閉じなきゃいけないんだ」


「そこをなんとか!」


「無理だね」


「一生のお願い!」


「ダメ」


「お願いします!何でもしますから!」


 それを聞いた教師の顔が一瞬だけ悪い顔になったな。今絶対、エロいこと考えただろ貴様。


「へぇ、何でも……ね?」


「えぇ! 何でもします! お願いなので入れて下さい!」


「しょーがないなー、今回だけだぞ?」


「本当ですか! ありがとうございます! この恩はしばらくの間、忘れません!」


「だが、一つ条件がある」


「「え」」


 また、ハモった。仲いいなぁ、この二人。


「この壁の上の方に、煉瓦の隙間がみえるだろう? あそこに君達の学生証を差し込みなさい、カードキーになってるから」


 おいおい、確かに門のわきに煉瓦の隙間は見えるが、高すぎないか? 5mはあるぞ。


「先生、背伸びしても届きません! 無理です!」


「そうか? だが、ここの生徒でいたいのなら届かせるしかないな。無事に入れたらすぐにホームルームに向かうといい。ではな、健闘を祈るよ」


 そう言うと教師は兄妹を弾き飛ばし、無慈悲にもバタンと門を閉じて去っていった。


 閉じられた鉄格子の門は道端のカエルなら通り抜けられるだろう。


 兄妹が、自分達が人間であったこと今日ほど後悔する日はないだろうね。


「畜生! こんなことなら遅刻なんてしなきゃよかった!」


「アズマにぃ、それ当たり前」


「悪いとは思ってる」


「ならいいよ」


「ありがとう、愛しい妹」


「でも、どうしよう? おにぃのせいで、私達ニートまっしぐらよ?」


 アズマはうーんと唸った。


「上にあるスロットに学生証を通せばここを通れる。どうにかして、学生証を届かせないと!」


「ねぇ、アズマにぃ、学校から配布されたこれを使ってみない?」


 アキが鞄から取り出したのは学校指定の端末だった。学校用のスマホ、とも言える。



「なるほど! ここは愛通高校、愛知県を代表する無線通信を自称する学校だ。つまり、端末が配布されたのは……」


「通信を使って学生証を飛ばすためって事ね! アズマにぃ、頭いい!」


 アズマは意気揚々と、首に下がったカードを外して、端末を向ける。


「……おにぃ、できそう?」


「ダメだな、どれがどれだかさっぱりだ。キャプチャを開いてみないと。まずは学生証にかかってるパスワードを解析するんだ!」


「おにぃ、それって学生証をクラッキングするってこと?」


「その通りだよ、アキ」


 アズマは自分の端末をモニターモードに変化させた。これにより、アズマの端末は周りの無線を可視化させることが出来るようになった!


「キャプチャ開始! まずは受信強度の高いビーコンを探すんだ」


「ビーコンって?」


「物体が自分の存在を知らせるために発してる電波さ、それを見ればパスワードを知るための手がかりになる」


「ふむふむ、おにぃ賢い!」


 画面を大量に流れてくるパケットの山、そこからアドレスもわからない学生証のパケットを探し出すのは並大抵のことではない。


 だが、幸運か偶然か、この兄はそれを突き止めることに成功した!


「見つけた!」


 アズマは一瞬だけ喜んだが、その後すぐ、しかめっ面になった。


「おにぃ、どうしたの?」


「この学生証、パスワードかかってない……」


「なんて、ザルなの!?」


「そうだよな、自然にあるものはみんな独自にパスワードがあるはずなんだ。パスワードなしとかあり得んよな……いや、待てよ、学生が誰でも簡単に接続出来るようにあえて解除してあるのか?」


「なるほど! それなら説明がつくわね」


「とにかく、これなら簡単に学生証と通信できる。校舎に入れるぞ!」


「やったぁ! おにぃ、早速やろう!」


「よし、まかせろ!」


 アズマは端末をマネージモードに戻すと学生証に向かって構えた。


「おにぃ、呪文を唱えて!」


「おーせんてぃけーしょん・あそしえーしょん! 飛べ! 僕の学生証!」


 すると、学生証はふわりと飛び上がる! そのまま、するりと壁の隙間に吸い込まれていく……!


 ゴゴゴゴゴ……


 音を立てて、門が開いた。役目を終えた学生証がひらりと落ちてきたのをアズマは華麗にキャッチする。


「よし、行こう! ホームルームはこの先だ!」

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