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元ニートな英雄

 俺は、ずっと自分の気持ちに対して素直に生きてきた。


 高校は、好きな子がいる高校に入りたくて、家から遠く離れた高校を選んだ。

 大学は、受験の為に勉強するのが嫌で、底辺と言っていい大学に言った。

 大学を卒業してからは、社会の歯車になるのが嫌で、大多数の内の一人となるのも嫌だったから……



 俺は、ニートになった。


 ニートになったからって特別な人間になれるわけもなく、ただ時間を怠惰に消費し、親に泣かれ、そこから目を背けたくてアニメやゲームで現実逃避をしていた。

 ゲームの中の俺はヒーローで魔王からお姫様を救ったり、ドラゴンを倒したりする。

 でも、ロード時間などに画面がふと暗くなった時の俺は、ヒーローでも無く、目元に大きな隈を作ったヒーローに憧れる不健康そうな穀潰しだ。


 なんとなくカーテンを開けると、青空が広がっていて、ただ何となく外に出ようと思った。


 外は春なのでまだ少し肌寒いけど、普段は家に篭っている俺にとってはそれが新鮮で、その少し肌を撫でる爽やかな寒さを楽しみながら、記憶を頼りに昔、遊んでいた公園へ歩いていった。


 周りの視線が怖くて頭を下げながら、いつからこんなに自信の無い人間になったのだろうかと自嘲しながら少し歩くと、見覚えのある公園に着いた。


 公園には、子供が数人いるだけで、そういえば今はちょうどお昼時だったから、ほかの子供達は昼食を食べに行ったのかな、と考えながらベンチに座る。

 公園に来たのはいいけれども、特に何かをやろうとかいう意味を持たずにただ、ボール遊びをしている子供たちを眺めながら、ぼーっと黄昏れる。


 昔は俺も友達とボールでサッカーなどをしていたなと過去の記憶を思い出し、最近はボールで遊んでいないなと思う。

 俺が大人になったからなのか、単に今の俺が友達などいない、いわゆるボッチだからなのか、考えるが恐らく両方だろう。


 そんな小さな事をいくつも断続的に考えていると、視界のすみに、ボールを公園の外に出してしまったのか、僕の座るベンチの近くの出入口から子供が飛び出していくのが、見える。

 そちらの方を視界に収めると、子供の方にトラックが走ってくる。

 子供はボールを拾うのに夢中になっているのか、その状況に気付いていない。

 トラックの運転手も、小さい子供が見えていないのか、止まる気配は無い。


 誰かが子供を助けるだろうと周りを見るも、他に大人は見当たらない。


 この子供を助けられるのは、俺しかいないという事実にぶち当たり、俺は勢いよく立ち上がり、運動不足のせいか悲鳴をあげる足を全力で動かしながら子供の方へ走っていく。


 こんな、ニートの俺よりも未来ある子供の方がよっぽど大事だ。

 それに、一人しか助けれないけど、幼い頃から憧れていたヒーローに俺はなれるんだ。

 多分、今の俺はゲームの主人公よりもヒーローしている筈だ。

 なんて、馬鹿みたいな事を考えながら子供を突き飛ばす。

 怪我はすると思うけれど、死ぬよりかはマシだろう。


 それに、確実に死ぬって訳でもないんだし、と考えながら俺は大きな衝撃の後、意識を失った。


 ※※※

 知らない天井だ……


 まさか、この言葉を生きている内に言うとは思わなかった。


 辺りを見回して状況を確認すると、小さなテレビの付いた棚に白い壁、そして、スライド式の大きめの扉がある。

 他に、枕元には線が繋がったスイッチがある。

 ふむ、どうやら俺はカーテンがしまっているので場所は分からないが、病院に運ばれて、ベットに寝かされていたようだ。


 概ね、自分が置かれている状況は理解出来たが、少し不可解な点がある。

 まず一つめは、かなりの広さがある部屋にも関わらず、俺のベット等が真ん中にぽつんと置いてあるだけで、他に患者がいないどころかベットすら無い。

 経営が厳しい病院なのだろうか?

 その割には、部屋が綺麗だし……

 取り敢えずこの問題は置いておこう。


 二つめは、俺の身体に傷が一つも無いということだ。

 まだ、服を脱いで身体中を見たわけでは無いが、どこも痛いところは無いし、腕にも傷は無い。

 かなりスピードが出ていたトラックに轢かれたんだ。

 たとえ、生きていたとしても、身体中が傷だらけで、いくつもチューブが身体と繋がっているはずだ。

 どうせ、俺の頭じゃ考えても仕方が無い。

 だから、これも取り敢えず置いておこう。


 三つめは、先程の二つに比べて、もっと現実的で今、直面している重大な問題だ。


 身体が動かない。

 ベットの柵に手足が固定されている。

 俺はニートだが、人に暴力を振るったことはないし、ましてや拘束されるほど、暴れた事なんて絶対にある訳が無い。


 この三個の事から考えられる俺の現状は、


 1 実はトラックは俺にぶつかる直前に停止して俺は怪我をしなかった説

 しかし、これでは俺が一人で病室にいる事と拘束されている理由が分からない。


 2 トラックの運転手がヤバイ人で誘拐された説

 しかし、わざわざ病室の様な所で閉じ込める理由が分からない。

 普通は人を誘拐したら、もっと暗くて汚い部屋に閉じ込めるだろう。あくまで、俺の勝手な考えだけれども。


 3 実は俺は精神病患者で今まで見ていたモノは全て夢だった説

 恐らくこれが一番、可能性が高いと思う。

 これならば、怪我をしていない理由も病室に隔離されている理由も拘束されている理由も説明出来る。

 けど、これが事実ならば相当辛い。

 今までの友達との思い出が全て夢だったとか気が狂ってしまいそうだ。


 もし、どれかが当てはまるとしても、そのうち人が来るはずだから、取り敢えず誰かが来るのを待っておくか……






 ヤバイ、トイレに行きたい、漏れそう……

 誰か早く来てくれ!



 ーーーーーーー

 あれから、尿意をなんとか誤魔化しながら30分程たったが、誰一人として部屋に来ない。もう、忘れられているか、この病院に人が居ないと考えるべきだろう。

 それより、漏らしてもいいかな?

 もう、膀胱が限界だ。少しでも気を緩めた瞬間に俺の聖水がベットを濡らすことになる。


 もう、漏らそうと力を緩める瞬間に扉が勢いよく開けられた。

「ちょっと、待ってください! い、今すぐ拘束を解くので漏らさないでください!」

 物っ凄い美人さんが空色の青い髪を振り乱しながら走ってきて、拘束を外してくれた。

 って、誰だよ?この美人さんは。

「ていうか、取り敢えずトイレは何処!?」

「トイレは扉を出てすぐの所にあります! 早く行ってください!」



「ふぅ……なんとか間に合った。ありがとうございます」

 そう言いながら俺は、恐らく俺を拘束したであろう犯人を見た。

 第一印象は青いだ。

 髪も目も着ている服すらも青だらけ。

 他に、言うべき事といえば、美人というぐらいだろう。

 なんというか、芸術品といいますか、完成された美といいますか。取り敢えず人間離れした美しさだ。

 普通なら違和感を感じるはずの青い髪や目も、全く違和感を感じさせずにいる。

 まじで、神が全力を出したとしか思えない。

 神様よ、贔屓し過ぎじゃぁねえですかねぇ……


「ところで、俺は一体どういう状況なんだ? 確かトラックに轢かれた筈なんだが」

「おーっと、説明を忘れてましたね。端的に言うと貴方は死にました。そして、なんと転生できちゃいます!」

 死んだ。うん、ここは分かるよ。うん。そりゃ、トラックに轢かれたんだからそうなるよね。うん。

 でもさ、転生って何よ?ここは現実だぜ。アニメとかラノベみたいにヒーローもいなければドラゴンも勇者もいない現実

 リアル

 だぜ?転生なんてある訳が無いだろ。


「やっぱり、信じていない感じですねぇ。まぁ、そりゃそうですよ。私でも、突然そんな事言われたら相手の頭を心配するか、自分の頭の心配をしますしね。だから、気乗りしないですが説明してあげますよ」

 気乗りしないってなんだよ。こっちは、お前のせいで意味わからない状況に陥ってんだよ!

「じゃあ、説明しますね。まず、人間って死にますよね? 自殺だったり、病気だったり、寿命だったり。じゃあ、ここで問題です! 私たち神様からすると自殺は殺人に入るでしょうか?」

 サラッと、衝撃の事実を言ったね、今。え、この美人さん神様だったの!?


 もしかしたら俺はとんでもない事態に遭遇しているのでは……。

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