それぞれの死にたい理由
制服少女の名前は、佐藤瑞潤。名前の読み方は、ソユン。韓国人の母と日本人の父の間で産まれたハーフだった。彼女はその名前や尖った性格、綺麗な容姿から、高校へ進学すると同時に、学校内ヒエラルキーを牛耳るリーダー格となる女子グループの虐めに合っていた。元々、家の中では、離婚して生活費を風俗で働く母親のストレスの捌け口として、虐待も受けていたようだ。そんな、どこにも居場所を見出せなくなった彼女は、丁度、小遣い稼ぎのためにSNSを通じて援助交際を始めたらしい。最初はパパ活といった異性とデートするだけのものに留めていたのだが、満たされない承認欲求ゆえに、どんどん状況の悪化はエスカレートして行き、最終的にはSMプレイメインで出会いを求めるようになったそうだ。
「で、そこで出会ったクソ野郎に中出しされた後、生理が来なくなって、ああもう、人生どうでもいいやと思ってあの公園で死のうと思った矢先、オジサンが先に首くくろうとしていた訳」
「なるほど」
ソユンと俺は現在、俺の住むアパートの一室で朝を迎えていた。俺は地面の座布団に座り込んでビールをグビグビと飲んでいた。一方、ソユンはベッドの上で枕をくるくると手で転がして遊んでいた。
「じゃあ、オッサンはなんで死のうと思ったの」
「まあ、俺にとって唯一の親友が会社で虐めを受けてたらしくて、半年前、首吊り自殺した。最初は、あいつの悩みを聞いてあげられなかった自分自身の不甲斐なさを責めていたけど、生きるために働くのに、働くために死んでしまうようなクソ社会なに嫌気が差して、気づいたら、どこにも居場所がなくなっちゃってね」
「フーン。じゃあ、あたしと一緒だね」
「そうかもね」
俺はチラッとと彼女の方を向いた。公園では薄暗くて分からなかったが、部屋の照明に照らされたソユンの腕や太腿は、確かに、鞭や紐や爪の跡で傷ついていた。
俺の視線に気づいたのか、ソユンはニヤッと笑った。
「何、あたしの身体をそんなにジロジロみちゃって。公園の続き、する?」
「バーカ。そういうんじゃないよ、お前は」
「とかいって、本当はやりたいだけのくせに」
「当たり前だろこの淫乱JK!!」
俺はその場でむくりと立ち上がると、ソユンの元へと素早く移動して、彼女を強く抱きしめた。下心はあるかないかといえば、確実にあった。しかし、彼女の傷跡をみていると、抱きしめずにはいられなかった。
すると、反対方向を向いたソユンから、グスングスンと鼻を啜る音が聞こえた。その湿った鼻音が大きくなれば大きくなるほど彼女を抱きしめる力を強めた。
「本当は・・・グスン・・・やりたい・・・ひっく、だけのくせに」
「そうだね。俺は君とやりたくてやりたくて堪らないよ。だけど、今日のところは一緒に休んでみるのも、悪くないんじゃない?」
強がっていた彼女は慟哭していた。泣いて泣いて泣いて、そのまま涙になって消えてしまうのかと思えるくらいに泣いていた。その度に俺は、彼女が消えてしまわないようにしっかりと抱きしめた。
午前6時。閉め切ったカーテンの隙間から僅かながらに陽が差した。抱きしめる傍ら、彼女の胸の感触を少し味わったのは、ここだけの秘密だ。