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青春を終わらせたのはお前だ  作者: ニャンQ
2/5

死に損ない達

 コイツの目的は一体なんだ?

制服少女の隣にちょこんと座ると、彼女は依然として頭をガックシとベンチの背もたれに預けて、満月を見上げていた。

 その瞳を覗き込むと、満月を映し出しているようでいて、実は何も映し出していないのではないかと思われるくらい曇ったガラス玉のような虚無感に満ちていた。


 「おじさん、ズボン脱ぎなよ」


 「え」


 思わぬ一言に心臓がドキッと鼓動する。

そ、そりゃあ、俺だって男だ。こんな若くて、エロくて、顔も可愛らしい制服少女に誘われたら、先ほどまで人生に絶望して自殺しようとしていた人間も、ちょっとは性的な何かに期待してしまうことがない訳でもない。要は、滅茶苦茶に勃起をしていた。

 だが、と。だが、彼女の生気を欠いた瞳を見たあの瞬間から、俺の一物は見事にしなしなに萎えていた。しかし、それが何故かはよくわからなかった。


 「いや、君、大丈夫?」


 「何アンタ。そういう流れになったら、急に優しくなるんだね。男ってこれだからさ・・・」


 制服少女の軽蔑の色を灯した瞳に射貫かれる。

誤解されて焦った俺は、必死に顔の前で右手を左右にブンブンと振った。


 「違う違う。そういうんじゃない」


 「じゃあ何よ」


 「なんていうか、君の瞳が、夕方、鏡越しに映った俺の瞳と似ている気がしたから」


 「は?」


 確かに、は?である。確証はない。直観だった。昨夜、午後8時、アルコールが抜けきらない重い身体をベッドから何とか這いずり出して、地面に無造作に並べられたビール缶をガランガランと鳴らしながらふらふらと立ち上がると、まるでこの世の終わりかのような暗澹たる心持ちで洗面台へと向かい、ゴシゴシと洗顔作業を始めた。

そして、パッと顔を上げて鏡に映った自らの瞳を眺めると、決して一閃の光も入ることのない真っ暗闇の虚無が広がっていたのだ。その瞬間、俺は決意した。死のう、と。


 「何それ、口説いてるの?」


 「ち、違うって。そういうんじゃないって」


 「いるのよねー。やれる女と好きな女を区別できない男って。ホント下らない」


 「話を聞けよ!!」


 「ほーら。図星を突かれると、すぐ怒鳴り散らす。本当に男って単純明快。これ、やって即別れた日には、俺を騙したな!!って激情して、高校にまで乗り込んで来るタイプの粘着男だわ。あー気持ち悪い。帰る」


 制服少女は隣に置いてあった学生鞄を無造作に掴み取ると、バッと立ち上がって、トコトコと公園の出口の方へ歩き出した。

 普通だったら、そこで終わりでよかった。自殺未遂の童貞無職が深夜女子高生にストーカーする絵面は社会的に終わっているからだ。しかし、彼女の学生鞄からぶらぶらと顔を出しているものを目に入れたとき、俺の直観は確信へと変わった。


 「ちょっと待てよ」


 「ハイ。深夜、家出した女子高生が自殺未遂の無職の被害に合う。ネットニュースくらいには乗るんじゃないかしら?」


 「これ、何だよ」


 俺はそいつの丸開きな学生鞄からぶらぶらとぶら下がるものを右手で掴むと、引っ張って街灯に照らし上げた。


 「ちょ、やめろ、変態!!」


 制服少女は学生鞄を引っ張る。しかし、学生鞄を引っ張れば引っ張るほど、俺の掴んでいるものはスルスルと姿を現した。


 「今時の女子高生が麻縄なんて、何に使うんだよ」


 「は?べ、別に。縄跳びの練習だし・・・」


 「嘘下手か!!今時、どこの女子高生が深夜に麻縄使って縄跳びの練習するんだよ!!」


 「はー?あんた無職だから社会知らないんでしょ。今時の女子高生の間では麻縄で縄跳びするのが流行ってるんですよーだ!!」


 「いいや、違うな、本当はお前」


 「・・・」


 制服女子は先ほどまでの必死な抵抗とは打って変わって、表情を読み取られたくないのか、下を向いて俯いていた。


 「死にに来たんだろ?」


 彼女の肩が震えていた。鼻を啜る音が聞こえる。街灯に照らされて地面に延びた影にぽつんぽつんと雫が落ちて、土を濡らした。あぁ、今日はなんて日だ。

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